大スラ天魔王は~じゅんっ!の記憶








 余が誕生したのは、プレイヤーどもがβと呼んでいる頃のことだった。







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 許せぬ。許せぬぞ!何故だ!何故なのだ!余がこの世に生まれ落ちるには、計1000万もの同胞スライムの犠牲が必要となる。

 あり得ぬ!あり得ぬであろう!何故他の種族を狙わぬ!何故余らスライムのみを狙う!何故なのだぁぁあ!!



 余が誕生した時、数々の同胞スライムの記憶が流れてきた。それも死ぬ間際のだ。

 苦しかったろう。辛かったろう。強き者もいる。されど、弱き者が大多数を占める我々スライム

 あるものは焼き払われ。あるものは氷付けにされ。あるものは毛のないサルどもの子供に弄ばれ、、、


 嗚呼。許せぬ。許せぬぞ。毛無しザル人間どもよ。余の怒り、同胞の嘆き。その代償を支払わせてやろうぞ!



 しかし、余一人のみでは毛無しザル人間ともをせん滅することは叶わぬ。あ奴らは群れる。それも百や千ではきかぬ数でだ。

 その中に希に現れる強き毛無しザル人間。余では敵わぬ者も居る。度しがたいことにな。

 なれば。なればだ。仲間スライムを集おう。ともに駆逐するために同胞スライムを!



 む?ちょうど良い。しばらく進んだところに多くの同胞スライムの反応があるではないか!出でよ四スラ皇!あちらを探ってくるのだ!!



 おお、、、!おおお!!温泉スライムの繁殖地ではないか!何百、何千という同胞スライムが、この地には居るではないか!!!

 往かねばならぬ!嗚呼!余らの楽園がすぐそこに!!!


 余は、幾人かの毛無しザル人間を引き飛ばしつつ向かった。






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「何故だ!何故なのだ!女帝級エンプレス温泉粘体スプリングスライムよ!そなたは、、、そなたはは余らの同胞スライムであろう!?何故、何故邪魔をするのだ!」


 目の前に居る少女、女帝級エンプレス温泉粘体スプリングスライムは、余らが同胞。この地よりは動けぬのであろうが、それでも毛無しザル人間を滅ぼす上で欠かせぬ存在へとなってくれるであろうに!


「うーん。えっと。あー、、、ごめんね?」


「余らは同胞スライム!謝罪など良い。この捕縛もきっと事情があったのであろう?余は怒ってなど居らぬ。さぁ、離しておくれ。そしてともに同胞スライムの楽園を築こう。なに。この地を造り出したであろうお主なら心配は要らぬぞ」


 余は優しく語りかけた。余の力は膨大。レベルは500を越す。この同胞スライムは余よりも強いが、ここは楽園(毛無しザル人間どもが付近に居るのは気に食わんがな)。きっと今まで自身に近しき実力を持つ者に出会わなかったのであろう。そうであれば驚くのも無理はない。


「あ"あ"あ"あ"、、、どうしよう。すっごいやり辛い。でもなぁ」


「どうしたのだ?なにかを戸惑って居るのか?なに。悩みなどがあるならば余が聞こうぞ。余らは同胞スライムであるからな!」


「あ"あ"あ"あ"あ"、、、!!!ごめん!ごめんなさい!!それでも私はプレイヤー人間側!!!!」


「な!やっ、、、ごぽぽぽぽ、、」


 余の体は、余を捕縛していた女帝級エンプレス温泉粘体スプリングスライムに吸収され、意識はそこで途絶えた。








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 ぷかーーーー


 今の余は一介の温泉スライムとなった。否。こうして思考し、元の体を構成できるのだ。一介のとは言いがたいのやも知れぬ。されど、余はもう、、、大スラ天魔王ではなくなった。ただの温泉スライムぞ。


 あの女帝級エンプレス温泉粘体スプリングスライム、湯煙 泉だったか?フィエルタだったか?名前が二つあるとどちらで呼べば良いのかわからぬな。とにかく、泉からは名前をもらった。は~じゅんっ!という。余の元の種族名、大スラ天魔王にちなんだものらしいぞ。センスは、あまりないな。



 あれから、余はあまり怒りに任せずに動いたほうが良いと考えるようになった。

 ここ、ロゼッセ温泉地では、人と温泉スライムとが共存して居る。平和ならそれが一番。それで、それで良いではないか。そう思うになったのだ。

 腑抜けたと思うならそう思えば良い。腰抜けと思うならばそう罵れば良い。ただ余は、今の生活がことの他気に入って居る。それだけの話ぞ。



 嗚呼。何もない日々が続く。こうした日常が、いつまでも、いつまでも、、、、、、

















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 〔なあ、私はは~じゅんっ!というのに初めて会った故、あまり詳しくないのだが、、、暴走、しているよな?〕


 〔そ、そそそそそそ、そんなことないよ?〕


 〔ではその動揺はなんなのだ?〕


 〔あばばばばば。、、、って、私だって聞きたいよ!昨日までただ温泉に浸かる温泉スライムで、、、他の温泉スライムとも見分けつかなかったし!〕


 実況と解説だという毛無しザル人間と泉の声が耳朶を打つ。プレイヤーとかいう毛無しザル人間には聞こえて居らぬらしいがな。


 久方ぶりだ。こうして力を振るうのは。久方ぶりだ。毛無しザル人間どもの怯える姿は。さぁ数えよ。貴様らのスライムを殺した数を。さぁ受けよ。貴様の報いを。







 嗚呼。爽快ぞ。








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