16-2


「ダメだやり直せ。まだこんなにインクルージョンも色素も残ってる」

「う、うそだ……」


 それは、産毛一本程度のインクルージョンと一ミリ程度のシャボン玉だった。

一体いつ混ざったんだろうか。

絶望すぎて私は地面に手をついてうなだれた。


 ダメだ、もう疲れた。


 体力のある私も流石に一日中踊るのは辛い。

でもこれしか風の魔法を的確に使う方法は分かんないし。


 あ……。

もしかして私の限界ってここ?


 突然頭の中が真っ白になってもう何も考えられなくなった。


「おいみかげ、諦めるのか?」


 動こうとしない私にシトアはそう言葉をかける。

だけど私が何も言えずにずっと黙っているから、シトアはかぶりを振って部屋を出て行こうとした。


 どうしよう、引き止めなきゃ。

だけど引き止めたらまたクォーツを作り続けるハメになる。

正直もうやりたくない。


 でも、でも……!


「……お」


 私が声を発するとシトアは振り返った。


「お……?」

「お腹すいたあぁぁ〜〜! 諦めるとか諦めないとかの前にお腹がすきすぎて、もう動けないよおぉ〜〜!!」


 切羽詰まって私が「うわーん!!」と泣き出すとシトアは珍しく動揺している顔をした。


「ま、まぁ、そりゃバッテリーも切れるか」

「しくしくしく……」

「分かった、一時間休憩だ。その後ここに戻ってくるかどうかは好きにしろ」


 私はメソメソ泣きながら走った。

着いた先はコンビニ。

真っ先にそこにある肉まんを全種類を買って、近くの公園のブランコに座った。


 お腹が空いてるし寒いから肉まんがいつもより数倍美味しく感じる。

胃に染み渡る栄養を感じて私は声を上げた。


 生き返る〜、冬の醍醐味ー!

 

「けど、流石に全種類は買いすぎたかも……」


 瑠璃ねぇと琥珀ねぇがいれば三人で分けたのにな。

コンビニってコラボまんじゅうがよく発売されるから一人一人違う味を買ってシェアするのが毎年恒例だった。


 去年の長野県コラボのりんごクリームまんは美味しかったなぁ。


 と思い出しながらスマホで去年の写真を漁る。

すると、琥珀ねぇと瑠璃ねぇがこたつのテーブルに肉まんタワーを作っている写真が出てきた。


 これは私がキャンペーンでもらえる肉まんクッションが欲しくて、応募シールを集めるのに毎日たくさん肉まんを食べた時の写真だ。

結局肉まんクッションは当たらなかったんだけど。


 その写真を見ていたらなんだか無性に寂しくなってきた。

やっぱり、ごはんを一人で食べるのってつまらないな。

早く瑠璃ねぇと仲直りしたい。


「うん、ちょっと弱気な気持ちになったけど。やっぱり私は頑張る!!」


 辛くても、何度だってできるまでやり直すんだ。

自分が何をやりたい事の前に私は瑠璃ねぇの名誉を挽回したい。


 こんなの全然楽勝、私ならできるよ。


 えいえいおー! と自分を励ます。

それと同時に、近くで車のドアを乱暴に閉める大きな音がした。


「お父様の嘘つき!! お父様もお母様も、もう大嫌いですわ!」


 ん? この声は……もしかして百華?


 街道の方に体を傾けると、黒い高級そうな車が公園のそばに停まっているのが見える。


 車の前には質の良さそうなスーツを着た中年男性と、艶髪を青いリボンでポニーテールにくくっている美少女が二人で向かい合っていた。


 やっぱ百華だ。どうしたんだろう?


 という疑問より、この光景を見て気づいたことがある。


「あ、分かったぁ!!」


 前に百華のフルネームを聞いてなんかひっかかったけど……。


 百華の正体は、寺島屋デパートでおなじみ寺島財閥の令嬢だ!


 一緒にいる中年男性はテレビの特集で何度も見たことがあるし、そういえば寺島財閥の一人娘は魔法の才能も人並み外れていて全国魔法模試でいつも一位を取っているって話題だった。


 って、あれ?

そしたらなんで百華はリファラル制度なんて受けてるんだろう?

噂通りならとっくに国からスカウトされてるはずだよね?


 盗み見なんて良くない。

でも、ただならぬ様子に私はつい目が釘付けになってしまった。

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