第4話 - 2
部活動は、大体いつも通り進み無事終了。
「勝志君はねぇ、もっとプッシュしたほうがいいと思うよ」
そう僕に言ったのは大島部長。げた箱へ向かうため、廊下を歩いているというタイミングだ。唐突である。
「え?」
大島部長は、僕らアンサンブル部の部長で、ロングな髪で表情が明るいかわいくて素敵な先輩だ。そんな先輩が、僕にちょっと含みのある声色で話しかけて来た。
「修一君を狙ってるんでしょ?」
「は・・・ね、狙ってないから!」
ひどい言い方だ。僕はひそかに恋をして、その気持ちが終わるまで永遠に隠し通す決意をしたのだ。決意を軽く見られては困る。
「好きなんじゃないの?好きならぐいぐい攻めていかないと」
「いやです。だって、望みがかけらも無いのに行動を起こしても意味ないです」
大島部長は悩みを親身になって聞いてくれるので、とても話しやすい。それで僕の恋の悩みも聞いてもらったのだが、部長は必ず「攻める戦略」を推してくる。どうやらそれ以外の選択肢は頭に無いようだ。
初めて修一くんの話をした時は、「好きな人とクラスが別なんだけどどうしよう」みたいな話だったのだが、それを聞いた部長は、なんと修一くんを説得してアンサンブル部に入れてしまったのである。恐ろしい行動力だ。
「私は脈ありだと思うけど。今の修一はその気がなくても、行動次第で変えられる」
部長の行動力は生まれつきなのだろう。
「そんなわけないです。この前なんか、彼女が欲しいとか言ってたから。・・・ふらっとどっかで彼女を作ってくるんじゃないかと思います」
すると、部長が神妙な顔になった。
「・・・修一君が言っていたの?本当?」
「はい!彼女のために奉仕するんだーとか言ってました」
「へぇ、そっか。なるほど、恋愛する気はあるのね」
いや、恋愛って言っても女の子に向いてる気持ちじゃダメじゃん。
「うん、やっぱりプッシュだな」
「な、なんでぇ!?」
部長の気は変わらないらしい。
「いい?これまでの言動から察するに、修一君は恋愛というものに対する価値観が存在しないか極めて未熟。これはほぼ確定。で、それに加えて今回の発言。恋愛する気が全くないのでは無く、あくまで未熟なだけだったって事が分かった。これは言い換えれば・・・まだ可能性が残されているどころか、つけ入る隙が爆増してるまである!」
なんでー?そんな上手い話あるー?その理論で行くとしても、「男は気持ち悪い」ってなったら一発KOだ。つけ入る隙なんてあったもんじゃない。
「うんうん。心配な気持ちはよーくわかるよ。なんたってこの先は不確定要素。私も修一君の心の内が全部わかる訳じゃないからね。これより先、修一君のもっと内部のことは想像すら叶わない・・・」
大島部長は、僕に向かって、流れるように語って見せる。こういう時の部長は目をキラキラ輝かせて楽しそうに語るのだ。
「だからこそ!西村君、君には臨機応変に対応する能力が必要なんだ。そこで一番大事なことがある」
一番大事なこと・・・これは知っている。部長がいつも言ってるから。
「言葉にして相手に伝える・・・」
「そう!その通り!もしかすると・・・君は修一君の言葉に傷つけられる時があるかもしれない。でもそんな時こそはっきり伝えるんだ。そうすることで初めて、修一君は君にとって何が嫌で何が良いのかを知る」
そっか・・・。行き違ったままじゃ良くないもんね。
脳裏に、先日の修一くんが言った「彼女欲しい」っていう発言だけじゃなく、それ以外にも修一くんの言葉で傷ついたり、動揺してしまったりした記憶が浮かんできた。いずれも僕は、「修一くんは悪くない」って思って、気持ちを隠してきた。
はっきり伝える。そうすれば、行き違いも勘違いも無くなる。
「ありがとうございます。覚えておきます」
これは、この話に限らず、大事なことだと思った。
「告白はしませんけど」
「そっか。・・・うん、それでいいかもね」
大島部長は、少し含みのある笑顔で言った。
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