20-2
「寺島百華は今回のクラス分け筆記テストで一人だけ満点だったんだ」
「へぇ〜、さすがだね」
「それなのに、核を消せば魔力を得られるなんて絶対にありえないことを何故やろうとした?」
「絶対あり得ない? そうなの?」
私がぽけーっと尋ねたら、シトアに呆れたような眼差しを向けられた。
「魔法を使う上で一番大事なものはなんだ?」
「魔力の本質を理解する?」
「そうだ。本質があるから魔力がある。本質がないものが魔力を持つことはあり得ない」
「え。待って、頭がこんがらがってきた」
えーと、シトアが言いたいのは……。
「そもそも人間には本質がないってこと? なんで言い切れるの?」
「それは再生の魔法が証明してるだろ」
シトアに言われて私は再生の魔法のことを考えた。
再生の魔法を使うには、トカゲが持つ魔力が必要。
その魔力の本質は?
トカゲの尻尾は、自己再生できるとは言っても骨までは完全に再生することはできず軟骨になってしまうらしい。
形は戻ってもそれは別物ってことだよね。
「えっと。トカゲの魔力の本質って、模造?」
「ああ」
……。
つまり人間が本質を持たないこととどう繋がるんだろう。
私がそう思ったのが分かったらしく、シトアは説明を始めた。
「再生の魔法は人間以外の生き物には禁忌ってことは知ってるよな?」
「うん、それは教科書に書いてあった。再生の魔法を使うと形は元に戻っても魔力は失われるからだよね? 魔力が失われたら生き物は死んじゃうから」
「ああ。それなのに人間の医療には頻繁に使われるし、特に何も変化なく暮らすことができる」
「あ! そっか、それって人間に魔力がない、つまり本質がない証拠なんだ」
ようやく理解した私はふーと息を吐いた。
「ということを寺島百華が分かっていないはずがない。つまり誰かにそそのかされたって考えられないか?」
「ええ!? でも、百華の核がなくなることで得をする人なんている? 他の受験生はそんなことしないだろうし……」
シトアは再び考えるように黙り込んだ。
もうすぐ駅についてしまう。
人通りが多くなってきたところで、シトアはハッとして私を見下ろした。
「目的は、核を体の外に出すことだ」
「なんで? 研究に使うとか?」
「いや。器を失えば魔力は現象を起こし続けるよな? それと同じだ。人間の核も器を失えばーー」
魔力を集め続ける。
恐ろしい考えが浮かんで私はシトアと目を合わせた。
シトアは急に走り出して、来た道を戻っていく。
「え!? どこに行くの!?」
慌てて追いかけると、シトアは私を振り返って制止するように手のひらを向けた。
「みかげは家に帰ってろ!」
「嫌だよ!!」
シトアは私を無視して何かの魔法を使った。
急に走る速度が上がったからスピードの魔法を使ったんだ。
でも私足の速さは負けないもん!!
私が全力疾走で追いかけて並走するとシトアはぎょっとした。
「来るな! 帰れ!」
「嫌だ! だってそんな事どうやってやるの!? 百華は大丈夫なの!?」
私の譲らない様子を見て、シトアはため息をついた。
「いいか、説明を聞いたらさっさと帰れよ」
「う、うん……」
それはどうだろう。
と思ったけど言わないでおいた。
私がそんなことを考えているとは知らず、シトアは走りながら大きく息を吸う。
「核を体外に取り出すのは不可能じゃない。一度体から核を消し、その後元に戻そうと再生の魔法をかける。でも、もしその時すでにその場に体がなかったら?」
「えっと、再生の魔法が発動した場所に核だけとり残される……とか? でもそれってどんな魔法?」
「魔力の混合だ。再生の魔法に強い遅延魔法が掛け合わさっていたら……」
私はシトアの言う事を頭の中でイメージした。
「あ、そうか! 核を再生しようと発動した魔法はものすごくゆっくりになるから、体が動けば体外で再生されてしまう」
走っているからだけじゃない。
シトアの言っていることが急に現実味を帯びてきて、私の心臓は早鐘を打ち始める。
気づけばもう私たちは学園の前まで来ていた。
私は立ち止まったシトアの服を掴んだ。
「そういえばリンゴの魔力が百華の体の中で弾けた時。私、金色の光を見たの」
あれは再生の魔法が発動した合図だったんだ!
「つまり寺島をそそのかした犯人は、あの場にいた誰かって事か」
「だけど、みんな百華を助けるために集まったんだよ」
って、あれ?
待って、あの場にはそれ以外の人物がもう一人いた。
リンゴの木の陰に潜んでいた人が……。
犯人は、カラスさん!?
「大変だよ! リュウ先生があぶっ、……!?」
シトアについて校舎の中に入ろうとした時。
突然強い地震のような衝撃に襲われた。
視界が歪むような眩暈がして私とシトアはバランスを崩す。
だけど、街ゆく人は平然と通りを歩いているからそれを感じているのは私たちだけみたいだ。
「う……魔力が……」
と言って、シトアは頭を抱えながら地面にうずくまった。
水が吸い取られるように、周囲の魔力の光がラディアント学園の方に引っ張られている。
色がぐちゃぐちゃに合わさって、見たこともない異様な光景ーー。
私はシトアの言っていたことが本当なんだと実感した。
カラスさんは核が完成した時、膨大な魔力を得て何をするつもりなんだろう。
でも表面張力のように周りの魔力達が吸い取られまいと耐えている様子を見ると、きっとまだ核は出来上がっていない。
とにかくリュウ先生に伝えなくちゃ!!
私はその一心で起き上がった。
大丈夫、頭が割れそうだけれど慣れれば動けそう。
「あっ、おい……待てこら!」
シトアが私を引き止めようとする。
だけどすぐにまた地面にしゃがみこんでしまった。
きっとシトアは魔力の感受性が私よりずっと高いんだ。
だったら尚更、タフな私がなんとかしないと!
「大丈夫、リュウ先生に事情を伝えてくるだけだから……!」
そう言い残して私は中庭に向かった。
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