配信者メルメル 三日目

「どっもー。初めましての方も昨日ぶりの方もこんちは!メルメルです!今日は、ウーノの隣にある森、レーリアに入って行きたいと思います!」


 今日は初日から順調?に増えて、50人位の視聴者が見ていてくれている。でも、私が森の物音でびくびくしてるのを見て、草とかwとかコメントしてるのはひどいと思う。

 怖いものは怖いんだ。


「ひゃっ!!」


 ガサガサッと、明らかに何かが動いた音が聞こえて、私は悲鳴を上げた。恐る恐る音がした方向を見ると、私と同い年位のアバターの、私と同じ初心者らしい装備の女の子が立っていた。


「えっあっ、お、驚かせちゃって、、、ごめんなさぃ」


 女の子の声はどんどん小さくなっていった。

 あっ緊張してるんだ。そう思ったら、なにか急に冷静になってきた。えっと、多分自分より怒ってる人を見ると冷静になるやつだと思う。


「わ、私はメルメルです!こ、こちらこそ驚かせちゃってごめんなさい!えっと、名前って、、、聞いてもいいかな?」


「あっ私は、、、マスター、、、です。えっと、い、偉大な人になりたくて、、、そうつけたんです」


 やっぱりどんどん声が小さくなっていくマスターちゃん。


「いい名前だと思う!私なんて、、、じ、実はこの名前、適当につけたんだ」


「そ、そう、何ですか?」


「うん。、、、ね、ねぇさ、もっとお話、してもいいかな?」


「あっ、、、はい」


 それから、私はマスターちゃんと自己紹介やらなにやらいろいろとお話をした。


「ーーーへー。じゃあ、マスターちゃんは素材を取りに来てたんだ」


「そ、そうです。他の薬師の初心者は、みんな【未解の究明活動録】ってギルドに入るんですけど、、、私、あんまりたくさんの人と居るのが苦手で、、、でも、一人で採集するのは、少し、怖くて」


「そうなんだぁ。じゃ、じゃあさ、私と一緒にプレイしない?パーティー組んでさ!い、嫌だったら、言ってね?」


「あっい、嫌なんて、、、そんな。えっと、嬉しい、です。えへへ」


 ニコッと笑ってくれたマスターちゃんの笑顔は、とても可愛かった。


「よし!それじゃ、、、、、、あっ」


 その時、私は大変なことに気がついた。そう!私、配信中でした!!って、視聴者300人になってるし!や、ヤバい!マスターちゃんに許可、許可取ってない!


「え、ええーっとなんだけどね?マスターちゃん、私、今までの会話、配信しちゃってた、、、」


「え、ええええ!?」


 >>草

 >>やっちゃったなぁw

 >>この顔、見覚えが、見覚えが、、、

 >>許可無し?ここの運営そういうの厳しいんじゃなかったけ?

 >>まじか。アーカイブも消えるんかな?会話結構面白かったんやが


 マスターちゃん、凄くびっくりしちゃってる。視聴者は、笑ってる人たちと心配してくれてる人たちに別れてる。

 って、そんなことより!どうしようっ!


「えっと、、、そこにあるのが、カメラ、ですよね?わ、私マスターって言います。よ、よろしくお願いします!」


「え、マスター、ちゃん?」


「あっえ、えっと、も、もう、今まで配信しちゃってたのは事実だし、メルメルちゃんと、一緒にゲームするなら、挨拶は、した方がいいかな?って、、、あ、あと、気にしなければ、何とかなるかなぁって、、、へへ」


「ま、マスターちゃぁん!!」


「へっ!?わっ!」


 感極まった私は、マスターちゃんに抱きついた。もう、ぎゅってなるくらい。ぎゅって抱きついて、そのままどさっと倒れた。


 >>てえてえなぁ

 >>百合配信か、、、いいな!

 >>おまっ友情だよ友情!邪推すんな!

 >>この顔、、、マスター、、、この子が、アレに、か?

 >>何人か別方面でざわついてる人おって草

 >>んなのほっといて配信楽しもうぜ!


「え、えっと、じゃあ、これからよろしくね!」


「う、うん!けどそろそろ、どいて欲しいなぁ、、、なんて」


「あっ!う、うん。ごめんね?」


 マスターちゃんから離れて、ガバッと起き上がると、目の前に魔物がいた。黒くて大きい狼が、、、


「ま、ままままマスターちゃん!!に、逃げるよーー!!!」


「へ?あっ?ひゃぁぁ!?な、なななな!!!!??」


 驚いてるマスターちゃんを引っ張って、私は走った。けど、しょせんはまだまだ見習い職の初心者。二人そろってガブリと食べられちゃった。

 だから、私はその後の光景を見ていない。


「、、、、、、、、、、、、」


『キュゥゥゥン、、、キュゥゥゥン、、、』


「うるさい」


 斬られて、一太刀で追いかけてきた黒い狼の首が飛んだのも。


「、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、なんで?」


 その首を飛ばして、返り血を浴びた女の子が、


「、、、、、、、、、、、、、、、ミーちゃん、、、ミーちゃん、、、、、、貴女は、私の、光、、、、、、そうじゃ、、、なかった、の?」


 私のリアルの親友で幼馴染みの優ちゃんだってことも。


「、、、、、、マスター、、、私のミーちゃんを奪った女、、、、、、嗚呼、、、、、、殺さなきゃぁ、、、、、、ころさなきゃぁぁ、、、、、、」


 このゲームで、天破斬と呼ばれて、恐れられていることも。






 なーんにも、知らなかったのだ。

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