4th Dead 『その展開"まさに予想外"』

 俺の名前は、北川ナガレ。



『さてさて……発破遊びもそこそこに、チャンバラごっこと洒落こもうかァ~』



 適当な地面に突き刺しておいた武器を抜き乍ら、慌てふためくゾンビどもの前に躍り出るゾンビ刈りの化け物"死越者(エクシーデッド)"だ。



『ヴアアアアアア――

『グガアアアアアアア――

『グオオオオオオオオ――

『やかましい』

『ヴエエエエ!』『ヴォエエエエ!』『ヴッバアアアア!』


 騒ぐゾンビどもを爆弾で蹴散らす……これで残り一つ。だがそろそろ補給用のドローンが到着する頃だ。


『それに、爆弾以外にも武器はまだまだ届くしなァ』


 裏方から性能テストを頼まれてた武器が幾つかあったハズだ。

 その辺諸々も兼ねて、こいつらで思う存分"遊び尽くす"としよう。


『ちったあ長く耐えてくれよ。新作試す前に全滅されちまったんじゃ、こっちもやってらんねぇからなァ。

 読者はてめえらが俺によって蹂躙されるのを望んでる。俺の暴れっぷりとてめえらの散りザマに期待してるんだ。

 てめえらも一応登場人物の端くれなら、読者の期待に応えられるよう頑張ってみやがれってんだ』


 そんなこんなでクソ以下のメタ発言交じりにノダチを構える俺だったが……


「いやあああああああああああああああああああ!? なんなんですのおおおおおお!?」


 ……折角の雰囲気に水を差すのは、聞き覚えのある女の悲鳴。

 一体何事だよと気だるげに声のする方を見れば……


『ヴアアアアアアアアッ!』

『ヴエエエエエエエエッ!』

『ブボウッ! ボボボバウッ!』

『ギュイギギャギギャギィーッ!』

『ヴゥゥゥゾダヅォンボゴグォオオオン!』

『ヴィヅォオドグッヅェルゾグッドヴァズボオオオ!』

『ヴオッベケレングッギイイイイイイイ!』

『ズィガガダイズッテブダゴオオオオオオオ!』

「なんですの!? なんなんですのコイツらっ! 昭和のやっすいホラー映画じゃないんですのよ!? 一体どうして追ってくるの!? ほんともうマジ最悪ですわぁぁぁぁぁ!」


 案の定、件の女――劣等どもに追われてたのを助けたら気絶してたんでとりあえず物陰で寝かせといた令嬢っぽい姉ちゃん――が、迫りくるゾンビどもから逃げ回っている。

 囲いに使ってたゾンビ除けが破壊されたとか、バッテリ切れなんてことはねぇハズだ。恐らく意識が戻ったはいいものの、記憶が飛びでもしたか混乱して囲いの外に出ちまったんだろう。


『何やってんだよ全く……しょうがねぇ、助けっかァ~』


 俺個人、あの姉ちゃんには生きてて貰わなきゃ困るんだ。果たしてゾンビどもの目的が何かは知らねえが、ともあれ追い回されてる以上守ってやらなきゃいけねぇだろう。


『死ぬなよ姉ちゃん、今行くぜェ~』


 想定外の出来事は不本意だが……"姫君(プリンセス)守りながらのゾンビ刈り"ってのも、趣があって悪くねえと、そんな風に思えば何とかなるんだ。


(言うて姫君つーか令嬢だし、あのビジュアルと喋りはどっちかっつーと性根の腐った外道女……世に言う"悪役令嬢"っぽいけどなァ)


 まあいいさ。こちとら怪人"死越者エクシーデッド"。

 見た目も中身も悪役ならば、守る女も悪でいい。むしろそっちがお似合いさ。


==========

屍人コープス個体解説

『メスガキ屍人/文釣 心呂(あやつり こころ)』

 ナガレに襲い掛かったばかりに返り討ちに遭い、全身火炎瓶塗れにされカタパルトで飛ばされ派手に燃え尽きた屍人。その身を以て彼の邪悪性を読者に知らしめるという、ある意味では偉業を成し遂げたであろう個体とも言える。享年16歳前後。

 生前は首都圏のさる私立高校に通う二年生であり、生来の美しく愛らしい容姿と愛嬌の良さから来るある種のカリスマ性と巧みな話術、隙のない知略でもって学校をほぼ実質的に支配していた恐るべき人物。

 彼女にしてみれば他人は自分に平伏し従い尽くすのが当たり前であり、自分に勝てる者はいないと思い込んでいたようである。

 生前は生涯独身にして恋人もいなかった心呂であるが、実は小学校中学年時代より密かに異性として意識していた同級生の男子がおり、然し生来のプライドの高さからその男子をも見下していた彼女は自らの内なる想いを伝えられず、さりとて男子を我が物とする夢を諦めるつもりも毛頭なく、

 あまつさえ『彼は私の運命の相手で、私と結ばれ、私のものになるべき存在だ。こんなにも可愛くて賢い私が想いを寄せているのだから、彼の側から私の魅力と想いに気付き告白してくるのが当然だし、遠からずそうなることは確定していて、何があっても覆りはしない』と根拠もなく信じて疑わなかった。このため生前は男子へ事あるごとにちょっかいを出したり突っ掛かっては、どうにかして振り向かせ我が者にしてやろうと躍起になっていた(現在の高校へ入学したのも彼を追う為であった)。

 だが一方男子はそんな心呂を、その挙動や性格の故に心底忌み嫌っており、まして好意など到底抱く筈がなかった。実際中学校を卒業した日の放課後、執拗に心呂から言い寄られ腹を立てた男子はハッキリと『お前なんて殺したいほど嫌いだ』と拒絶の意思を伝え、関係に終止符を打ったつもりであった。

 然し尚も諦めなかった心呂は高校入学後も男子を追い続けた。当然全ては徒労に終わり、男子の心呂への嫌悪感は加速度的に増大していくわけであるが、当時彼女は秘密裏にある恐ろしい計画を実行に移そうとしていた。

 正攻法では通用しないと気付いた心呂は、支配下に置いた学校関係者らに男子を徹底的に苦しめるよう命じ、限界まで追い詰められたタイミングで自ら彼に手を差し伸べ救う……『壮絶なイジメを受ける男子生徒を救い、数多の加害者らに一人敢然と立ち向かった勇敢な女子高生文釣心呂』を演じるマッチポンプでもって、男子生徒を我が物にせんと画策したのである。

 計画は順調に進んでいった。下級生同級生は元より上級生や職員さえも支配下に置き、自ら手を汚さず校内総出で件の男子を苦しめさせた。そうして計画もいよいよ大詰めのタイミングになって、予想外の出来事が起きてしまう。

 規格外の苦境に精神を病んだ男子が、駅のホームから線路に身を投げ自ら命を絶ってしまったのである。

 結果、彼の親族は大切な家族を失ったのみならず関係各所への莫大な賠償金支払いに追われ借金漬けとなり困窮。後の調査により男子の遺書が発見され彼の死因が壮絶なイジメによるものと判明するとメディアはこぞってこの事実を報道。然し心呂の支配下になく、予め先手を打っていた私立高校の理事長が政府関係者の親族を頼りメディアに圧力をかけ『男子を死に追い遣ったのは女子生徒文釣心呂ただ一人である』との偏向報道を行わせ、彼女一人に罪を着せて自衛しつつ、蜥蜴の尻尾切りとばかりに心呂を退学処分としまんまと事態を収束させてしまう。

 この時心呂はせめてもの抵抗として支配下に置いていた数多の学校関係者を煽動し理事長への反撃を試みたが、男子の自害を知った時点で全校生徒及び職員は彼女を完全に見限っており支配下になかったため失敗。以後は自室に引き籠もり、責任転嫁の罵声をぶつけ合う家族に怯えながら自傷行為に及ぶようになる。

 僅かに幸いなことは借金漬けとなった男子の遺族が本件を何故か示談で済ませたことで彼女自身に前科がつくことはなかった点だが、それもここから始まる真なる惨劇の序章に過ぎなかった。

 遺族は賠償金支払いの為違法な金融機関、所謂闇金を頼らねばならなかったのだが、この闇金業者、利益を確実なものとすべく『債務者に何らかの事情がある場合それらを加味し再審査、債務者の関係者(主には借金の原因となった者)に返済を代行させる』との些か風変わりなスタンスを掲げており、取り立ての矛先を文釣家や学校関係者へと向けたのである。

 一説には人間ではないとも噂される業者らの力は凄まじく、文釣家の面々や心呂を野放しにしていたと見做された学校関係者らは借金の返済に追われ、特に悪質と見做された中心人物らは違法労働や臓器売買を強いられ多くは最終的に悲惨な形で命を落とした。心呂自身も当然取り立てからは逃れられず、さる小児性愛者の富豪に高値で売り飛ばされ、筆舌に尽くし難き地獄を味わわされた挙げ句、富豪に縄で首を絞め上げられながら慰み者にされ絶頂と共に息絶えその生涯に幕を閉じた。

 尚余談であるがその富豪は大陸在住であり、心呂の亡骸は最終的に富豪の部下らによって残らず水産飼料に加工され漏れ無く養殖魚の血肉や糞と成り果てた。

 このため彼女の遺体が現存している筈はなく、故に屍人は世間一般にイメージされる”死体が変じたゾンビ”とは異なる形で発生したものとする説を後押ししていると言える。

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