22 圧倒的ヒーローは二人


 パッと、布をかけたように闇に戻る。

シトアに引っ張られて、迫ってきていた光をなんとか避けた。

その隙にシトアが私に目配せをする。


 大丈夫、焦るな。

深呼吸をして……。


 私が全部受け止める。

私がなんとか助ける!!

だから、一緒に元の場所に帰ろう!!


 私は願いを込めながら思い切り両手を広げた。


「あはは、何それ降参のポーズ? 素直になるなら許してあげても……」

「みんなあぁーー!! 避難所はこちらでございますーー!!」

「……は?」


 リュウの顔色が変わった。

私が意味不明な事をしているからじゃない。

徐々に私の方に魔力が引き寄せられているからだ。


 核と私の魔力の引っ張り合いは、気を抜くと意識を失ってしまいそう。


 でも、絶対負けないんだから!!


「んんーーーっ!!!!」


 私が立っている所に一つ、芽が生えた。

それはポツポツと増えていって、中庭が明るくなっていく。


「嘘だ、こんな小娘に……!!」


 リュウは私に何かの魔法を使おうとした。

そりより早くシトアが私の手を掴む。


「生徒には優しくしなくちゃ。なんだろ?」


 私の手を伝わって魔力がシトアの方に流れた。

感じる空気は暖かくて柔らかい。

私、シトアの魔法は好きだ。


「これで終わりだ!!」


 腹の底に響くような声でシトアが叫ぶ。

様々な光が辺りを駆け巡って、リュウの足元を這い上がるように巻きついた。


「な、なにぃ!? ああ、ああぁぁぁぁッッ!!!!」


 リュウの声が突然途切れる。

嵐の前のような静けさに包まれて、リュウは糸が切れたように地面に倒れ込んだ。


 核の暴走が止んだ……?


 百華の核は、リュウの手を離れて地面に落ちた。

それは私の足元まで転がってくると桜色のスニーカーにぶつかって止まる。


 恐る恐る手に取ってみる。

吸い込んだ魔力が、オーロラのように薄い膜の中で漂っている。

時々光に反射して輪郭が分かるだけでものすごく薄くて透明な膜だ。


「あ! もしかしてこれ、クォーツ?」

「ああ。器を擬似的に作れば核の暴走は止まる。魔宝石の原理と同じだ」

「なるほど」

「それ、貸して」


 シトアは核を風に当てるように持ち上げた。

すると中に入っている光が、一つ、また一つと蛍のように抜け出してくる。


「わぁ、綺麗……」


 次第に辺りの魔力が戻ってきて、夜の景色はいつものように輝き出した。

時間をかけて魔力が抜けきった核は、膜の中でゆらゆらと蜃気楼のように揺れている。


「シ……シトアさん」


 突然死にそうな男の人の声が聞こえた。

驚いて振り返ると、そこにはカラスさんが居た。

顔色が真っ青だし血だらけだけど、立っていられるのを見るととりあえずは平気そうだ。


「カラス。今頃起きたのか」

「すみません……。こうなる前に黒幕を特定しようとはしたのですが……力不足でした」

「まぁ、結果オーライだろ。人が集まる前に退散してくれ」

「はい」


 カラスさんはぺこり。と頭を下げると、地面に転がっている仲間を全員担ぎ上げて影の中に足を踏み入れた。


「あ!! 待って!」


 私が呼び止めると、カラスさんは少し振り返る。


「私、実はカラスさんが百華を騙したんじゃないかって疑ってしまったんです。ごめんなさい!!」

「いえ……任務中に姿を見られてしまった僕のミスです……ちゃんと隠れていたつもりなんですけど……目が良いですね」


 カラスさんはそう言ってジッと私を見た後、シトアにしたようにペコっと頭を下げて影の中に潜って行った。


「とりあえず、魔法警察を呼ばないとな」


 空気を切り替えるようにシトアが伸びをする。

そして空に指をかかげて流れ星を降らせた。


 その後少しして、シトアの伝令を聞きつけた瑠璃ねぇと琥珀ねぇが血相を変えて私を迎えに来たのだった。


 二人にもみくちゃにされながら家に帰った私はまずお風呂に入って、あったかいハーブティーを飲んで、布団に潜り込む。

それが日常的すぎて、今日起きたことが全部夢なんじゃないかって思えてきた。


「みかげちゃん、おやすみなさい」

「うん。おやすみ……」


 瑠璃ねぇが私の部屋の明かりを消す。

カーテンの向こう側のキラキラした光を感じながら目を閉じていたら、すぐにウトウトとしてきた。


 明日からまた、クォーツ作りがんばろ……。

だってまだ、完璧なクォーツ作れてないもん……。

明後日は試験だし……。

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