21-2


 そんな、核が完成しちゃったの!?


 ハッとした時にはもう、気をしっかり持っていないと目を開けていられないほど強い風が辺りに吹き荒れていた。

周囲にある魔力がどんどん核に吸収されていく。


「きゃあああぁぁ!!」

「みかげ……ッ、掴まれ!」

「あはははは!! みんな良い子だね。僕のところにおいで!」


 魔法で動いている街の明かりが蝋燭を消すように消えていく。

周りにあるクォーツ草も、遠くに見える木々の葉も、リュウの隣にいるガーディアンも全て魔力を失っていく。


 リュウの肩にいたトカゲは、人形のように力無く地面に落ちた。


 あんなに綺麗だった中庭は暗闇に包まれて、月明かりでかろうじて辺りがうっすらと見えるくらいだ。


 魔力のない夜がこんなに暗いこと。

私、知らなかった……。


 ーーふと、どこからか蝶が一匹漂ってくる。

それは一瞬私に触れた後、すぐに光を失って紙切れのように風に巻き込まれていった。


 その姿を目で追っていた時。

悲しいとか、怖いとか、震えるような声が私の中にたくさん入ってきた。


 でもこれ……私の感情じゃない。

もしかして魔力が泣いてるの?


「なんで……。どうしてこんなことをするの?」

「どうしてか。ぼくは魔法が大好きだから、かな?」


 うん。とリュウは自分が出した答えに納得するように頷いた。


「魔力の価値って利用する人に比例するよね。だから僕がこの世の全ての魔力を使ってあげるんだ。だって僕が一番強い魔法師だから!」

「狂ってるな。人間は魔力に力を借りているだけだ。魔力は、誰かのためにある”モノ”じゃない」


 シトアは苦しそうに地面に片膝を突きながら、強い眼差しと声色で言った。


 私、シトアの言っている事なら分かる。

魔法は魔力と会話をすること。

魔力にも人間みたいに性格があるし、心がある。


 シトアの言う通り、魔力はモノじゃない。

魔力は、生きてるんだ。


「一番強い魔法師? ふざけんな!! あんたなんてただ魔力を強迫して、力づくで従わせているだけじゃん!! そんなの強いって言わない!」


 私が力の限り叫ぶと、リュウは私の言葉を聞きながらゆっくり瞬きをした。


「意見が合わないなら、君はいらないな」

「みかげ!!」


 シトアが手を広げて私の目の前に滑り込んでくる。

その時、ドクン! と強く自分の心臓が鼓動したのを合図に辺りが真っ白になった。


 私の目の前に、リュウが放った赤い光が迫ってきている。


 でもそれは、まるで時間が止まってしまったようにぴたりと固まっていた。

風が止んでいる。

街も周りの木も、月明かりに照らさらている雲すら動いていない。

それにーー。


 明るくて、暖かい。まるで昼間みたいに。


 シトアが何かの魔法を使ったんだ。

地面に手をついているシトアは、死んじゃうのかと思うくらい息を切らしている。


「シトア、大丈夫!? 何が起きたの?」

「影の反対だ……」

「え?」

「今俺たちは光の中にいる。光は時間軸が違うから少しなら時間が稼げる。いいか、よく聞け」


 シトアは起き上がって私の両肩を掴んだ。


「まだ少し魔力が残されていたからなんとか魔法を使えたが、このままいくとそれも無理だ。核を持っているあいつ意外誰も魔法が使えなくなる」

「どうしたら……」

「みかげにかける」

「わ、私?」


 私ってそんなにすごいことできたっけ!?


 慌てふためく私の肩を、シトアはぎゅっとした。


「いいか? 核が吸い取った魔力を取り返せ」

「え!? どうやって!?」

「分からん。でも俺が知る限り、みかげは誰よりも魔力を集める力が強い。なんとかなるだろ」

「え、え!? 仮に取り返せたとして、どうするの!? あんなに沢山の魔力、どう扱っかったらいいか……」

「あとは俺が何とかする。できるよな? ていうかやれ」


 最後にシトアは私の肩をポンと叩いた。

しかも今まで見たことがないくらいの笑顔だ。


「や……やります」


 自信はなかったけど、私は腹を括った。


「時間がない、いくぞ!! さん、にー、いち……」

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