20 点が線になる時

 百華の両親が近寄って来たのを見て、ガーディアンはすかさず拳を振り上げる。


 ーー危ない!


 その時、リュウ先生がさっと手のひらをガーディアンに向けた。


 ガーディアンは百華の両親に危害を加えることなく、この前と同じようにその場に崩れ落ちる。


「誰か救急車を!」


 ガーディアンが動かないのを見てザマス先生は急いで百華の元に駆け寄った。

そして腰につけていたポーチから何かを取り出すと百華に向かってステッキを掲げる。


 金色の光が百華の体に乗り移った。

この光は医療系の魔法を使うときによく見る光だ。


 と思ったところで、私はさっき百華が黒魔法を使った時に感じた違和感の正体に気づいた。


 あ……。

もしかして、黒魔法の光と一緒に見えたのは、医療魔法の光?

黒魔法とは反対の魔法なのに、どうして……。


「大丈夫、生きています。気を失っているだけだわ」


 ザマス先生はほっとした表情で私たちを振り返った。


 百華は確かに消滅の黒魔法を使った。

だけど、何かが変わることはなかった。


 それが分かった時、その場の緊張の糸が一気に解ける。


「よ、よかったあぁ。どうなっちゃうかと思った……」


 私は崩れるように隣にいた琥珀ねぇと瑠璃ねぇに寄りかかった。

百華の両親は横たわっている百華の手を握りしめている。


「ごめんなさい。私たち、もっと早く百華ちゃんの気持ちを聞いていれば……こんなことには……」

「これからやり直していこう」


 泣きじゃくる百華のお母さんの背中を、百華のお父さんは抱き寄せた。

その姿を見ていたら私は少し安心して、瑠璃ねぇと琥珀ねぇの腕を掴んだ。


「百華はまた仲のいい家族に戻れるよね?」


 そうお姉ちゃん達に尋ねると、二人は私の背をそっと撫でた。


「ああ、必ず」

「大丈夫よ」


 それから救急車が来て、百華の両親とザマス先生の付き添いで百華は病院に運ばれて行った。

それと同時に事件を嗅ぎつけた魔法警察もやって来て、瑠璃ねぇと琥珀ねぇは報告のためにそれぞれ魔法省と魔法警察署に向かっていった。


 この場に残っているのはシトアとリュウ先生だけだ。


「リュウ先生、良かったですね。百華がなんともなくて」

「うん、そうだね。本当に」


 リュウ先生はにこにこと笑った後、大きな伸びをした。

いつものトカゲは今日はリュウ先生のコートの中にいて、顔だけひょっこりと出している。

眠そうに瞬きをしているのを見るとなんだか和んだ。


「あはは、もう夜だから眠いのかな?」


 と、私が触ろうとしたら、リュウ先生はサッと身を翻した。


「今は触らない方が良いよ、気が立ってるだろうから」

「え? そうなんですか?」


 私が首を傾げると、リュウ先生は「寒いからね」と言った。


「さて。僕は黒魔法が使われたことでこの辺りに異変がないか確認してから帰るから、シトア君は三日月さんを送っていってあげてよ」

「ああ、分かった」


 シトアは私を先導するように歩き出した。

私も後について行って、扉を閉めようとした時。


 視界の隅に異様なものが映る。

リンゴの木の陰に隠れて何かがいる。

黒くてモサモサした……。


 え? あれってまさか、カラスさん?


 目を細めて見てみる。

うん、やっぱりカラスさんだ。

いつから? なんであんなところに?


 リュウ先生は気づいていないようであたりを入念に見渡していた。

そういえばリュウ先生はカラスさんにたまに気づかないって言ってたな。


「おいどうした? 行くぞ」

「あ、うん」


 私はシトアに急かされて扉を閉めた。

二人で並んで校舎を出て、駅の方に歩いて行く。

もう結構歩いたけれどシトアはずーーっと無言で、さすがに少し不安になってきた。


「シトア、もしかしてもう私のこと生徒だと思ってない……とか?」

「は? なんで」

「いや、だって今日休憩時間が終わるまでに戻ってこなかったから」

「ああ。そういや、そうだったな。けど俺は別に戻ってくる時間までは指定してないぞ」

「え」


 確かに言われてみればそうだけど……。

シトアが随分あっけらかんとして言うから私は困惑した。

ということは、私はシトアの生徒のままで良いってこと?


「え? シトア、じゃあなんでずっと黙ってるの?」

「腑に落ちないんだよ」

「何が?」


 シトアはようやく私の顔を見た。


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