16 スパルタ教師


 私は半泣きになりながら超特急で身支度をして駅に向かって走った。


「おはようございまあぁぁす!!」


 チャイムが鳴るのと同時にシトアの部屋に滑り込む。

よかった、なんとか間に合った!!


 シトアは私が登校したことに気づくとソファから起き上がった。


「おはよう」


 と言ってあくびをしている。


「で、半日リフレッシュした成果はありそうか?」

「ふふふふ、それはもう!!」

「へぇ、じゃあ早速見せてもらおうか」


 私が自信満々で答えたからシトアは少し目を見開いた。

テーブルの上には私が昨日まで作っていた半透明のクォーツがあって、シトアはそれを手で弾いて魔力を元の場所に戻す。


 蘇ったクォーツ草を前に、私は早速魔法を使うことにした。


「はんはぁ〜〜っ、よい、よよいのよい♪」


 今日はなんとなく和の気持ちだったから、盆踊りで室内を練り歩くのだ!


「……何やってんだ?」

「今集中してるから!」

「そうか。それは悪かったな」


 私が楽しい気持ちにならないと魔力達だって楽しくない。

だから私は盆踊りに没頭した。

魔力と私の気持ちが一体になったのを感じた時が魔法を使うタイミングだ。


「よし、今だ!」


 光が乱反射する。

宙で生成されたクォーツは滑り落ちるように私の腕の中に収まった。

ガラスのように透き通っていて、窓からの光に反射して輝いている。


 つまり純度の高いクォーツを作れたということ。

二回も連続で成功したってことは、私は完全に魔法を使いこなせているんだ。


「やったー! ほら見て、ちゃんとできるようになったでしょ?」


 すごい。やるじゃん。

ってシトアからの言葉が待ち遠しい。

シトアは私の腕からクォーツを取り上げると、すぐに笑顔になった。


「甘い」

「え? なんて?」

「だから、この程度で出来た気になってるのが甘いって言ってんだ」


 え……。


 私の頭は真っ白になった。

目玉が取れそうなほど目を見開いて、口をぱくぱくさせることしか出来ない。


 その顔に何か思ったのか、シトアは少し困ったような顔で咳払いをした。


「いや、確かに格段に成長はしてる。だけどよく見てみろ。まだ色が残ってるだろ? 色素まで全部取り除け」


 色?

 

 私は惚けながらクォーツをよーーく見てみた。

けど……。


「分かんない……」


 私がそう呟くと、シトアは私が作ったクォーツから何かを引き出す仕草をする。

するとクォーツから出てきたのはシャボン玉のような、透明で虹色のモヤモヤしたもの。


「これがクォーツの中に入ってたってこと?」

「そうだ。クォーツ草本来の色素だな」


 私は宙を漂うシャボン玉を捕まえてみた。

それはパチンと弾けて、私の手のひらに何かを残して消える。


 本当によく見なければ何かある事すら分からないし、目を逸らしてしまえばどこにあったのかすら分からなくなる。

なんていうか……。


「今、俺のこと細かいって思ったか?」

「ウッ」


 図星な私を見てシトアはため息をついた。


「俺が客ならお前から魔宝石は二度と買わないな」


 と言いながら、シトアは私の手のひらにある色素をクォーツに入れた。

そしてそれを二つに割る。


 左手にある方を一度魔力の状態に戻してクォーツを作り直し、右手にある方はそのまま、二つを机の上に並べた。


「何が違うか言ってみろ」


 あ……。


 考えるまでもなく全然違う。

シトアが作ったクォーツは輪郭が少し光っているからそこに何かがあると分かるだけで、本当に色も何もないくらい透明だ。


 だけど私の作ったクォーツは透明には見えるものの、透けている後ろの景色が歪んでいて存在がはっきり分かる。


「まだ喜ぶ段階じゃないよな?」


 口に出さなくても私の表情で考えていることが分かったのか、シトアはそう言った。


 さっき私から魔法石は買わないって言ったけどその通りだ。

きっと、シトアが作ったクォーツを使って魔宝石を作ればたった一つ魔力を入れただけでもものすごく良いものが作れる。


 シトアがクォーツにこだわる理由は、誰よりも基礎を固めろって事なんだ。


 私、おしゃれが好きで可愛い魔宝石を作りたいって思ってたけどそれだけじゃダメなんだ。

なんか、思っていた世界と全然違う。


「うん……」

「落ち込む暇はない、やる事が分かったら切り替えろ」

「うん」


 私は邪念を払うように首を振った。


 そうだ、シトアの言う通り切り替え切り替え!

風の魔法を使う時は楽しい気持ちが大事。

落ち込んでたら絶対にうまくいくはずがない。


 私は心を入れ替えて自分史上最高のクォーツを作った。

……が。


「やり直し」

「ええ!」

「まだインクルージョンがある」


 シトアは今度はクォーツをひと撫でしてインクルージョンを抽出した。

指の先にわずかについているのは、ほのかに光っているからきっとクォーツ草の魔力だ。

私は再びクォーツを作った。


「よし、できた!」

「まだ色素がある。やり直し」

「ぐぬぬ……これでどうだー!」

「よく見ろ。どう見てもダメだろ」

「今度こそ!」

「やり直し」


 私はやり直しの無限地獄に落とされた。

そうしてクォーツを作り続けること丸一日。


 ひたすらクォーツの魔力を元に戻すマシーンとなっているシトアはなんだかデジャヴだ。


 けど、前回と違うのは私が目視で色素があるのかどうか判別できないということ。

正解なのか不正解なのか分からない事を永遠とやらないといけないのってしんどい。


 日も沈みかけてヘトヘトになってきた。


「これで最後にしたい……!」


 私は残された力を振り絞ってクォーツを作った。

よし。今度こそ、どこからどう見ても完璧なクォーツだ!?

私はシトアに希望の眼差しを向けた。

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