8 潜在能力の暴走


 う〜〜っ!

こうなったらもう、筆記試験だけは受けるしかなーーい!


 私は腹をくくって問題用紙を開いて、まず問題の多さに驚いた。

全部で五十問。

一問に一分もかけてられない。


 えーと。

問一、数ある魔法の中で特別に制定されている三つの魔法区分を答えなさい。

これは簡単!

黒魔法、赤魔法、金魔法と。


 問二、問一の答えの定義と魔法の例を二つ以上記述しなさい。


 黒魔法は、国家を存続の危機に貶める、または生き物の生命を脅かすため禁止されている魔法。

例としては、消滅の魔法、操りの魔法。


 赤魔法は、世の中の秩序を乱す恐れがあり使用が制限されている魔法のこと。

魔法は催眠、変身など。


 最後は金魔法。

国の有事にのみ使用が許可されている魔法のことで、歴史書に記されているだけで現実に存在するのかは不明。

時間の魔法、蘇りの魔法など。


 うんうん、調子がいいぞ!

落ち着けてるしいつものテストと全然違うよ!


 次の問題はと。

問二で答えた魔法を使うための魔力は何から採取できるか答えなさい。

また、その魔力がどこから湧くかも記述すること。


 えーと。

まずは消滅の黒魔法。

魔力は”りんご”から採れるけど……魔力の源は確か色素、赤い色だ。

だって黒魔法が使えるような素材は国に管理されてるけど、青リンゴは普通にスーパーに売ってるもん。


 それから操りの黒魔法は蜘蛛から魔力を採取できて、その魔力は糸から湧いている。


 そして変身の赤魔法。

これはカメレオンから魔力を採れるでしょ、魔力の源は……。


 皮膚。

と書こうとして、私は一度手を止めた。

カメレオンの肌って皮膚でいいの?

鱗って書くべき?


「……」


 どうしよう。

一旦ここは飛ばそう!

えーとえーと。


 金魔法は幻の生き物から魔力を採取できると言われていて、時間の魔法はペガサス、蘇りの魔法は鳳凰から魔力が採れる。


 ペガサスは立髪から魔力が沸いている、と。


 ……いや待てよ?

ペガサスは空を飛ぶ時、光の粉を振りまくという。

教科書には魔力があるのは立て髪って書いてあったけど、でも本当は立て髪というよりその粉なんじゃ?


 うわ! 私時間かけすぎだ。

みんなスラスラ解いてるのに。


 周りから聞こえるえんぴつの音が耳にこびりついてくる。

それを意識しているうちに、時計の音と混ざり合ってぐるぐる脳に流れ込んできた。


 ぐるぐるぐるぐるーー。

……ハッ。

何を考えているの私は!?


 筆記でしか良い所を見せるチャンスはないから、ここでコケたらまずいのに。


 どうしよう、集中しなくちゃ……!!


 そう思えば思うほど、悪い方に雑念が浮かんでくる。

期待外れだと言われる時の眼差し。

なりたい自分になれない私。

お姉ちゃん達を見ていると自分にも期待してしまう。

だから、うまくやらなくちゃって。

だって、私にも上手くできるはず。


 じわっと目に涙が溜まった瞬間、持っているえんぴつから勢いよく枝が生えた。


 ぎゃっ!?


 それは一瞬のうちに芽吹き始めて、えんぴつはその芽から自分で魔力を集め始める。


 ぎゃああ!?

待って、これステッキじゃないから!?


 慌てて手を離した時にはもう遅かった。

一瞬のうちに集まった謎の魔力は天井いっぱいにどす黒く厚い雲を作っている。


 うそ!?

私呪文なんて唱えてないよ!?


「え? なにあれ?」

「やばくない?」


 あああ!!

教室内がザワザワしてる!!


「ちょっとおおー!? 誰ですか魔法を使っているのは!?」

「ひゃああすみません、わざとじゃないんですー!!」


 ザマス先生めっちゃ怒ってるー!!

なんだかよく分からない魔力、早く散れーッ!


 ぎゅっと目を瞑って必死に念じると、私の願いとは裏腹に限界量に達したエネルギーが爆竹のように爆発しはじめた。


「うわぁぁ!?」

「きゃああああ!!」

「みんな、教室から出なさい!」


 ザマス先生の声と同時に全員が血相を変えて教室から飛び出た。

それとタッチの差で、教室の中にはドシャーー!! と盛大な雨が降りしきる。


 や、やっちゃったーー!!

あの植物は雨を降らす魔力があったんだ!


 逃げ遅れた私は靴の中まで全身びしょ濡れになりながら、どうして良いか分からずその場に立ち尽くす。


 豪雨は一瞬で止んだけれど教室の中は水浸しになってしまって、その壮絶さに誰もが口を閉ざしていた。

ザマス先生を除いて。

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