第31話 援護を頼んだ! お前らの分を背負ってきてやる!

「そんなことできるの!? 今だって近づくことすらできてないのに!」


 スナオは言ったが、ユラは理解したようで頷いた。


「…………あの突進をするの?」

「そう。あれでなら魔動歩兵も引き離せる。竜源弓を発動したネネカでさえ目で追えなかったあれを使えば」

「…………でも、竜力使うし、吐くでしょ」

「一度や二度ではなくならない」


 はず、と自分の中で言ってみる。


『まあ、全力なら体感五回くらいが限度でしょうね。吐き気を我慢すればですけど。妾が取り憑いて戦うよりは竜力の消費が抑えられるのは事実です』


 妖精の華討伐へ向けて、竜力を抑えられる。


「スナオがここまで僕を背負って運んできてくれたおかげだな」

「でも、その後は? もしネネカを背負って戻って来れたとして、魔動歩兵は追ってくるはず」

「逃げる。で、殺される前に、妖精の華を討伐すれば、魔動歩兵は枯れる」


 スナオはぎょっとして、


「無茶言うよね」


 とは言ったけれど、言葉に反してその目は輝いていた。


「すんごい楽しそうだけどさ」

「お前はそういう奴だよな。ユラは?」


 尋ねると彼女はこっくりと頷いて、


「…………やる。やんなきゃ。早くしないと九の字たちも大変だから」


 狼狽はすでにない。ユラは自分を取り戻して、しっかりと魔動歩兵を見ている。


「よし、じゃあ」


 僕は自分自身を鼓舞するように、言った。


「援護を頼んだ! お前らの分を背負ってきてやる!」


 スナオとユラが僕の背を叩く。


「託したよ、ヒイロ!」

「…………ネネカのために全力で援護する」


 行くぞ、ナキ。


『はい。竜力を節約しながらできる限り補佐します』


 僕たちは駆け出す。


 ネネカの位置は真っ赤な魔動歩兵の後方先で、頭を打ち付けた影響ですでに気を失ってしまっている。


 一度魔動歩兵の脇を通り抜けて、ネネカを背負い、こちらに戻ってくる必要がある。


 つまり、突進は二度。


 妖精の華に使える回数は三回になってしまう。


 であれば、


 今のうちに突進の距離を測っておく必要がある。一度の突進でどのくらいの距離を進めるのか、逆に進んでしまうのか。


 魔動歩兵はツタを振って、僕たちを襲う。ユラとスナオが僕の両脇でツタを弾き落として、援護してくれる。


 魔動歩兵との距離が徐々に縮まる。魔動歩兵の左側ががら空きになっている。僕がそちらに一歩進めたのをユラははっきりと見ていて、確実に通れるように援護してくれる。


「行くぞ」


 僕は竜源刀を全力で発動して、地面を踏ん張った。景色も魔動歩兵も一瞬で後ろに飛び去って、僕の身体が魔動歩兵の後ろに飛び出す。


 止まったのはちょうどネネカのそばだったけれど、同時に強烈な吐き気が襲ってくる。


『おえええ。おええええ。ぺったんこに吐きかけてしまいそうです』


 あとで殺されるぞ。


 唾を飲み込むようにして吐き気を抑えると、ネネカを背負って、振り返った。


「ああ、まずいな」

『まずいですね』


 僕たちは同じ光景をみて、同じことを言う。


 魔動歩兵はこちらを見ていた。


 今度は援護がない。それどころか、ネネカを背負った状態で向こうに突進しなければならない。


 奴は僕がどうやってすり抜けたのかを理解したのだろう、ツタを周囲に伸ばすと、両脇を塞ぐように地面に突き刺した。


 竜の血の染みこんでいるはずの地面なのにその赤いツタはまったく溶けることなく柵を作り出していく。


『どうしましょうね』


 言ってナキは僕の頭の中に戦術をばらまいた。


 どれもこれも僕の身体を酷使してようやく達成できるもので要するにナキを身体に取り憑かせなければ無意味。


『それだと妖精の華が討伐できませんからね。うーん』


 僕はその戦術の数々を見ながら、一つ思いついたものを選び取る。


 これなら多分いける。


『それですか? うーん。ああ、そういうことですね。……いけますかね』


 やってみるさ。


 僕はネネカを背負った状態で、駆け出す。


 魔動歩兵がぐんとツタを伸ばして、攻撃を始める、その前に、僕はその場から姿を消して、ツタは僕がいた場所に突き刺さった。


 僕の身体は宙を舞う。


 突進を上空に行う。


 当然、僕の身体は射出されるように魔動歩兵の上部へ飛び、真っ赤な身体を越え……



 越えられない!



 ネネカを背負っている影響だろうか僕の身体は魔動歩兵の頭と同じ位置にある。


 いや、


『踏んづけましょう! ……おえ』


 ナキの言葉に従って、僕は足を伸ばすと、魔動歩兵の顔面を踏みつけ、さらに一歩踏み出した。


 僕の背中でツタが幾本も宙を突き刺す。


 あっぶない!

 背中のネネカがやられるところだった。


 僕の着地と同時に、ユラとスナオが背後を援護してくれる。ツタを弾き飛ばして妖精の華向かって駆け出す。


「…………ネネカ! ネネカ!」


 隣を走りながらユラがネネカの頭を治している。


 一方スナオは後ろを振り返って魔動歩兵の状況を確認している。


「柵を作ったのが徒になったね。引き抜くの大変みたいだよ」


 振り向くと確かに、魔動歩兵はまだこちらを追ってきていない。


 ツタを伸ばして攻撃してくるが、これだけ離れてしまうと届かないらしい。伸びきってしまって道の上にビタンと落ちる。


「…………大丈夫みたい。眠ってるけど。ヒイロ、ありがとう」


 ユラはネネカの様子を診断して、僕に礼を言ったけれど、僕は強烈な吐き気でそれどころじゃなかった。


――――――――――――――


次回は明日12:00頃更新です。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る