10 先生の教育方針
そしてその何かを私に渡すーー。
と思いきや、シトア先生はソファにごろ~んと寝転がった。
「俺本読みたいから自習しといて」
ズコーー!!
って、お笑い番組だったらずっこけていると思う。
ええええ、本当に先生なの?
先生って呼ぶのやめようかな。
「自習内容は魔宝石の元、クォーツを作ること。作り方は図書室に魔宝石辞典があるから見れば分かるし材料は学園内の菜園にある」
「はぁ……」
「下校までにできなかったら宿題な。家に二人も魔法師がいるからできるだろ?」
と、シトアが言っているのはお姉ちゃん達に習えということじゃない。
世の秩序を守るために魔法は厳しい制限がかけられていて、魔法師の管理下でないと一般人は魔法を使ってはいけないという法律があるのだ。
それにしても、だ。
「あの〜。本当に何も教えてくれないの?」
「クォーツは魔宝石作りの基礎中の基礎。しかも使う魔法も初歩的なものだ。それも自力で出来ない奴が試験に受かるのか?」
「う、うぐ……」
「まずは教える価値があるか、俺にやる気を見せてみろよ」
と、シトアは本を読みながら言った。
つまりクォーツを自力で作らなければスタートラインにすら立てないということだ。
でも……。
確かにシトアの言っていることは最もだよね。
うん、はじめから誰かを頼ろうとしたらダメだ!
これは自分の戦いなんだから。
シトアが黙っている私の様子を確認するように本を下げる。
私は金色の瞳から目を逸らさずに大きく頷いた。
「分かった。絶対、完成してみせる!」
意気込むあまり拳を作って一歩踏み込む。
その私を見て、シトアは少しだけ笑った。
……気がした。
「まぁ期待を込めて、これだけは教えてやるか」
「え!? なに何?」
ソファから起き上がったシトアが私の目の前に立つ。
やたら澄んだ目で見てくるから、少しドギマギしてしまった。
「”魔力とは物体の本質である。本質を理解してはじめて魔法が使える”」
「本質を理解して魔法が使える……? 魔法はステッキの使い方と呪文の正確性が大切なんじゃないの?」
「よく考えてみろ。魔法は魔力の性質を利用してるだけだ」
「うん……?」
なんだか、分かるような分からないような?
「じゃ、頑張れ」
シトアはそれ以上何も言わず、もう一度ソファに寝転んだ。
うーん。
つまり……どういうこと?
私は頭を抱えてしゃがみこんだ。
「うーん、うーーん」
「あのな、日が暮れるぞ。できることからやれ!」
「ハッ!!」
そうだ。一秒でも無駄にできないし、早く準備にとりかかろう!
私は早速シトアに学園内の地図をもらって部屋を出た。
まずは魔宝石辞典を取りに図書室に行こう。
学園は本館と分館に分かれていて、本館には教室が。
分館には食堂や体育館、図書室等みんなで利用する施設が揃っているらしい。
図書室は分館の最上階だ。
一度本館から外に出て分館に入り、エレベーターに乗って最上階に着くとダークブランの分厚い扉が私を出迎えた。
中に入ると、まず本の多さに圧倒される。
突き当たりの本棚が小さーく見えるくらい広くて、辺りには誰も見当たらないから静かだ。
出入り口に砂時計のような形のオブジェを見つけて、私は埋め込まれている紫の魔宝石に触れた。
すると、台座に本の検索画面が映し出される。
これはきっと雷の魔宝石。
雷の魔法は機械を動かしたり明かりをつけるのに必要だから、日常生活で一番目にするものだ。
ちなみに、雷の魔法のことを電気って呼ぶ人もいるらしい。
「えっと、魔法石辞典は……一番奥の棚だ!」
これだけ本があると目移りしちゃうけど、今は課題が最優先。
私は検索画面に書いてあった本棚まで辿り着くと、青い装丁の魔宝石辞典を見つけた。
表紙は革でできているような質感でずっしりと重い。
これが魔法石辞典……!
私は心を躍らせながら中を開いた。
紙は羊皮紙のような質感でなんとも高級そうな作りだ。
文字がブラウンで印刷されているのがより上品に見える。
目次に目を通すと、クォーツの作り方は第一項目に載っていた。
早速読み進めてみる。
“クォーツとはクォーツ草の水分を結晶化したものである。クォーツの中に魔力を閉じ込めることで魔宝石を生成できる”
と前書きにある。
これは初等部で習うほどの常識だ。
挿絵には透明の鉱物が人差し指くらいの大きさで描かれていた。
さらにページをめくると、クォーツを作るための材料が記載されている。
「えーと用意するものは……」
クォーツ草、木の葉、石。
なるほど?
私が教室に雨を降らせてしまったように例外はあるけれど、大抵の木の葉に含まれる魔力は風をおこす力だ。
そして石の魔力は凝固の魔法が使える。
辞典を読み進めてみると、クォーツ草の水分を結晶化するために必要な魔法が風と凝固ということが分かる。
「確か、材料は菜園にあるってシトアが言ってたよね」
地図によると分館はドーナッツのような形の建物で中央が菜園になっている。
私は魔法石辞典をリュックに詰め込んで図書室を出た。
一階まで降りて、中庭に繋がっていると思しき扉に手をかける。
扉はアイビーのような模様の彫刻が施されていて、いくつもの魔宝石が散りばめられていた。
色とりどりで、水滴みたいにぷっくりしているのもあれば、ダイヤモンドのように多面体にカットされているものもある。
施錠の魔法をかけるために扉に魔宝石が付いているのは珍しくないけど……。
こんなに綺麗に彩られてるの、初めて見るなぁ。
さすが名門魔宝石学校って感じ!
胸を躍らせながら扉をそっと開けてみると冷たい風が舞い込んできた。
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