19-2


「瑠璃ねぇ、百華のことが何か分かったの!?」

「ええ。さっきリュウ先生のところに百華さんから連絡があったみたい。それで様子がおかしかったからラディアント学園で会う約束をしていたらしいわ」

「そっか、良かった……」

「私は事情を話して百華さんのご両親を学園へ連れて行くから、みかげちゃんは家で待っていて」

「う、うん」


 瑠璃ねぇは一度家の中に入るとまたすぐに外に出てきた。

手には車の鍵を持っている。

車に乗り込もうとした瑠璃ねぇを引き止めるように、私は声をかけた。


「瑠璃ねぇ……。その、ありがとう」


 私を信じてくれて。

そこまで言えなかったけれど、瑠璃ねぇは私が何を言いたいのか察するように優しく笑った。


「いいのよ」


 瑠璃ねぇが車に乗り込む。

その姿が見えなくなった後、私は家の中に入ってリュックを背負った。


 そして、戸締りをしてから駅へと走り出す。

百華の無事を確認できて良かった。

だけどこうなってしまったのは私のせいでもある。


 だから私も百華の元に行かなくちゃーー!


 私が学園に着いた時、既に琥珀ねぇのバイクと瑠璃ねぇの車が駐車場に停まっていた。

辺りは静まっているけれど、微かに話し声が聞こえてくる。


 これは、きっと中庭の方だ!


 急いで別館に向かうと中庭の扉は少し空いていて、中を覗くと百華がリンゴの木の下でガーディアンと共に赤い果実を握りしめていた。


 不用意に刺激しないためか、駆けつけた人たちは百華を遠巻きに囲んでいる。


 百華のお父さんとお母さんらしき人、瑠璃ねぇ、琥珀ねぇ、リュウ先生、シトアまでいる。

そしてもう一人……げ。ザマス先生だ。

いや、げとか言ったらだめか。


 百華のお父さんは顔を真っ青にして百華の名前を呼んだ。


「そこまで追い詰めてしまったとは気づかなずに悪かった。お父さんと話し合おう。だからこんな事やめるんだ!」

「百華ちゃん、お母様が一番良い魔法師を家庭教師に呼んでくるわ。そうしたらきっとまた百華ちゃんの好きな魔法が使えるようになるわよ!」


 百華のお母さんも必死に説得している。

だけど、百華のお父さんは嘲るような顔でお母さんを見た。


「魔法師を呼んでどうする。百華は宝石師になりたがっていただろう? まったく百華のことをまるで理解してないな君は」

「なんですって!? 宝石師になるのだって魔法師の資格がいるんだから、まずは魔法師から学ぶのが適切でしょう!」

「そうじゃない、百華には才能があるんだからーー」

「そうじゃないじゃーーん!!」


 百華の顔がだんだん俯いていくのに気づいて、私は勢いよく扉を開けた。

お姉ちゃん達がぎょっとして私の名前を呼ぶ。


「まったく、家で待っていなさいって言ったのに!」

「でも百華の悩みを聞いたのは私だもん、放っておくなんてできないよ!」


 私は百華のお父さんとお母さんの前に出た。


「どうして百華が追い詰められたのか分からないの? お父さんとお母さんが自分のせいで争って、子どもが傷つかないとでも思った!?」


 百華の両親はぐっと息を飲んだように見えた。


「だ、だが百華は魔法が好きだから、魔法で生きて行くことが百華の幸せで……」

「そうよ。だから一番良い環境で学んで欲しいって」

「違うわ! 私が魔法が好きなのは、初めて魔法を使った時、お父様とお母様が喜んでくれたからです!!」


 百華は大きな声で叫んだ。


「でも、こうなるくらいなら最初から魔法なんて使えなければ良かった。こんなものなければ良かったのにーー!!」

「まずい、みんな下がれ!!」



 シトアの声にその場にいる全員がハッとする。

それと同時にシトアは魔法を使って私たちを囲むように透明のドームを作った。


 間髪入れずに百華から赤黒い光が伸びてきて、私たちを掴もうとするような仕草で辺り一帯を覆い混んだ。


 シトアが作った壁に阻まれたと分かった光は、唸り声をあげながら勢いよく百華の中に戻っていく。

それが百華の中から溢れ出ると、大きく膨張して弾け消えた。


 その時。

金色の光が混ざって見えたような気がして、私は何故かその光が妙に気になった。


 今の、何……?


「百華、百華ちゃあぁん!!」


 私は百華のお母さんの声で我に返る。

百華は地面に倒れこんでいて、そばに転がっているリンゴは真っ白に干からびていた。

意識はない。

百華の両親はそばに駆け寄った。

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