第22話 [監督不行き届き]
「まあね。おれとしてはヒイロが二人と一緒にいることのほうが驚きだよ。久しぶり元気だった二人とも。ま、大方、昨日のヒイロの活躍に目がくらんだ主役馬鹿が突っかかったってところだろうけどさ。行動が手に取るように解るよね。ユラさんも子守が大変だよ、ほんとさ」
「うるさいばーか。ばーかばーか。あんたは島の外で戦えばいいでしょ。いっぱい魔動歩兵いるんだからさ。それとも何? 兄と一緒に戦わないといけないのかしら!?」
「喧嘩すんなよ」
呆れて僕は言う。
何があったのか知らないけど、今一応さらし者みたいになってんだからさ。なんでより目立つようなことをするかな。
「ふん!」
とネネカが鼻息荒く言って、スナオから離れるように、距離をとると、スナオは、
「怒ってるねえ。もっと再会を喜べば良いのに。その方が絶対人生楽しいよね。ヒイロもそう思わない?」
「お前は人生を楽しみすぎというか面白がりすぎだからもう少し自重した方が良い。島が沈んではしゃいでるんだろうけどさ」
「そんなわけないじゃん!」
スナオはむっとした。
結構本気で怒ってるのを見て僕は少し驚きつつ、
「いや、だってそう思うだろ。鍛冶場で炉が爆発したときもお前、目キラキラさせて竜火石追加しようとしてたし」
「それとこれとは別だよ」
「別じゃねえよ! 僕の働き口がなくなるところだったんだぞ!」
スナオは「ああそうか」と苦笑して、
「それは悪かったよ。でもさ、今の状況は誰も笑ってられないでしょ。おれの故郷が沈んだんだからそこは大真面目だよ。だから、逃げ遅れた人を助けてたのもほんと。……ちょっと戦闘に集中し過ぎたけど」
「ちょっとね」
もう一度スナオの首にぶら下がった札を見て、それからユラと、少し離れた場所にいるネネカをみると、
「で、ユラたちとスナオは知り合いなんだな」
「…………そう。スナオは訓練生時代の同期」
唐突にユラが話し出した。
「え、なに?」
「…………わたしとネネカとスナオは守護官の訓練生時代の同期。第二一六期生。キキョウ島で一緒に学んでた」
「ああ、そういうこと? それで知り合いなのか」
「そうだよ!」
とスナオは言って笑みを浮かべる。
「その頃からネネカとは犬猿の仲なの?」
「んー……」
スナオは苦笑して黙ってしまったけれど、対して、心的障壁をまったく持たないユラは口を開いて、
「…………んんん。二人は昔、恋仲だった」
「あ?」
「…………すきすきちゅっちゅの仲だった」
「気持ち悪い言い方しないでよ!」
少し離れた場所で聞いていたネネカが結局戻ってきて言う。
地獄耳かよ。
というか……、え?
全然想像できない。
ネネカもそうだけど、特にスナオに恋人とか全然想像できない。
「それに別に恋仲だったわけじゃないわ! ただの腐れ縁よ! 家同士の関係が深かったってだけ!」
「…………でも幼なじみで、小さい頃はすきすきちゅっちゅだった」
「ユラ! うるさい! 若気の至りって奴よ! 訓練生時代にはもう嫌いだったわ、こんな奴!」
主役馬鹿は若気の至りではないのか。
でもま、つい最近まで恋人同士というのは想像できなかったけれど幼い頃に、幼なじみとして、ちょっと好き合うみたいな関係なら容易に想像できた。
それを恋人同士と呼ぶのかは疑問だけど。
すきすきちゅっちゅかは知らないけど。
幼なじみ、家同士が深い仲、と聞いて、僕は二人の目を見た。
共に竜眼。
その希少性についてはそれほど詳しくないけれど、少なくとも、ヨヒラ島の守護官では数えるほどしかいなかったし、九の船でもあまり見かけない。
ふむ。
「ネネカの家もスナオのとこみたいに代々続くような守護官の家系なの?」
「そうよ! 過去の血族には巫女だっているし、『数字持ち』だっているわ! 主役のあたしにふさわしいでしょ」
「それは物語によるだろ」
とそこに、罰を受けている僕たちが逃げていないか見に来たのか、九の字がやってくる。
その首には、
[監督不行き届き]
と書いた札が下がっている。
自分で書いたのか。
「さてさて罰を受けている諸君。そろそろその札を外してもいい時間なンだけどね、その前にアタシ直々にお話しておきたいことがあるンだ」
九の字は両手を腰に当てて言う。
「なになに? ご褒美くれるの!?」
ネネカが顔を輝かせる。
お前いま罰受けてたんだぞ。もう忘れたのか。
九の字は、しかし、ネネカのその言葉を受けて、
「まあね、ネネカちゃんにとってはご褒美になるのかな? まあ受け取り方次第だよね」
そう言って、僕たち全員を見回すと、
「情報収集が終わって、準備が完了したよ。明日、妖精の華を討伐に行く。華が咲いて、魔動歩兵を生み出し始めてて、時間が許されないからね」
ついにそのときが来た。
コハクの目を隠し、魔法の暴発を防ぐ薬を作るために必要な素材。
妖精の華を討伐する。
「きっと大変な戦いになる。特に妖精の華は真っ赤で、竜源装を持ってるからね。……ヒイロ君、君がそれを壊すンだ」
「はい」
もちろん、僕は頷いた。
「さて、そこで、この四人で一つの班を作ってもらうことにしたンだ。真っ赤な妖精の華が持つ竜源装をヒイロ君に壊してもらうには、超至近距離まで近づかなきゃいけないからね。……君たちはその戦闘方法にこの船の中で誰よりも慣れてる。この班はいわば、ヒイロ君護衛班って訳だね」
――――――――――――――
次回は明日12:00頃更新です。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます