第3話 - 2
勝志は、高校に入ってから特に、おしゃれに気をつかうようになった。おしゃれを楽しむ勝志は生き生きしていて良いと思う。それに、ちょっとセンスが良いからこのまま磨いていってほしいって気持ちもある。
そういえば、勝志はアンサンブル部に入ろうという時も積極的だった。
大島先輩―――当時は俺たちが1年生、大島部長は2年生で副部長―――が、音楽の素晴らしさと入部するメリットを熱く語って聞かしてくれて、それを聞いてようやく入ろうかな、っていう気になった俺と比べれば、大きな違いだ。
初めは興味が無いから断ろうとしたのだが、大島先輩の話を聞いて、まあ迷惑じゃないならいいかなって思えてきて、それにプラスで勝志が誘ってきてたのもあるので入部した感じだ。さすがに何もしないのは失礼なので、備品にある中で楽器をいろいろ練習してみたりて、俺なりに楽しめていると思う。
一方で勝志はとても楽しそうに先輩たちと練習しながら、自分の技術を磨いているようで何よりだ。
そんな勝志は今、俺の前で洋服を品定めしている。
「ねえ、これ一番良くない?」
勝志が、ズボンとシャツを上下セットにして見せてくる。
結局俺に聞くのか・・・。
「うーん、良くない」
「えっ!?」
「て言ったらどうする?」
なんとなく、俺はからかうようなことを言ってみた。
「・・・ちょっと怒る」
「ごめんごめん」
勝志がぷいっとそっぽを向くしぐさをする。
「もっと誠実に言ってよ」
「ごめんなさい」
俺が丁寧にお辞儀すると勝志が笑い出す。
「ぶっ!あはは!許す!」
「あ、お前調子乗ってるだろ!やっぱり俺別の所に行こうかなー。なんて」
「だめ!こうやって逃げられないようにするから」
勝志が俺の腕をホールドする。
それからも俺たちは、他愛もない話をしながら買い物を楽しんだ。
楽しい時間はあっという間に過ぎる。
俺は、大型衣料品店の紙袋を抱えたほくほく顔の勝志とともに、ショッピングモールのたくさんの人が行きかう通路を歩く。
そんな中、俺たちのすぐ横を、手をつなぎながら談笑するカップルが通り過ぎた。ふわっと香水の臭いがしてくる。
彼らが十分に離れてから、俺は勝志に言う。
「はぁ、俺も彼女欲しいな」
ああいうのを見ると、なぜか言いようのない、負の感情が出てくるので不思議だ。あんな彼女が欲しい!ってわけでは無いんだが、やはり、実際に目にしたときの目前にあるっていう現実感がそう感じさせるのか。
「かわいい彼女と、一緒に楽しい時間を過ごすんだ。きっと、彼女のために頑張って喜ばせた時が一番幸せだ。なあそう思うだろ?」
俺が同意を求めて勝志のほうを見ると、さっきのほくほく顔はどこへ行ったのか、表情が無になっていた。
「ア、ウンソウダネ」
勝志はまっすぐ進行方向を見て、俺と目を合わせようとしない。
うーん。これ系の話が苦手なのも昔からなんだよな。でも今回は以前と違って露骨に避けるんじゃなくて、何とか取り繕うとしているように見える。理由はわからん。
「ア、見て!鬼○の刃だよ」
勝志が指さしたのはイベントブース。行きと同じ道を帰っているので、見るのは2回目だ。
「それさっきも見たじゃん」
「あ、うん」
勝志の取り繕いをぶっ壊してしまったことに、言った後に気づく。さすがの俺でも気まずさを感じるな・・・。
「え、えっとね」
勝志が、なにか絞り出すように言い出す。
「これからも、ずっと、今日みたいに僕といっしょに遊んでくれる?」
何かと思ったら、そんなことか。
「おう。安心しな。急に消えたりしないから」
「・・・うん」
勝志は、うなずきながらふっと嬉しそうに笑う。
そして、「行こっか」と言い先に歩き出す。でもその表情は、どこか寂しそうにも見えた。俺は慌てて後を追いかける。
勝志がすたすたと先を歩いて行ってしまったので顔が見えない。だが、その足取りは何かから逃げるようだ。
勝志が暗い表情をするのは珍しいことではないが、俺がその原因を知ることは少ない。
今回のことも、勝志の笑顔を取り戻せないもどかしさを感じながらも、俺はどうすれば良いのかわからなかった。
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