第12話:危うくスルーしてしまった

***


 その日は一日中、笑川の周りに目を配った。

 和田が近づいたり、何か怪しい動きをしないかを監視した。

 もちろん彼以外にも、笑川の周りで誰かストーキングのような行動をする男子がいないか見張った。


 さすがに女子トイレの中までついて行くわけにはいかない。だけどそれ以外は、笑川から目を離さずに一日を過ごした。


 だけど笑川に近づいたり、遠くから笑川を見つめるような男子の姿は、誰もなかった。


 ──そして一日の授業が終わった。


 今日は自宅の最寄り駅で落ち合って一緒に帰るように、事前に打ち合わせてある。

 前回の反省を生かしたのである。

 うん、俺はやればできる子なのである。


 だから駅まで別々に歩いた。電車も同じ車両に乗ってはいたが、お互いに知らぬふりをして、自宅最寄りの駅まで着いた。


 改札を抜けてエスカレーターで地上に上がる。

 そこで待ち合わせしていた笑川えみかわ 瑠々るると合流した。

 ここからは徒歩で15分ほど、彼女の家まで歩くだけだ。


「あのさホムホム」


 並んで自宅に向けて歩きながら、笑川が何げなく話しかけてきた。


「ん? なに?」

「今日、気がつかない間に、制服のブレザーのポケットに封筒が入れられたんだよね」

「ふぅーん」


 笑川が最初、コンビニでジュースを買うくらいの当たり前っぽい言い方するから、危うくスルーしてしまった。


「それがまたストーカーさんからのお手紙だったのだ」

「そっか……はっ? な、なんだって!?」


 ちょっと待てよ!

 いったいいつの間に、制服のポケットに手紙を入れたんだよ?

 今日一日、あれだけ警戒していたのに気がつかなかった。


「どんな手紙だったんだ?」


 笑川はブレザーのポッケから白い封筒を取り出した。

 表には何も書かれていない。


 俺はそれを受け取って、封筒の中から手紙を取り出した。


『なぜ僕の警告を無視するのだ。もしも君が他の人に好意を寄せるなら、僕はその人を決して許さない。前回僕がそう言ったことを忘れるな』


 なんだこれ。明らかにこの前の脅迫文の続きだ。


「なぜ僕の警告を無視するのだ……って、どういうことだ?」

「ホムホムと仲良く一緒に行動してることを言ってんじゃない?」

「うぐっ……」


 確かにそんな気がする。

 くそっ、俺のせいかよ。

 別に笑川は俺に好意を寄せてるわけじゃない。だけど俺たちは昨日から一緒に行動してるから、ストーカー野郎から見たらそう見えるのだろう。


「ブレザーを脱いでどこかに置いたりしたか?」


 今日の記憶を探っても、笑川がそんなことをした覚えはない。だけど念のための確認だ。


「ううん。今日は一回も脱いでない」


 やっぱりそうか。──ということはつまり。

 誰かが笑川自身に近づかないと、彼女のブレザーに手紙を入れることは不可能だ。


 今日俺は一日中笑川を見張っていた。

 しかし彼女に接近した男子はゼロだ。

 いや、念のために笑川にも確認をしよう。


「誰か、近づいて来た男子に心当たりは?」

「ううん。誰もいないよ」


 だとすれば……誰が、いったいどうやって手紙を笑川のブレザーポケットに入れたのか。

 ──うーむ、わからん。


 犯人のヤツはなにかトリックでも使ったのか。

 それはわからないけど、ストーカー野郎に『してやられた感』が強くて、めちゃくちゃ気分が悪い。


「くっそ、ムカつく」


 ──そんな気分を抱えたまま、俺は自宅に帰った。

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