4章第8話 狂気の末路

 頭がおかしくなって思考停止となれば、もうとどめを刺すだけ。サーキュがルークを動かし私のホーンを取った。そしてそのルークを私がナイトで取る。


 これでとどめ。滑車をうさ耳のメイドさん達によって滑車の回転数5回転分の締め付けを食らったサーキュは血の混じった泡を吹き出し、体中血があふれだして息絶えた。


 お試しでやったつもりがあっさりと終った。チェスのチャンピオンと聞くからもっと楽しませてくれると思ったが、大したことはなかった。


 このチェスのデスゲームはただチェスが強ければいいってもんじゃない。死の恐怖に耐えられるだけの精神と痛みを克服出来る強さ。耐久力が必要だ。


 おそらくこの世界ではそんな者は魔王か勇者くらいだろう。仮にこの世界に悪逆非道な勇者が存在するならばこのチェスをやらせたい。


 魔王は通常の戦闘でどうにでもなる。


 今回の事を私は2階で紅茶を飲んでくつろいでいるウィンドウに報告する。


「終わったよ」


「どうやら死んだの?」


「うん、見てくる?」


「そうだね」


 一緒に1階を降りてサーキュの死にざまを見るウィンドウ。その姿は先ほどまで見ていたサーキュの姿とは比較にならない醜い姿だった。


「どうしようか?」


「彼女は天国に行ってはならない存在。埋葬は必要ない」


「じゃあどうするの?」


「遺体は燃やして骨はバラバラにして地下室の土牢に埋める」


 恐ろしいことを口にするウィンドウだったが、私は異論ない。


 ウィンドウはうさ耳のメイドさんに遺体を地下室の焼却炉に入れて骨は土牢に埋めろと命令すると、うさ耳のメイドさん達は即座に実行した。


 私は改めて2階に戻って今回の事を振り返る。


「ウィンドウ。私がこのゲームで求める対戦者は、クズな勇者、国王、お姫様に王子様だよ」


「なるほど、それはどうして?」


「私は表向きに成人君主として活動しながら内部や裏では非道を繰り返す奴らを許せない。そんな奴らは無法なゲームで地獄に落としたい」


「その気持ちは分かるよ。レーモンのチェスの相手にはきっとサーキュのようなすぐに狂って頭がおかしくなる奴は似合わない。むしろ命乞いじゃなくて痛みで暴言を吐き散らすプライドの塊と呼べる下郎が相手にふさわしいかな」


「うん。私の心を傷つければ、行き先はここだけ」


 ウィンドウはこの時のレーモンを恐ろしく思った。服装が黒いドレスと青い花飾りというのもあり、闇落ちしている感じがたまらなかった。


 まだ夜は明けない。今日はウィンドウと同じベッドで寝て残りの一夜を終えた。


 次の日の朝、何もなかったかのような静けさ。うさ耳のメイドさん達は朝食を作ってくれて、私とウィンドウは席に着く。


 朝食はトーストとスクランブルエッグ。そしてみじん切りのレタス、人参、大根。この料理がおいしかった。


 しかし、昨日は仮にも人を殺したというのに食事をする際の罪悪感を感じない。ゲームに勝ったからとかあっちが死を望んでいたとかそういう意味じゃない。人を殺せばきっと罰があたるのだろう。しかしこれまで私は魔物を倒しているわけだから今さら人殺しなど気にする問題ではない。


 私は朝食を食べ終えると、黄色いドレスに着替えて金のティアラを被る。


 そしてウィンドウと外に出て馬車に乗る。


 馬車に乗っている時に私はウィンドウと今日の会話をする。


「ウィンドウ、今日はどうしようか?」


「今日はストーム王子に昨日のことを報告する」


「サーキュが亡くなった事を?」


「サーキュを殺したのはレーモン。でもそれに加担した私も同罪。本来ならこういうのは違法だから死刑か追放処分」


「そんな! 一体どうするの?」


「問題ない。裏でやったことだから」


「裏って」


 確かに闇組織も非合法な組織で様々な悪事を重ねて民を困らせたりしていた。こういうことは良くない事だ。


 闇組織によっては正義のために町のためにやっていることだろうが、こういう違法なことは基本認められない。


 しかし、それでも私は今回の締め付けチェスはやめられないだろう。もちろんそんなチェスばかりをやり続けるわけじゃない。


 気が向いたら他のゲームやギャンブルもやってみたいと思っている。


 そんなことを思っていると、私とウィンドウはストーム王子がいるお城に着く。


 異世界のお城に入るのはこれが初めて。入場してみれば家来や兵士が私に注目する。


「すげえ、あの子超絶美少女じゃねーか」


「ウィンドウ様と同等に歩かれるとは、ストーム王子に気に入られたお方というわけだな」


「ああ、俺らじゃ気に入られるどころか足元にも及ばないしなあ」


 このような話が聞こえてくる。私はウィンドウにこの事を話す。


「ねえ、ウィンドウ。この人たちの話は?」


「そうね、あまりいい話とは言えない」


「そうなの?」


「嫉妬だもん。私は闇組織からでレーモンは旅人でしょ。だからさ」


「そんなもんなんだ」


 不思議がりながらもそのような話をしていると、玉座の間の門前まで来た。この先にストーム王子はいる。


 門番がストーム王子に声をかける。


「ストーム王子、ウィンドウ様とレーモン様がお見えです」

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