第21話 [突撃馬鹿][主役馬鹿][子守失敗]
僕の首にはいま、
[私は使い魔二人と暢気に話してお友達になってしまいました]
と書かれた紙の札が下がっている。
九の字直々に書いたもので、なかなかの達筆なのはいいのだけど、これを首に提げて甲板に立つのが罰になるのかというと不明。
僕と同じようにネネカの首には、
[突撃馬鹿]
の四文字が大きく書かれた札が下がっていて、彼女は九の字に、
「書くなら主役って書いて! 主役って書いて!」
とかお願いしていた。
罰の意味を理解していないのは明らか。
九の字は願いを聞き入れたのか、ネネカの札の隅の方には小さく[主役馬鹿]と追記されている。
ネネカはご満悦だった。
絶対罰になってない!
「いつか主役ってだけ書かれた札を首にさげるのよ!」
とか息巻いているし。
まずは札をつけられないようにしろよ。
「役名を書く札じゃないだろこれ。見ろ。僕のやつ文章だろ」
「あんたは使い魔のお友達役ってことでしょ。脇役のあんたにはお似合いじゃない! あたしは主役、あんたは脇役。これではっきりしたわね!」
手合わせで決着をつけると言ってたのは何だったのか。
僕の疑問をユラも持ったようで、
「…………ネネカは手合わせで負けたから主役じゃない」
「あたしは負けてない!」
「…………でもあのままやったら絶対負けてた。ネネカは使い魔に救われた」
「そ、そんなことないもん!」
ネネカはむっとして反論する。
ちなみにユラの首には、
[子守失敗]
の札が下がっている。
九の字公認で子守だった。
この少し前、ユンデとアギトがものすごい勢いで去って行った直後、船に戻ってきた九の字に船の一室に連行された僕たちは、使い魔との会話を逐一聞き出された。
逐一というのは船で待機しているはずなのにどうして九の船を離れて手合わせなんぞしていたのかとか、僕が船から船に跳べないこととか、僕が竜源装を発動すると壊してしまうこと、そして、僕に師匠がいる(面倒だからすでに別の島にいるという設定にした)こととか、そういう全てを含めて全部だ。
と言っても話をしていたのは主に僕とユラで、頭に血の上っていたネネカはその時点で[突撃馬鹿]の称号を授与されて、猿ぐつわまでされていた。このとき僕まで札を下げられるとは思ってもみなかったけど。
「ほんとは使い魔に出遭ったら真っ先に逃げて黒い信号を上げなきゃダメなンだよ。さっきの話から察するに、ヒイロ君は師匠とやらから戦い方しか教わってないみたいだから知らなかったかもしれないけどね。他の二人は訓練生だったンだから習ったでしょ? そうだよね、ユラちゃん」
「…………習った。でもヒイロが情報を聞き出そうとしてるのが解ったから黙ってた。ユンデはおどおどしてたし、危険じゃないと思って」
「まあね、そのおかげで大魔女とかすごい話を聞けたけどさ。もしユンデのおどおどが演技で、本性を現してたら三人だけじゃなくて九の船に乗ってる人まで被害があったかもしれないンだよ。魔法で一瞬なんだから」
「…………竜の血が近くにあるから魔法はつかえない」
ユラは言ったが、九の字は苦い顔をして、
「それがねえ、どうも使えるみたいなンだよ。氷の柱がね、建物の上に立ってたンだ。竜の血が染みこんだ赤土のところだけ綺麗に消えてたンだけどね。つまりね、竜源装とか竜の血とかで魔法は消せるけど、発動までは抑えられないみたいなンだよ。完全に新しい使い魔だってことだね」
「…………竜源装を発動できるだけじゃなかったんだ」
ユラはそう呟いた。
「ま、魔動歩兵や使い魔についてはさ、今までの常識にとらわれないようにしないとね。そして、今まで通り危険が迫ればちゃんと報告すること。いい?」
ユラと猿ぐつわを噛まされたネネカが頷く。
「さて、本来なら仕事もせずに外に飛び出して手合わせをしていた時点でネネカちゃんとユラちゃんには罰があるし、信号弾上げなかったのもまずいンだけどね、ま、ヒイロ君が使い魔から情報を得たし、それをユラちゃんが補助したから少し軽くしておくよ」
罰は執行するのかよ。
と言うので、現在、僕たちはこの札を下げて、甲板に立っているというわけ。
さらし者といって過言ではないはずなのに、ネネカは主役という文字が入っていれば何でもいいのか両手を腰に当てて胸を張っている。
ユラはすぴすぴと寝ている。
というか、
「何で僕まで立たされなければならないのか。僕が何をしたというのか」
「きっと戒めなんだよ、ヒイロ」
そう言ったのは俺の隣に立っているスナオで、お前まだこの島にいたのかとは思うのだけど、話を聞くとどうやら昨日中央から船を引き連れてきた後、キキョウ島に避難する訳でもなく、そのまま九の船に残って捜索隊に加わっていたらしい。
それはいいけどさ、
[私は撤退命令を聞かずに戦い続けました]
僕はスナオの首に下がった札を読み上げた。僕のとまったく同じ達筆の札。
「何でお前までそれつけてんだよ。流行ってんのかこれ?」
「いやあ、久しぶりに集団での戦闘だったからさ、集中し過ぎちゃって聞こえなかったんだけど、いつの間にか撤退命令が出てたみたいなんだよね。全然気づかなかったよ、あはは」
何笑ってんだ。
「なんでお前まだこの島にいるんだ? 島の守護官たちは軒並みキキョウ島に逃げたんだろ。一緒に避難したんだと思ってたけど」
「だってさ、逃げ遅れた人を助けなきゃいけないでしょ? 置き去りにはできないよ」
置き去りにできないとか、見捨てることができないとか、そういう言葉の部分では確かに、ネイロを見捨ててしまった僕も共感できたけれど、
でも、
「お前、そういうことする奴じゃねえだろ」
「ええ? そんなことないよ」
笑みを貼り付けたままスナオは言う。
嘘くさ。
「戦いたかっただけでしょ! とっとと島出なさいよ、好戦的七光り!」
と、僕の隣で黙っていたネネカが口を挟み、スナオを睨みつけた。
僕はネネカを怪訝な目で見て、それからスナオに視線を向ける。
「なに? 知り合い?」
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次回は明日12:00頃更新です。
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