4章第9話 2人で飲む

 ストーム王子が門番に命を下す。


「ウィンドウとレーモンが来たか。通せ」


「かしこまりました」


 門番が門を開く。すると玉座に1人、ストーム王子が座っている。


 私とウィンドウはお辞儀をして前に出ようとするがストームはそれを止める。


「かしこまるな、そのままでいい。それで、例の女はどうだ?」


 これにウィンドウが質問する。女が誰の事を言っているのか分からないからだ。


「女とは、サーキュという借金金貨200枚のギャンブラーでございますか?」


「そうだ。そいつはどうなった?」


「すでに始末いたしました。レーモンによって」


「そうか、ご苦労だったよレーモン」


「お礼の言葉、感謝いたします。それで、お願いしたきことがございます」


「何かな?」


 レーモンはストーム王子にチェスの対戦者となりそうな者を探してほしいと頼む。その理由は、今後も縛り付けチェスでクズな者を次々と始末したいからである。


「私のチェスの対戦相手となる者を探してください。お金はいくらでも出します」


「そんなことか。構わないぞ」


 あっさりと許可が出た。私はお礼を言う。


「ありがとうございます。今後ともよろしくお願いします」


「ああ、それでこれからお前はどうするんだ?」


「しばらくはチェスを楽しもうと思います。飽きたらどこかの町に旅行でも」


「面白いな。そういうお姫様は好きだぞ」


 ストーム王子の言葉に私は照れるも、少し前にアマクサ王子からの結婚を認めたこともある。仮にストーム王子に求婚されても断るしかなくなる。複雑なことで私はストーム王子にお礼しか言えない。


「もったいないお言葉です。それでは失礼いたします」


「ああ、また会えることを楽しみにしている」


 私がストーム王子の玉座の間を後にすると、ストーム王子はウィンドウに私の護衛を命じる。


「ウィンドウ。お前はしばらくレーモンの護衛だ」


「私が、レーモンのですか?」


「そうだ。護衛と言っても友達感覚でいい。呼び捨てで良いし敬語も使わなくていいぞ」


「無論、これまでレーモンとはそのような仲です」


「すっかり仲良くなっているらしいな。今後もレーモンと仲良くするようにな」


「かしこまりました」


 ウィンドウにはストーム王子の考えが読めていた。ストーム王子はレーモンの事を信用していない。このスプリング王国で何を企んでいるのか、何が目的なのか。正体不明のお姫様と思っているのだろう。


 だからウィンドウにレーモンの護衛をさせるようだ。いや、正しくは監視役だろう。


 ウィンドウもそれくらいの事は分かる。


 そんな複雑な気分になりながらもウィンドウは私がいる城門前に着く。


「お待たせ、レーモン」


「ウィンドウ。ストーム王子に何か言われたの?」


「うん、レーモンの護衛だって」


「そうなんだ。私の事を守ってくれるんだね」


「そう、でも私の方がレーモンに守られそう。だってレーモンは私よりも強い」


「冗談はよして」


「冗談じゃないよ。それより今夜は飲みに行かない?」


「うん、港の居酒屋?」


「そう、2人で飲もう」


 私とウィンドウは馬車でスプリング王国の港へ移動し、居酒屋へ向かう。その居酒屋でウィンドウは刺身に魚介の天ぷらなどを注文する。そして瓶ビールを頼んだ。


「レーモン、今日は私のおごり。じゃんじゃん飲んで」


「分かったよ。飲みすぎてもいい?」


「馬車までは私が連れて行くし、廃宿の1階のベッドで寝ればいい」


 そんなことを言って自分がお酒を飲みたいだけのウィンドウだった。


 ウィンドウはまず私のグラスにビールを注ぐ。そして自分のグラスにビールを注いだ。


 私とウィンドウは乾杯してビールを飲み干す。ウィンドウは猫耳の亜人であることから魚が好物で刺身に天ぷらをとにかく食べて、サンマの焼き魚にホッケなどをおいしく食べる。そしてビールを飲む。これを繰り返す。私もビールを飲む。私は、ビールはたくさん飲むタイプだが、どうやらウィンドウの方が一枚も二枚も上手だ。


 飲んで食うを繰り返しては酔ってもその行動を続けられる。


 前にアマクサ王子のところでもビールを飲んでは嘔吐していたのだからそれくらいは慣れているのだろう。


 私には理解できない事だ。


「大丈夫? そんなに飲んで?」


「レーモン。ビールに飽きたならレモンサワーなんてどう?」


「何よ? 私の名前で狙ってるつもり? 酔っているようね」


「酔っているとも。でもレーモンは檸檬好きでしょ」


「まあ、好き。昔育ててた」


「育てていたの? じゃあ畑とか貸せば作ってくれる?」


「あの廃宿に畑なんてあるの?」


「今はないけど作ることなら出来る。明日にでも作らせよう。そうすればレーモンも檸檬作れる」


「やれやれ~」


 酔ってしまう事でウィンドウは途方もないことを考える。しかしこの私もビールは瓶1本分飲んでいるわけだし、人の事は言えない。


 こういう話があれば喜んで乗るのがいい。それに檸檬畑を作れるのはメリットでもある。


 私は元々この世界の実家の檸檬畑で檸檬を育てていたから、廃宿ダークフォレストで檸檬を育てて、檸檬料理も悪くない。それだけではなくレモンサワーを作って美味しく飲みまくることが出来る。これは至福だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る