プレイヤーイベント戦@北方2
〔少しではないだろう。まだ高々4分の1過ぎただけだぞ?〕
〔うぇー。ダーリン、細かい男は嫌われるぞー?〕
〔そんな俺だろうとお前は愛してくれるだろう?〕
〔そ、そんなの、、、聞かないでよね!/// ///〕
相も変わらずのろけ話が垂れ流されている最中だった。ぼそりと、けれどやけにしっかりとその声が聞こえてきたのは。
「わぁふ。そろそろせーめよっと」
『
詠唱もされず唱えられた魔法名を境に、蹂躙が始まった。
何かが煌めいた。血飛沫が空を舞った。それはこのイベントが始まって初めての流血だった。
一斉に、羊牙に武器を突き立てていた前線組の首が飛んだ。ああ、目にも止まらぬとはこういうことを言うのかと、そう実感させられた。
〔へー羊牙ちゃんって刀使うんだ。あれ?長い刀は太刀って言うんだっけ?〕
〔あれは
〔やだ~。ダーリンボケてきちゃった?もううちの王位は孫娘に渡したでしょ?もう議会には出てないよ?〕
〔そういえばそうだったな。道理で最近お前が家にいる訳だ。ああ、今思い出したが、
〔ふぇぇぇぇ!?だ、誰と?ねぇ、誰と!?
〔建前と本音が逆だぞ。それに仮にも孫娘だろう?ましてやアルジェm〕
〔あ"?〕
〔す、すまん〕
痴話喧嘩の合間に何か重要なことを言っていた気がするが、今気にすることじゃない。
大切なのは、羊牙の攻撃をどう対象するべきかだ。
見ろ。あいつはどう動いている?それはどうすれば止められる?何を狙うのが効率的だ?
考えろ。考え、、、少し待て。なんで『
「武器だ!武器を狙え!!!」
俺の声に、一部の連中が反応し動き出す。武器に向かっていく以上仕方がないが、さっきまでよりもプレイヤーが減っていく数が多い。俺は後方からの攻撃だから支障は出ていないが、前衛は明らかに層が薄くなっていっている。
恐らく、錬成の魔法の使用も制限されているんだろう。でなければ正規組の上位なら持っているようなレベルの魔法なんて使うはずがない。
俺の予想通り、目に見えて薙刀が傷ついていく。あれなら、折れるのも時間の問題だろうというほどに、だ!いける!いけるぞ!
「『
ボロボロになった段階で新しい薙刀が生み出される。だが、強度に問題があるのは変わらない。攻め続ければあれも折れる。そうすれば、いずれは、、、!
〔
〔そのまま忘れてくれると助かる。さて羊牙だが、大方ロロに主となる戦闘方法は使うなと言われているんだろう。じゃなきゃあんな下手くそな薙刀など使わん〕
〔あっやっぱり?初めて見る武器だけど、振り方とかなーんかぎこちない感じしてたんだよね!〕
〔要するにここが付け入る隙になる訳だ。残り何分でかは知らんが、羊牙は絶対に動く。それまでに、ぎこちないうちにいかにHPを使わせられるかが鍵になる〕
〔ぬ?でヴェルントで減るのってMPでしょ?〕
〔魔法だからな。あと、別にヴェルントで減らす訳じゃないぞ?単純に攻撃を当ててダメージを与えるだけだ〕
その単純が辛いんだよ!そう叫んでやりたかった。くそが。
だが、そうも言ってられない。凍原卿がHPを減らせと言うからには、絶対に減らす必要があるナニカがある。
俺たちは、時間が赦す限り攻撃を行った。
ーーーーーー
「わぁふ。残り15分。そろそろかぁ」
戦場に、赤い華が咲いた。一瞬だった。一瞬で、羊牙に接近していたプレイヤーが全滅した。羊牙の爪によって。
〔おおー!あれ、30メートル近くあるんじゃない?凄いね!オールレンジだよ!〕
〔少し、違うな。あいつの爪は飛びはするが回りこむなどの操作は効かない。あの爪だけで全方位はさすがに無理だ〕
ちょっと待てあれ飛ぶ、、、っつ!?
後方へ向かって飛ばされた爪が、幾人ものプレイヤーを貫いて、、、そのままノーリの街の防壁に突き刺さった!?どんな貫通性能だよ!
だが、これで凍原卿がHPを減らせつってきた理由がわかった。生体武器だ。あの爪は、恐らくHPさえあればほぼ無限に作れる!
唐突に、羊牙が走り出した。もちろんノーリに向かってだ。ここで止めないと、敗北が確定する。
「止めろ!一秒でもいい!時間をかせげ!!!!」
あれは、、、生産職のプレイヤーか?なんで防壁の上に立ってんだ?、、、まさか!
〔ダーリンダーリン。これさ、ダーリンの渡した武器とここのプレイヤーじゃ絶対止められないよね?〕
〔当たり前だろう。いくら俺とはいえ即興で作ったあれらの装備にそこまでの性能はない。羊牙の爪であれば突きでもすれば容易く貫通させられる〕
〔え~。じゃあどうするのー?〕
〔それはあいつら次第だろう〕
そうだ。俺ら次第だ。
俺を含め、魔法職は一斉にとある魔法の詠唱を始める。前衛は前衛で、死に戻り、生産職からのアイテムを受け取った連中と入れ替わる。
「いくぞ!」
「「「「『
羊牙がバインドにより鎖に繋がれ身動きが取れなくなる。
そこに前衛が間髪入れずに俊敏性低下の粘着玉、精神力低下のポーション等のアイテムを投げつけていく。
「魔法班、補給!」
「サンキュー!」
「礼はいい。それより
さっき入れ替わった前衛が、大量のマナポーションを持ってきた。俺たち魔法職は、こっから15、いや14分ほど魔法を発動し続けなければならないからだ。
〔バインドかぁ!魔法使いが序盤で覚えられる魔法の一つだね。あれ?
〔ああ。あとは爪をどう対処するかだ〕
バインドはその場に止めることはできても、行動の制限はできねぇ。だから。
一気に伸びた羊牙の爪が、鎖の一部を断ち切る。そのまま振り回され、鎖が粉々に砕かれていく。
「「「「『
砕ききられる前に何度もかけ直し、絶対に逃げられないようにする必要がある。
〔えーこのまま終わり?反撃もできずに?〕
〔しょうがあるまい。あの様子を見るに、そもそも泳ぐのは禁止されていたのだろう。だったら俺の知るなかで現状羊牙に反撃にでるすべはない〕
〔ぬ?泳げたら反撃できたの?〕
〔そもそも鎖が効かんな。バインドの鎖は鉄。鉱物だ。羊牙の種族、虎鯱は鉱物であれば
〔そっか!土も泳げるんだったね〕
〔俺も耄碌したものだ。俺が渡した武器は氷製。それ以外の武器が当たってはいる以上泳ぐことは制限されている。最初に地面を氷らせたのは失策だった〕
ちっ。俺らが必死こいて抑えこんでる間に呑気に会話しやがって!!実況するほどの変化がないのもわかるが、それはないだろ!
バインドで絡めとり、残り何分、俺らの緊張も薄れてきた時だった。
「残り1分。わふぅ!」
すぅぅぅぅぅ、、、、、、
辺りに、おもいっきり息を吸い込む音が広がる。
〔また
「に"ぃ"や"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ
"ぁ"ぁ"ーーーーーーーーーーーー!!!!!!」
響く大絶叫。俺は耳をふさいで耐えた。うし!今度は気絶しなかった!!!
だから、その次の光景を見ちまった。
パリンッッ
一泊遅れて鎖が、全て弾け飛んだのを。
〔迷宮式白虎近接格闘術第三章第三対捕縛術『気合い』、だったか?あれ一つでほぼ全ての拘束が意味を成さなくなる〕
ふっざ、けんな!
鎖が砕かれたあと、バインドの詠唱が間に合うはずもなく、羊牙は走り出した。今までの、倍近い速さで!
〔はっやーい!これも迷宮式白虎格闘術?〕
〔だな。確か第二章第七歩方術、、、なんだったか。確か『夕飯は唐揚げ』だったはずだ。まあ、それはいい。それよりもだ。残り一分で格闘術解放か。これは都市の壁に触れてさえいれば残り一秒で全力解放などもあり得るかもな〕
〔ダーリンが負ける相手なんだから、、、ノーリくらいなら一秒かからないかもね!〕
「あと数十秒だ!耐えろ!!耐えろぉ!!!」
俺は叫びながら走る。幸い俺のほうが羊牙よりも防壁に近い。あいつがノーリに着くまでには必ず防ぎに入れる!
「『
バインドのによる鎖。絡み付いたそばから破壊されていく。
「残り10秒だぁ!!防ぎきれ!!!」
俺も突撃し、羊牙にぶっ飛ばされて死んだ。
そして、、、
街の噴水で死に戻ったのと同時に、ファンファーレが鳴り響く。
〔パンパカパーン!!凄いね、ダーリン!あと一ミリ羊牙ちゃんの爪と城壁の間、あと一ミリあるかないかだよ!接戦だったねぇ〕
〔そうだな。まあ、よく勝ったとだけ言っておこう〕
こうして、北方のプレイヤーイベントは終わった。
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