第2話 - 1

 僕の名前は大村勝志。


 僕にはずっと前から悩んでいることがあって・・・。


「おう。今日も懲りないな」


 僕の目の前にはちょっと陰気っぽい男子生徒———岡田修一くんが席に座っている。


「今日は図書室に行こう!」


 僕は修一くんの顔を覗き込むようにして話しかける。修一くんはいつも下のほうを向いているので、こうしないと目を合わせてくれない。


 修一くんは別のクラスなんだけど、昼休みは一緒にいたいからここまで来てお誘をしているというわけだ。


「昼飯を図書室で食うのか?さすがにダメだろ」


「あ、弁当はここで食べるよ。食べ終わったら図書室行こ」


 机と椅子はどうしようかな、と周りを見ると、修一くんの前の席の人がちょうど立ち上がってどこかへ行く様子だったので声をかける。


「この机使っていい?」


「ん?ああ、いいよ」


 優しい声で答えてくれた前の席の人は、僕よりも背が高い男子だ。というか、僕は身長が160しかないので大抵の人より背が低い。


 そして、僕はしょっちゅう修一くんのもとへ通っているせいで、もうだいぶ顔なじみだ。


 そんな彼はどうやら友達と学食に行くらしい。彼がいない間にうまいこと机を借りられたらしい。これで修一くんと一緒にお昼ご飯が食べられる。


「ありがと!」


 僕は礼を言うと、彼の机を動かして修一くんの机にくっつけようとする。


 すると、修一くんとがっちり目が合う。と言うよりは、修一くんはじっと僕のことを見つめていて、目が合っても全然動かないのでそうなるのは必然だ。僕のほうはと言うと、恥ずかしくてばっと目を逸らしてしまう。


 何を隠そう、僕は修一くんのことが好きなのだ。もうだいぶ前から。


 僕の悩みは、自分の気持ちは一生伝えられないと割り切っているつもりなのに、どうしても諦めがつかないときがあるってことだ。


「お、お弁当食べようかな」


「おう」


 僕がそう言うと、ようやく修一くんは僕から目を離し、自分の弁当をカバンから取り出す。


 修一くんの視線がカバンのほうへ向いている隙に、今度は僕が修一くんを見る。口元とか、ちょっと骨ばった手の甲とか、耳の下らへんの首とかだ。もちろん、間違っても目が合わないように、ほんの短い間にとどめる。


 僕と修一くんは幼馴染だ。じゃあいつから好きだったかって言うと、それは正直自分でもよくわからない。好きになった瞬間が、恋を自覚した時だというなら、それは中学2年生の秋ごろだ。今は高校2年の夏だから、もうすぐ3年も片思いってことになる。


 その間に僕はさんざん悩んだ。いろいろ考えてわかったことは、僕はとても独占欲が強いってことだ。


 恋を自覚して、気持ちが盛り上がって、告白したいなって思うようになった。でも、すぐにそれはできないと悟った。だって、僕は男だ。修一くんが、「俺の彼氏になっていいよ」と言うとは思えない。僕は違うから分からないけど、やっぱり普通の男の人は、男と恋愛関係になることは嫌だって思うはずだ。


 それに、昔の記憶がよみがえる。「俺、女の子はショートよりロングのほうが好きだな」って言ったのは修一くんだ。いや、確かもう小学校くらいの時の話だったと思うのだが、今でもこう思うのだ。やっぱり修一くんは「普通の男の人」として、成長しているんだなって。僕とは違うところを知るたびに、修一くんがは普通に女の子と恋がしたくて、男ははなから対象外なんだって実感した。


 僕はそうじゃなかった。僕はどっちのほうがいいとかわからない。女の子でも男の子でも、大好きだから、みんな仲良くしたい。一緒に打ち解ければハッピーだ。


 ・・・でも、矛盾しているようだけど、僕は修一くんに恋をした。


 それから時間が経つと、必ずしも告白をしなくてもいいんじゃないかって気づいた。だってそれは、僕がやりたいことの一つでしかないはずだ。告白したら満足して終わり、ってわけではないから。


 じゃあどうしたいか。・・・一緒にいたい。僕は修一くん以外では満たされない。修一くんは僕にとっての特別だし、僕は修一くんの特別になりたい。そして、修一くんは僕だけに構ってほしい。他の人のところに行くのは嫌だ。僕は、独占欲が強くて、嫉妬深かった。目を逸らしたくなるほど汚い感情だと思った。


 こんな気持ちを伝えるわけにはいかない。かわりに僕は、修一くんといっぱい一緒に過ごして、自分の記憶を大好きな君でいっぱいにする作戦にすることにした。


 今日図書室に誘ったのはそのためだ。こういうのを下心っていうのだろうか。いつもと違うところに行って、修一くんと新しい体験をしようっていうのが本心で、すごい失礼な気がするけど、図書室である意味は特にないのだ。


 そういう意味では、さっき修一くんのことを盗み見したのは、もう痴漢の一種かもしれない。意識して見ていると、なんだかドキドキして楽しい。こんなの、絶対に本人にばれないようにしないと。


 とまあ、最近はしばらくこんな感じだ。


 要は、修一くんに僕のわがままを聞いてもらって、一緒に過ごす機会を増やす。こんなやり方しか、僕は知らないのだ。

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