第3話 - 1

 今日は休日。俺は勝志と二人でショッピングモールに来た。ちなみに、誘ったのは俺じゃなくて勝志だ。


 勝志は、店員によって運ばれた豪華なスイーツパフェを前に、目を輝かせながらスプーンを手に取った。


「おう・・・よくそんなに食べれるな」


「せっかく来たんだから、いっぱい食べなきゃ損じゃん?」


 勝志はそう言うと、縦長なグラスのパフェの頂上をスプーンですくう。


 それを口に入れると、幸せそうな表情で味わう。


 実はこのパフェの前にすでに焼き肉を食べている。俺は普通に焼き肉をおかずにご飯も食べてお腹いっぱいなのだが、勝志は炭水化物はパフェて摂るからとか言って、でかいパフェを注文。なんかすごい体に悪そうだ。


 なので俺は手持ちぶさたで、パフェを食べる勝志を眺めるぐらいしかやることがない。だけどまあ、勝志の幸せそうな様子を見るのは悪くない。勝志はこう見えて、意外と繊細な表情をする―――特に、どこか憂いのある表情が多い―――ので、こうして全身で幸せを表現しているような様子はとても良いと思うのだ。


 田舎で何もない地元から、2時間も電車に乗ればそれなりの地方都市につく。ここでなら、好きなだけ買い物ができるし、遊ぶところもいっぱいある。基本的に物の値段が高いのが難点だが・・・。


 逆に言うと2時間もかけないと来れない場所なので、せっかくならめいっぱい遊ぼうと思うと、今日みたいに朝から出かけて夕方で帰るという感じになる。


 というわけで今俺たちは昼食を食べていて、まだ午後も遊べるという感じだ。


「この後はどうするか考えてある?」


 俺が尋ねると勝志が答える。


「えーっと、服を買いに行こうかなって」


「ああ」


 俺はちょっと考えてから言う。


「俺、別のところ見に行っていいか?服屋に行っても買う物無いし」


「えッッ・・・!」


 勝志がこの世の終わりみたいな表情になる。


 なんだ・・・こいつ。


「そうかそうか。そんなに俺と行きたかったか」


「う、うん。修一くんに、僕に似合う服を見てもらおうと思って・・・」


 うーん、昔からこうなんだよな。寂しがり屋なのかわかんないけど。


「別にそういう事なら一緒に行くよ」


「ふぇっ、ほんと!?」


「うん」


 勝志の表情が復活し、それから嬉しそうに俺に言った。


「へへ。今日はずっと二人きりだね」


 うーん、そういうことはもっと大切な人に言うべきじゃないかなぁ。彼女とか、今の一言でイチコロじゃないのだろうか。


 勝志に彼女がいるという話は聞いたことがない。そして、ずーっとこんな感じで俺にべったりなので、多分本当にいないんだと思う。


 勝志が俺に好意を向けているのは知っているのだが、こうしてみるとやっぱり心配になる。もし俺がいなくなっても勝志には元気にやってもらいたいので、俺ばっかりなのは良くないと思う。進路が別々になって、今みたいにたくさん会えなくなるかもしれないし。


 それに、せっかくなら、その好意をもっと別の人に向けてすればいいのにな、と思う。俺じゃ勝志に釣り合わないと思うのだ。こんな頭も良くなく特に才能もなく冴えない人じゃなくて、もっと素敵な人を慕えばいいのに。そしたら、勝志もその人も幸せだ。そこに俺はいらない。


 ・・・ただまあ、それは勝志の好意を無下にする理由にはならない。だって、勝志は笑った顔が一番だ。




 それから俺たちは、ショッピングモールの中の、大型衣料品店に向かう。大量に服を作って廉価で売るアレだ。


 その店内の一角にやってきている。


「ほら、これ良くない?」


 勝志がウキウキ顔で、服を体に合わせて、俺に見せてくる。


「いいんじゃない?」


 俺は適当に答える。


「こっちは!?」


「うーん、いいんじゃない?」


「・・・これは?」


「いい感じ」


「ちょっと!全部適当に答えてるでしょ!」


「ばれたか」


 ちょっと意地悪してしまった。でも本人が楽しそうに笑っているからセーフ。


「んーっ!自分で考えろってことだね。わかったよ」


 そう言うと勝志は店内に置かれた鏡を見ながら服を決め始める。

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