15-2
「この子は少し特殊なトカゲでね。魔法省で捨てられていたのを僕が拾ったんだ」
「捨てられる? どうしてですか?」
「要が済んだからだよ。トカゲの尻尾は切れてもまた生えて来ると言われるけれど、実際その回数は生涯で二、三回だからね」
動物は魔力がなくなれば死ぬ。
深く考えたことはなかったけれど……。
トカゲは尻尾から魔力を作っているから、再生の魔法を使うことはトカゲの命を使っているのと一緒だ。
「でもこの子はまだ生きていますね?」
「うん、魔力を餌として与えることで何度でも尻尾が生えるようになったんだ」
「え!? じゃあもう医療のために死ぬトカゲはいなくなったってことですか?」
リュウ先生は首を横に振る。
「いや、まだ実験の段階。でもそうなれば良いよね。魔力の価値が高まるから」
「魔力の価値? っていうと?」
何気なく聞いてみると、リュウ先生は目を輝かせた。
「例えば、世界で最もくだらないと言われている魔力は何だか分かる?」
「えっと、キツツキが持つ右手の小指が数回ピクっと動く魔力ですか?」
「そう! だけどそれは神経を刺激するという事だから、体の麻痺の治療に役立つかもしれないよね」
「あ、確かに!」
「それが魔力の価値を高めるってこと! それから他にも……」
その後、私は十分くらい相槌を打ち続けていた。
改札が見えてきたところで、リュウ先生はようやくハッとして話すのをやめる。
この様子を見るとよっぽど魔法が好きみたいだ。
「ごめん、つい夢中になっちゃった」
「いえ、興味深かったです! リュウ先生、送ってくださってありがとうございました!」
「いえいえ。気をつけて帰るんだよ」
リュウ先生に手を振って改札を通る。
電車に乗ってスマホを開くと、琥珀ねぇからいくつもメッセージが届いていたのに気づいた。
今日はみんなで外食するつもりだったみたい。
でも私がメッセージに気づいていなかったから、しびれを切らして瑠璃ねぇと二人だけで出かけたようだ。
メッセージにすぐ気づいても私は瑠璃ねぇと一緒に行ったのかは……分かんないけど。
「ただいまー……」
家に着いて、真っ暗のリビングに一応そう声をかける。
当たり前だけど返事はない。
私は冷凍庫にある作り置きを温めて一人で夕飯を済ませた。
ひとりぼっちのリビングって寂しい。
だから食後のお茶も飲まずに直ぐにお風呂に入った。
そのうちに玄関から楽しそうな話し声が聞こえてきて、二人が帰ってきたのが分かる。
おかえりくらい言えばいいのに、私は逃げるように”Don't enter”のプレートを部屋のドアに下げて中に籠った。
「ま、良いよ良いよ。私はこれから楽しい自習だから」
独り言を言いながらリュックからクォーツ草と、帰り際に採ってきた葉っぱと石を取り出す。
それを慎重に確認して、私は魔法を使うイメージを膨らませた。
クォーツを作ろうとかは思わず、私自身全力で心を躍らせること!
まずはタコ踊りだ。
クネクネとステップを踏んで部屋の中を右往左往する。
「タコタコたこさん♪ タコリーヌ♪」
私は踊る。
時には歌い、時には激しく。
窓ガラスに映る自分とすれ違った時、私は彼女にウィンクした。
ステッキが熱い。
木の葉の魔力がはしゃぎ回るように渦を巻いて、私に吸い寄せられてくる。
「よーし、風の魔法! そして凝固の魔法!」
私はバンザイをして飛び跳ねるように魔法を連続で使った。
色々な光が放射状に弾けて、宙で大きなクォーツが生まれる。
やっぱりクォーツ草は一気に使ってしまっていたから両腕で抱えるほどの大きさだ。
そして、肝心の純度はーー。
「アワーー!? 氷みたい!?」
インクルージョンもないし、おまけに透明になっている。
これってシトアが作ったのと見劣りしないんじゃない!?
歓喜の悲鳴を上げながらジャンプしていると、リビングから「うるさいぞー」って琥珀ねぇの声が聞こえた。
でもでも、360度回してみても、上下左右確認してみても、床が透けて見えるくらい純度の高いクォーツが作れたよ!?
「私って実は才能あるかも……」
って、あれ?
なんか急にものすごく眠く……。
「ーーハッ! 今何時!?」
時間が盗まれたかと思うくらい一瞬で朝になっていた。
噛み付くようにスマホを見ると時刻は朝の八時前。
急いで家を出ないと遅刻する!
けたたましくリビングに降りるとすでに誰もいない。
そっか、Don't enterのプレートを部屋のドアに下げてたから誰も起こしれくれなかったんだ〜っ!!
これ、間に合う!?
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