プレイヤーイベント戦@北方1

 、、、俺は今、猛烈にぶちギレている。


〔ねぇ、ダーリン。ダーリンは参加しないの?〕


〔バカ言え。今回のイベントはロロの正規勢への歓迎会、及び乙姫のストレス発散の為のものだ。俺が場を乱す訳にはいかんだろう〕


〔え~でも私ぃ、ダーリンのカッコイイとこ見たかったなぁ〕


〔また今度、な〕


〔やーりぃ!〕


 ベータの凍原卿には感謝している。装備もアイテムも、相当に良いものを支給してくれた。準備は万端だ。だけど、だけど!これはないだろう!!


〔喜ぶのは良いが、アルジェ、今回お前は実況の為に来ているんだ。お前の要望通り他の大陸とは違い、我々の声も聞こえるようにしてある。お前がやりたいと言ったから来たんだ。しっかりこなせよ?〕


〔分かってるよ~。それよりさ、お前、じゃなくてハニー、って呼んでくれた方が、、、私、やる気がでるな〕


〔、、、ハニー〕


〔キャー(*≧∀≦*)〕


 何で俺らはんなバカップルののろけを聞かされなければならないんだ!!!

 というわけで、実況と解説が現れてからの俺らプレイヤーの士気は下がり続けている。


 のろけだらけの実況解説。だが、全てが全て悪って訳じゃない。

 ダーリンって呼ばれている方は凍原卿。言わずと知れたベータの最強格(自称)。

 さっきからテンションが高い女の方は正体不明。ただ、ここ数日でこの大陸最大にしての国(らしい)のお偉いさんが何人もノーリに入って行った。わざわざ滅ぼされる危険があるこの街に。つまりだ。女はそれだけの権力を持った人間だってことがわかる。

 そんな人たちの会話だぞ?実況解説に紛れて、とんでもない情報だのがわんさか出てきてもおかしくないってことだ。

 今回の敵、白虎羊牙の情報が出てきたら万々歳。下手したらそれが決定打になる可能性だってある。


〔1時55分!そろそろだね。ねぇダーリン。今回のプレイヤーの勝率ってどのくらいなの?〕


〔逆に聞くが、アルジェならばどうする?〕


〔私?うーん、、、そうだねぇ。生産全振りかな?兎にも角にも武器、アイテムその他諸々。増やせば増やすだけ手札が増えるからね~〕


〔それも一つの方法だな。俺であればひたすらに与えられた装備を体にならす。少数だろうと使える戦力がなくては話しにならない〕


〔そっかぁー〕


 、、、あの、凍原卿さん?答えになってなくないですかね?


〔さて、時間だな〕


 凍原卿の宣告と同時に一陣の風が吹き、雪が舞い上がる。落ちる雪に紛れて、そこに、何かが現れた。


 何もかもを吸い込むような漆黒の髪。そんな中一際目立つ前頭部の髪の二ヶ所の白い斑点。黄色く光る、縦に長い瞳孔を持つ瞳。あまりにも美しい少女が、そこにいた。


「すぅぅぅぅぅーーーーーーーーーーー」


 俺たちが見とれて動けなかった間に、少女、白虎羊牙は、大きく息を吸っていた。そして


「に"ゃ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ーーーーーーーー


〔おおー!咆哮ハウルだけでほとんどみんな気絶しちゃったよ。〕


〔バカどもが。先手を取られ、挙句の果てには全員気絶だと?見惚れて動けんなどあり得んだろう〕


〔ほぼだよ。ほーぼ。それに、ダーリンだって私に見惚れるとよく意識飛んでるじゃない。責められないよ?〕


〔、、、戦闘中ではないだr


 俺が意識を失う前に聞いたのは、咆哮とのろけだった。







「ーーー起きろ!起きろ!まだ始まったばかりだぞ!」


「っつ!?」


 俺は、他のプレイヤーに揺さぶられて起こされた。


「羊牙は!?街は!?どうなった!!」


「落ち着け。大丈夫だ。見てみろ」


 そのプレイヤーが首を向けた方向に目を向けると、


「な、んだ?アレ、、、」


 飛ぶ。跳ねる。避ける。様々な方法でプレイヤーからの攻撃を躱し、大きな声で詠う羊牙がいた。


〔長いねー。もう7分くらいああして詠唱してるよ?どれだけバフ積まれてるのかな?〕


〔さてな。俺もあいつがいくつ強化系の能力を有しているのか定かではない。俺がやり合ったときにはかれこれ30分だったか?戦闘中は延々唱え続けていたな。最も、今回はMPも含め制限されている。スキルも強力なものは取り上げられているはずだ。よってそろそろ止まる〕


〔でもあんだけ積まれたらカチコチだよー?私でもダメージ減っちゃうカモ。弱点とかないの?〕


〔アルジェ、構わんがかなりプレイヤーに好意的だな〕


〔え~なになに?嫉妬?嫉妬しちゃったの?うりうり~〕


〔ああ。お前は俺のものだからな〕


〔ふぇっ?/// ///〕


〔さて、あまり攻略の手助けになることは言うつもりはなかったんだが。このままでは勝てんのも事実だ。

 弱点。そうだな。あいつの基本ベースはダンジョン名地獣の名の通り土属性の獣だ。つまりは基本土は効かん。むしろ回復される。

 また、あいつの種族は虎鯱こち。ネコ科のシャチ属というふざけた種族だ。要するに水もあまり効かん。詳細に言うなれば効きはするが泳がれる。ついでに土の中だろうと泳げる。

 だからまあ、俺がこの地で白虎と戦うとしたらーーー〕


『泳がれる』泳ぎに関するワードが出た時点で幾人かのプレイヤーはすでに動き出していた。

 そして驚くことに、同一の魔法が、ほぼ同時に放たれた。


「「「「「「「『凍結大地アイス・ノン』」」」」」」」


〔折角の雪地なんだ。全て固める〕


 魔法、どうやらこのゲームでは、同時に発動することで威力が上がるらしい。その証拠になる光景が、目の前に広がっていた。


 実況解説。何度も言うが、所々のろけが挟まれるのは非常にうざい。うざいが、まだ出ていない羊牙の手札を一枚、いや数枚分は削れた。有用であると認めざるを得なかった。



「『そらより見下ろす我らが神よ!我が敵の加護を打ち砕きたまえ!!』『詠唱抹消ディスペル』!!!!」


 俺の魔法により唱え途中だった白虎のバフ魔法が止まる。あ、言い忘れてたが俺のジョブは魔法使いな?


「これ、行けるぞ!」


「今だ!!攻めろ!!!手を緩めるな!!!」


「魔法使い!!!なるべくディスペルを唱えて!!!」


「土、水厳禁!!できれば雷!次点で火!!武器の付与、相性悪いのあったら後方に!取り替える!!」


 行ける!少しずつ。少しずつでいい。確実に削り、足止めしていけばいい。


〔おおお!本当にこのプレイヤーたちって始めて数日なの?連携もなにもかも、とっても高レベルだよ!、、、でもさ、これ、このままじゃ勝てないよね?〕


〔そうだな。バフを可能な限り、最低でも十数枚まで剥がさなければまず攻撃が通らない。よって勝てない。だが、別に勝つ必要はないからな。あとは根気。士気と物資さえ持てば何とかなる〕


〔あっそっか。一時間耐えきれば勝ちなんだったね。えーっと、残り時間はあと45分!もう少しだね!〕


 俺らへと唐突に告げられたのは、残り時間絶望だった

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