10-2
「わぁ……!」
トラック一周分くらいの広さの中庭は、一面乳白色のチューリップのような花で覆われていた。
これがクォーツ草。
とっても綺麗だけど、魔宝石の元になるものだから勝手に栽培するのは禁止。
私も実物を見るのは初めてだった。
風が吹くたびにクォーツ草は虹色に光っている。
ここには私以外誰もいなくて、幻想の世界に迷い込んだような気持ちになった。
「他の人には、ここがどんな風に見えているのかなぁ……」
私は魔力を光で感じるから、そんな風に考える事がある。
不思議な輝きをずっと見ていたいけれど、私は気を取り直して歩道として敷かれている石畳に足を踏み入れた。
手を伸ばして、しゃがみこんで、おそるおそるクォーツ草に触ってみる。
クォーツ草の感触は弾力があってなんだかグミみたいだ。
一思いに摘んでみたら、なんとその瞬間にぷにぷにした感触はガラスのように硬く変化してしまった。
「えっ!? し、失敗!? 失敗とかあるの?」
でも虹色の光は失っていない。
焦って魔法石辞典をめくってみる。
すると、クォーツ草は根を離れると自己防衛として表面が結晶化する。と書いてあった。
つまりこれは通常運転ってことだ。
私はほっとして、もう少しだけクォーツ草を摘んだ。
触った感じ意外と頑丈だからそのままリュックにしまっても平気そうだ。
「よし。あとは、石と葉っぱだね」
石はここにはないから校庭で拾おうかな。
葉っぱは……。
目に入ったのは、中庭の中央にある赤い実がなっている広葉樹。
冬だけど青々と茂っているのを見ると何か特殊な植物なのだと伺える。
それは一メートルほどの高さのレンガの塀に囲まれていて、正面にだけ通り道が作られていた。
今いる歩道から近くまで行けそうだ。
試しに近寄ってみて、私はその正体に驚愕した。
「これ、リンゴの木!?」
赤いリンゴの魔力は、消滅の黒魔術が使える。
それが頭に浮かんでゾッとした瞬間、目の前に大きな影ができた。
木を囲んでいるレンガがバラバラに崩れて宙に浮いている。
レンガは大きな音を立てながら人型ロボットのような見た目に組み変わった。
「うわぁ、ガーディアンだ……!!」
ロボットは警備によく使われるけれど、こんな風にレンガから変身するのは見たことがない。
きっと特殊な魔法石が使われているんだ。
と分析している間にガーディアンは私がリンゴを盗むと思ったのか、いきなり拳を振り上げてきた。
「ぎゃー!」
身を翻して攻撃を避ける。
運動神経だけは良くて助かった。
ガーディアンが神経質になっている理由は考えなくても分かる。
リンゴは黒魔法の中で最も恐ろしい消滅の魔法が使える魔力を持つ。
危険だから、植え替えたりもできない。
しかも育つところに規則性はなくある日突然姿を現すと聞く。
まさかこんなところにあるなんて。
死に物狂いでガーディアンから遠ざかったら、そのレンガの体は少しして再び塀に戻った。
「こ、こわかったー……」
早く中庭から去ろうと踵を返す。
でも、視界の端になぜか人が映った気がして私はもう一度振り返った。
いつの間にか、紺色のワンピースを着たポニーテールの女の子がリンゴの木の前に立っている。
「あ……。え!?」
あの子、もしかして瑠璃ねぇの悪口を言ったお嬢様じゃない!?
いつの間にあそこに?
全然気がつかなかった!
お嬢様は気の抜けたようにリンゴの木を見上げている。
不思議に思ってその姿を見ていると、やがて彼女は塀の内側に入ろうと足を動かした。
「ダメ! 危ない!!」
血の気が引いて、私は全力でお嬢様に向かって走った。
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