プレイヤーイベント戦@中央5

 ザンッ、、、


 乙姫が地面へとトライデントを突き刺した。


〔残り5分か。マヌはどっちが勝つと思う?〕


〔そりゃ乙姫が負けるでしょ。いくら強いっていっても、大規模魔法はもう使えない。数も足りない。世の中数だよ?数。私はほら、13体同時に殺されないと死なないでしょ?だから勝てる〕


〔マヌがやれば勝って当たり前だろ。つか、マヌと乙姫じゃ性質が違うだろ。ま、乙姫が負けるってのは賛成だがな?〕


「トライデント、最後です暴れましょう。『起動』」


 ただ呟いただけの声だろうと、ステータスの高いプレイヤーなら遠くからでも聞こえる。

 今までに4回発動された『起動』。身構えないプレイヤーは居なかった。聞こえなかったプレイヤーも、槍が光輝く様子を見れば必然的に身構える。

 だから、攻撃がくると予想していたプレイヤーたちに、乙姫の次の行動を防ぐことは出来なかった。


「トライデント、さあ、蹂躙を。『』」


 急激に膨れ上がった槍の魔力に、乙姫の髪が舞い上がる。辺り一面に青い光を伴った魔力が渦巻きだし、草原の草はざわざわと揺れ動く。


「っつ!!何でもいい。一斉に攻撃を!乙姫を次の行動に移させないように!!」


 グレーベンの一言で、スリングによって石が、弓によって矢が、はたまた銃弾、砲弾までもが乙姫へと向かっていく。


「『海層』」


 そして、たった一度の魔法で全てを受け止められる。


〔まあ、海の神具トライデントがあれだけしか効果を持たないわけないわな〕


〔起動、始動、次は律動か駆動?〕


〔稼働、かもな。さすがにおんなじ意味三回繰り返すことはないか〕


「『氷杭』。『充填ロール』『充填ロール』『充填ロール』『充填ロール』『充填ロール』『充填ロール』『充填ロール』『充填ロール』『充填ロール』『充填ロール』『充填ロール』『充填ロール』」


 宙に浮かぶ大量の氷の杭。何度も見た光景。何度も見た攻撃。

 けれど、今までのものとは一線を画していた。


「発射」


「デーサ」


「YESマイマスター。『光化学シェルター』」


 ズガガガガガガッッッ!!!!!


 ファストを半円の光の防壁が覆い、全ての氷杭を受け止め、防ぎ切った。


 プシュー、、、バタッ


 五秒間発動されていた防壁が消えたあと、球体関節の少女、デーサが煙を出しながら倒れた。


「ああ!もうデーサが!!うっそぉ!?一撃!!??、、、はあ、しょうがないなぁ。デーサがダメになったなら、他のも期待できないし、、、。おーい、何番まで生きてる?D7?じゃあ、デーナ、デーサD3から指揮引き継いで」


 倒れたデーサを労りもせず、シュウは手に持った通信機で連絡を取る。


「良かったのかい?この街のためにその子デーサのことを使い潰して」


「ん?ああ!大丈夫だよ。Dシリーズはどうせ廃棄予定だったし。あーあ。ほんとはNシリーズ連れてくる予定だったのに、、、ん?そろそろデーナが来る?場所開けとくね」


 よいしょっと、と呟きながら、シュウはデーサを防壁の外側に蹴落とした。


「、、、相変わらず狂ってるDeeath」


「こうして協力して貰っている以上、僕は何も言えないかな」


「作品の扱いは人それぞれだからね」


「グレーベンっ!?僕を異常者バチェラーや槍ーカみたいに言わないでよ!?」


 シュウは心外だとばかりに叫んだ。


〔防いだのは凄い。素直に称賛するぜ?でもなぁ、、、〕


〔あの扱いは頂けないよねー〕


「防ぎますか、、、残り3分、猶予はありませんね。トライデント、『作動』」


 キィィィィィィィンと、トライデントから振動音が響きだす。


〔、、、起動に始動に作動、重なったな。作動か〕


〔予測外れちゃったね~〕


「『装填ロール』」


 光輝き、魔力を撒き散らし、振動するトライデント。乙姫の手から離れ、独りでに回転し出した。


「ちょwwwww」


 発射の予備動作。これに対し、先程と同じ結界を張っただけでは容易く破られていただろう。

 だが、ここには一度この技を食らった大w草w原wがいた。


「領主ぅwwww」


発射バン


 乙姫が回転するトライデントをつかみ、投げるのと、大w草w原wが叫ぶのはほぼ同時だった。

 トライデントは、発射された直後にグレーベンに触れられ、そのまま姿を消した。


 ドォォォォォォンッッッ


 上空で巨大な破裂音が響き、風圧が近くにいた者全てに降りかかった。


〔当たってたら街崩壊どころじゃすまねぇな、ありゃ。白線上無敵モードでも食らいたくはないな〕


〔恐ろしいのはまだ発動している効果が起動だの始動だの始まったばかりってことだよねー。あの神具、どこまでの力を宿してるんだろ?〕


「我を、忘れて貰っては困るなぁ!?『終焉を催す焔鳥の伊吹イグニ』!!!!!!!」


「私としてはプレイヤーを二、三人殺しておいて欲しかったなぁ、、、『救済両断』」


「グレーベンが上空に飛ばしたトライデントが戻って来てるみたい!乙姫に渡る前に倒して!!」


「「「「おおおおおーー!!!!!」」」」


 叫び声が上がり、防壁の門が開く。中から出て来たプレイヤーが一斉に乙姫へと攻めに出た。

 対して、乙姫は杖代わりのトライデントを持って居ない。必然的に魔法の威力は下がり、防戦一方となる。


〔決まったな〕


 乙姫の手にトライデントが戻ってくるも、残り5秒。魔法を発動しようにも、発射途中に時間切れとなる。もう、乙姫に打つ手はなかった。


「みんなーーーー離れてーーー!!」


 槍ーカの叫び声を聞き、プレイヤーが乙姫から離れていく。その時、空では巨大な主砲に膨大なエネルギーを充填させていた舟、ホロン・シュペイリー号が待ち構えていた。


〔おおお。相変わらずすげーエネルギー量〕


〔あれで移動用空挺船だっていうんだから凄いよねー〕


 チュドン


 3時00分丁度。乙姫に向かって、ホロン・シュペイリー号から光線を放ち、、、乙姫に、トライデントで弾かれた。


〔、、、あ?〕


〔wwwwwww〕


「えぇ、、、あれって、防げるものなの?」


「・・・」


 無言で、乙姫がトライデントの石突で地面をたたいた。

 誰もが驚きで静止する中、乙姫の足元から、縦長の竜宮城が上空に向けてせり上がる。高度6000m、7000m、8000m、9000m、と。細く、長く、急速に。


「・・・」


 伸びた竜宮城に向かって放たれたホロン・シュペイリー号からの迎撃を、乙姫は竜宮城から高く飛んで躱す。

 落下しつつホロン・シュペイリー号を眼下に収めた乙姫は、自身に向かって放たれる弾丸、魔法を全てトライデントで弾き、そのままホロン・シュペイリー号へと飛び乗った。


〔いいね。いいね。うん!もっとやってよwww〕


〔人魚、、、喋らない、、、?確かクラスメートのまーちゃんの好きな絵本が、、、っておい。マヌ、止めにいけよ〕


〔え?ヤダ☆ミ〕


 ドォォォォォォン!!!!


 乙姫が振り下ろしたトライデントの矛先に、柱とみまごうかのような巨大な雷が落ちた。


 乙姫は落雷によってできた穴から、ホロンシュペイリー号の内部へ侵入していく。


 そして、発動コマンド『柏手』。


 パンッと、乙姫が両手を打ったのを皮切りに、トライデントのスキル、『始動』と『作動』、そして『稼働』が発動した。


 ゴウンゴンと周囲の空気を唸らせるトライデントを、ホロン・シュペイリー号の心臓部、エンジンへと向けてぶん投げた。


 乙姫がホロン・シュペイリー号を脱した直後、大爆発が起こり、ホロン・シュペイリー号が地上へと落下していった。


〔乙姫さあ、ガッツポーズしてる場合じゃないんよww天龍絶対ぶちギレてるってww〕


〔そういう問題か!?、、、そういう問題だな。って違う!!どうすんだよ、コレ!!〕


 こうして、ウェーデア大陸でのプレイヤーイベント戦、終わりを告げた。

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