第28話 バカとバカ


やっていることはゴミ漁りなのだが、これはこれで宝探しのような楽しさもある。


パジーとナイラが黙々と熱中していると、いつの間にかシバが目の届く範囲にいなくなっていた。


「またあいつは……。少し目を離すとすぐこれだ」

「探す?」

「放っとけ。あいつの方がここに詳しいんだ、心配いらんだろ。俺らはさっさと仕事終わらせて、こんなとこからおさらばしようぜ」


パジーがゴミ漁りに戻りかけたとき、ナイラの体が神経質にピクっと反応した。

彼女は本能的に振り返り、先を見透かすように言う。


「なんか音がする」

「あん?」

「低い音。こっちに来るみたい」


彼女の言葉通り、ゴミ山の向こうから、男たちの集団が姿を見せた。

子供向けの飛行艇に乗った彼らは、ブーンと低い走行音を鳴らしながら、地上から数十センチ浮かんでやってくる。


乗り物には不釣り合いなほどでかい男たちだった。四肢は太く、刺青が掘られ、柄が悪い。


「おいおいおい、そこのお嬢さんよぉ」


真ん中の一際でかい男が飛行挺から降りてくると、割れたサングラスを外してナイラに言った。


「このシマが誰のもんだかわかってんのかぁ?俺様に挨拶もなしに漁っていいと思ってんのかよぉ?」

「……お邪魔してます」

「挨拶すればいい訳じゃねぇよぉ⁉」


彼は憤慨すると、手を差し出して凄んだ。


「お前、チケットは持ってるんだろなぁ?」

「チケット?」

「この山に入るときぁ、スラムの人間以外は俺らフロマージュ団から入場チケット買わねぇといけねぇルールなのよ」

「チーズくせぇ名前だな」パジーがナイラの耳元でぼそっと呟く。

「私たち、ここのスラム出身です」ナイラは平然と嘘をつく。

「何ぃ?」


彼は目をギョロッと見開いて睨んだ。

二人はその反応を見守っていると、彼は破顔一笑した。


「そうかぁ!そりゃ俺っちの勘違いだった!悪かったな、存分に儲けろよ」


彼は鷹揚に手を上げると、飛行挺へ戻っていった。


「バカで助かった……」ナイラが呟く。


そのとき、別の方向からやってきた仲間らしき男が彼に向かって叫んだ。


「親分、もうひとり無許可で漁ってる奴がいました!」

「何ぃ⁉ふてぇ野郎だ!行くぞ!」


彼らは飛行艇で波乗りのように山の高さに上下しながら、ゴミの奥へと消えていった。

ナイラとパジーは顔を見合わせた。


「絶対シバだ……」

「追いかけるか。バカとバカを会わせると面倒だ」


二人が、フロマージュ団の消えていった方へ急いで後を追いかける。


彼らの背中が視界に入ったとき、その前には案の定シバがいた。

絵面的には厳つい不良に囲まれてカツアゲされている若者だ。


「くそ、間に合わなかったか」パジーが悪態をつく。


「チケットを出せ」


親分と呼ばれていた男が上から凄んだ。が……


「身分証を出してください」


シバは一切動じない。


「先にチケットを出せ」

「いいえ、身分証を出すのが先です」

「いいからチケットを出せって言ってんだ!」

「いいから身分証を出してください!」

「終わるの、これ?」

ナイラがパジーに尋ねる。


「ん?あ、パジー!ナイラ!」


シバが二人の姿に気づいて満開の笑顔で手を振った。


「なんだ、仲間か?あいつら、スラム出身って言ってたが、もしかしてお前もスラム出身か?」

「違います!彼らは本職の警察仲間です」

「なんだと⁉」


フロマージュ団の面々がどよめく。

ナイラとパジーが同時に額に手を当てた。



――――――――――――――――――――


次話、ナイラが珍しく動揺します。





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