4 魔法省で働こう
見出しは『ズンドコ財閥令息、一般大学から宝石師学校へ異例の転入』と書かれている。
それに目を走らせた琥珀ねぇはワナワナと拳を震わせた。
「ちょっと待て! 瑠璃ねぇ、魔法学校は途中入学はできないって言ってたよな?」
「ええ、前代未聞よ。そろそろ記者会見をやっている頃だと思うわ。テレビをつけてみて」
私は瑠璃ねぇに言われた通りに慌ててテレビの電源を入れた。
すると丁度ズンドコ財閥の令息、ズンドコ・タケルの記者会見が始まったところだった。
テレビの中で記者に囲まれているズンドコ・タケルは、真っ白のテカテカ素材のジレを素肌に着ていて、更に同じ生地のズボンにそれをインしている。
頭にはpowerful feverと書かれたパッチワークのベレー帽が乗っていてなんていうか……だいぶ攻めているファッションだ。
「では、ズンドコ・タケルさんは十八歳で魔法が開花するという遅咲きですが、その素晴らしい才能は政府も無視できない程だったと言う事でしょうか?」
と記者がズンドコ・タケルに聞いた。
彼は一度ベレー帽を外して肩までの長さの茶髪をかき上げると記者に向かってウィンクをした。
「ええ。僕は小さい頃から宝石師になるのが夢でね。ある時マイバースデーパーリーで僕が描いた魔宝石のスケッチを発表したんですよ。するとすぐに国からスカウトが来て宝石師学校に入学することになったんです」
ズンドコ・タケルはそう言うとスケッチブックを取り出して満面の笑みを見せた。
眩いフラッシュが白い歯を輝かせる。
スケッチブックに描かれている魔宝石はというと……。
ラーメンのナルト?と思うような渦巻きの丸い何かだったり、初等部の頃男子の間で流行った稲妻模様が描かれているギザギザしたプラスチックのコマみたいなものだった。
機能はどちらも水鉄砲が出てくると説明している。
これは……いつ使うやつなんだろうか。
「あー、分かった。金だな」
琥珀ねぇは白い目でテレビを見ながら一言言った。
「え? 琥珀ねぇ、お金って?」
「国が求めてる有益な魔法師や宝石師っていうのはさ、つまり金を生み出す人材って事だから。きっと想像できないくらいの金が動いたんだな」
「ええ。そうでなければあり得ないわ、こんなこと」
瑠璃ねぇもにこやかに同調している。
でも、目が笑っていない。
こんなに怒っている瑠璃ねぇを見るのは初めてだ。
琥珀ねぇも軽蔑するような眼差しでテレビを見続けていた。
けれどそんな二人とは対照的に、私に湧いてきたのは歓喜の感情だ。
だって、琥珀ねぇの言っていることが本当なのだとしたら……?
「それってさ、私も大金持ちになったら国を動かせるって事だよね? つまり魔法学校や宝石師学校に途中入学できるように変えられるってことだよね!?」
「え? みかげ、それはそうかもしんないけど……」
「流石にうちにそんなお金はないわよ?」
「ううん、誰かの手は借りない。私は自分でお金を稼ぐ!」
天井に向かって拳を突き上げる。
私が元気いっぱいだから、瑠璃ねぇと琥珀ねぇは怒りを忘れてしまったようで唖然としていた。
「えーと、どうやって金を稼ぐんだ?」
「あるじゃん? 私にも唯一の特技が!」
私はそばにあったおたまを手に取った。
それで二人とも、私の考えていることに気づいたようだ。
瑠璃ねぇは困惑するように瞬きをしているし、琥珀ねぇは「やれやれ」と頭の後ろで腕を組んでいる。
「みかげちゃん、無理はしない方が……」
「あーダメダメ瑠璃ねぇ、こうなったみかげは言うこと聞かないから」
「その通り! よーし、早速試作品にとりかからないと!」
私は急いで夕飯を食べ、その後はずっとキッチンに篭った。
そして出来上がったのは……。
「じゃーん! 左からハーブブレンドレモネード、アボカドとトロトロ卵をトッピングしたバジルハンバーガー、ローズマリーとブラックペッパーのポテサラサンドイッチ、ミントガトーショコラだよ」
私は完成した試作品をテーブルの上に広げた。
私の作戦は、キッチンカーで稼ぐこと。
コンセプトはハーブだからお店の名前はハーブキッチンと命名した。
ちなみに、食材は体内に取り入れるものだから魔力を取り除いたものしか農場から出荷しちゃいけないという法律がある。
「食べてみて」
私がお姉ちゃんたちの前にお皿を出すと、まずは琥珀ねぇが一口。
その瞬間、琥珀ねぇは目を輝かせて瑠璃ねぇの肩を掴んだ。
「る、瑠璃ねぇ……」
琥珀ねぇの後から試食をした瑠璃ねぇも同じような顔をしながら、ゆっくりと頷く。
「と、とてつもなく美味しいわ……!」
「やっぱり料理の才能あるよみかげ! これなら繁盛するんじゃないか!?」
「ヤッター!」
「でも、問題はみかげちゃんの年齢じゃ働けないってことよね。何かいい手があると良いのだけど」
「あ。じゃあ魔法省に出店するのはどうだ?」
琥珀ねぇの提案に私の心臓は飛び出そうになった。
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