オマケ2 佐藤と鈴木の、馬鹿やった話。(おっぱいアイス編)

 とある放課後。

 佐藤とふたりで廊下の掲示板を眺めていた。


「これはどういうこった?」

「さあ? アタシもさっぱり」


 そこには先週行われた定期考査の学年順位表が貼り出されていた。十クラス総生徒数三百数人の名がずらりと並ぶ中で鈴木は二十位にあった。我ながらまずまずの成果だった。

 そうなのだが、問題はそこではない。

 二十位からいくつ順位を下げても一向に現れない佐藤の文字。まさか三日間欠席で棄権かと思えど、テスト中の半分寝かかった佐藤の姿を思い出して違うなと納得するも最後の最後まで佐藤の名前はなかった。


「名前が無いな」

「無いね」


 まさか俺より上ではと思ったが、当然の如く名前はなかった。最初から期待などしていないさと落胆しながら隣に目を移した瞬間――、


「おい、これはなんだ?」

「どれどれ?」


 定期考査補習一覧――下記の者は成績不振により一週間の補習を命ずる、該当者一名:佐藤鈴。尚、一週間後に行われる追試の結果次第では延長有りとする。


「おかしいな。たしか定期試験の一週間前からずっと俺がティーチャーとなってご指導賜っていたはずだが」

「いやあ、珍しいですなあ。苗字は被ること多いけど名前までなんて。同姓同名って親近感沸くぅ~」

「とすると、お主の名は何処へ?」

「ほほう、あれが見えぬか。さてはお主の目は節穴かな? ほれ、よく見よ。お主の下の名を」


 二十一位。確かに苗字は佐藤である。佐藤ではあるのだが――、


「おかしいな。おまえ、いつから権左衛門になったんだ?」

「えっ!? 嘘ッ!? 佐藤鈴之助って書いてあるじゃん」

「それを言うなら鈴衛門ッ!! クソっ、やりやがったなッ!!」


 軽く佐藤の頭を小突く。


「ごめーん! 一週間分の内容、当日起きたら忘れてて」

「あの激闘の一週間は何だったんだよッ! つーか、これじゃあ一週間もお前と遊べねえじゃねえかッ!! それだけが楽しみだっつーのに」

「そう……なんだ。ごめんね、へへへ」

「ニヤついてんじゃねえよッ! よし、決めた! 今日俺んちで死ぬほど猛特訓だ。大まかに理解した上で補習受けた方がプラスになるからな」

「ええぇっ!? ヤダ! 今日観たいテレビあんの」

「悠長なこと言ってる場合か! 一週間後の追試、合格する気あんのか?」

「あるッ! 合格してコウと遊ぶ! アタシもそれだけが楽しみ!」

「え? お、おう……」

「ニヤけてる場合じゃないぞ、若造よ」

「お前がなッ!! そこまで言うなら、この因数分解解いてみろ」


 鞄の中から数学の教科書を取り出す。


「日本語でよろ?」

「さあ、行こうか」


 即刻教材を鞄に仕舞って佐藤を引きずる。


「いぃぃやぁぁだぁぁあああ! 海パン刑事シリーズ観ぃぃるぅぅ~!」

「何じゃそれ!? おいしいの?」

「おいしい! ここぞという美味しい場面で海パンから拳銃出す」

「下ネタきらーいじゃなかったのかよ?」

「……………………………………あれは許容範囲。たぶん」

「たぶんて。とりあえず連行な」

「いぃぃいいいやぁぁあああああああ!」




 佐藤を引きずり倒すこと数十分。俺の家に到着。


「はい先生! 猛特訓って何時までですか?」

「朝までだ。今日ちょうど家族が旅行に行ってるからな」

「ええぇっ!?!?」


 急によそよそしく正座をしてスカートの裾を直し始めている。


「ち、違うぞ! あくまで特訓だ! よくある『今日うち誰も居ねえんだ』のシチュとは違うぞ?」


 仕草に動揺した俺は慌ててフォローする。


「わ、わかってるよぉ。勉強だよね?」

「そうだ! 勉強だ。夜の勉強会とかではなく、あくまで正式な正当な清楚な勉強会だ」

「下ネタきらーい」

「なんでだよ!」

「だって夜の勉強会とか言うんだもん。保健体育感満載じゃん」

「あらら? 俺は夜に行う勉強のことを言ったんだが? 言ったんだが?」

「……いじわる」


 赤い顔をして頬を掻く佐藤の仕草に動揺しながら教材を取り出す。

 そしてそれから三時間の勉強、俺特製の夕食(カップラーメン)タイム、さらに三時間と続いた。


「もうしんどいです先生。帰りたいです」

「辛いけど頑張るんだ。あと六時間頑張るんだ」

「スマホでガチャ引きながら言わんでくれる?」

「俺に構わず問題を解け。解けたら採点してやるから――おっ! SSRだ! 猫耳巨乳のニャンパイパイだ」

「下ネタきらーい」

「仕方ねえだろ! そういうキャラ名なんだから」


 それから一時間。


「ね? ね? 点数上がったでしょ? もう帰らせて?」

「まだだ。あと五時間頑張るんだ」

「漫画にツボりながら言わんでくれる?」

「ははは、マジウケる! ここ神シーンだわ!――見ろッ!! 人がゴミのようだッ!!だってよ」

「それいけ猫娘ってタイトルにそんなシーンあんのッ!?」


 それから二時間。


「もうムリ、もうイヤ。アタシ帰る」

「もうちょっとだ。あと三時間だから」

「変なもん握りながら言わんでくれる?」

「これか? これはな、たまごアイスってんだ。別名おっぱいアイスっていう伝説の駄菓子だ」

「よくそんなもん女子の前で出せるよね、マジ引くわ~」

「いやこれマジ旨いんだって。こうやって先を切ってだな……ほら!」

「ホントだッ!! 面白ーい! アタシにも頂戴よ」

「残念だったな、これが最後だ」

「じゃあそれで良いから貸してよ」


 先を切って口を付けたアイスを奪おうと仰向けの俺に覆いかぶさる佐藤。


「ちょ、やめッ!! か、間接キスになるぞ!」

「大丈夫! 良い方法があるから」

「なんだよ、良い方法って」


 アイスが爆発しそうな不安から素直に渡す。

 あと半分ほど残っているアイスを眺めながら、俺が使ったハサミを手に持つ佐藤。


「ここをこうして」

「馬鹿ッ!! やめ――ッ!!」

「うわっ!?!?」


 俺が切った場所とは正反対の、留め具が取り付けてある方を佐藤が切った瞬間、アイスは大爆発を起こした。


「なにやってんだよ――ッ!?」


 今の状況。

 大爆発を起こしたアイスが佐藤の胸元に全ダイブ。若干黄みを帯びたまるで白濁液のような物体がブラウスを透けさせる。お気に入りのピンクのブラがほぼ丸見えだが当の本人は気付いていない。


「うわあベトベト。って透け――こっち見んなッ!!」

「ブラ透けしてるぅ~」

「分かっとるわ! この目でしかと見たわ! お風呂を希望します!」

「いいだろう、許可しましょう」

「やった」


 意気揚々と階段を下りていく佐藤。勉強の時間を短縮できるという魂胆は見え見えだが、俺も別の見え見えの状況で先生を気取れない。本当に夜の勉強会になったら困るからな。


 案の定、佐藤は長風呂だった。


「勉強したくないのは分かるが、そろそろ出ないか? ふやけるぞ」

『まだ。あと一時間』

「粘るな! もう今日は勉強会は終わりで良いから」

『ホント!? それじゃあ出よっかな。あっ、着替え……』

「入ってる間に洗濯と乾燥をさせて頂きました」

『ええぇっ!?…………ニオイとか嗅いでない、よね?』

「嗅ぐか馬鹿ッ!!」

『だよね、だよね。ごめん、ありがと』


 俺も大概の嘘つきだな。ピンクのブラを直接手に取って元気になっただなんて口が裂けても言えない。ニオイは嗅いでない、これは真実だ。迷いに迷ったことは内緒にしておこう。


 部屋に戻ってきた佐藤から使い慣れたシャンプーの香りがする。自分が使っている物を女子が、それも佐藤が使っていることに少々興奮を覚える。


「んじゃ、アタシ帰るから」

「まだだ。あと三時間頑張るんだ」

「増えとるやないかーーい!」

「冗談だ。送ってく」

「良いって良いって。近いんだし。それにアタシのせいでコウも疲れてるし」

「馬鹿! こんな薄暗い中、女の子ひとりで帰せるか」

「女の子、か…………それじゃ、送ってもらおっかな♪」

「よしきた。それじゃあ歩きながらこの問題を」

「まだやるんかーーい!」

「ははは」

「へへへ」


 笑いながら二人で慣れた道を歩いていった。



※※※



 懐かしいアイスをママに食べさせてもらう幼女。


「じぶんでやる!」

「ダメだって――うわっ!?」


 幼女に握られたアイスが爆発してベビー服がベトベトに。


「こらッ! 勝手なことして! あれほど言ったのに!」

「うっうっ……ぐすっ」


 今にも泣きだしそうな幼女に耐えかねて、


「うわっ!? やっべ! これマジムズイわ!」


 わざと留め具の方を切って自身の服を汚してみた。


「コウっ!! なにやってんの!」

「ははは、パパへたあ」

「よーし汚れたもん同士で風呂だ風呂」

「きゃはは、パパとおふろおふろ♪」

「………………っ」


 風呂で綺麗になった娘がすやすやと寝息を立てたことを確認してリビングに戻ると、スズがひとり沈んだ顔で座っていた。


「また怒っちゃった」

「しゃあねえって。親は子を叱るもんだ。心配してる裏返しってな。ふたりとも怒るとあれだから今回はフォローしちまったけど」

「アタシほんとバカ。ずーっとバカだったのに娘の前でなにカッコつけてんだって話だよね。まあアタシみたいになって欲しくないからだけど」

「ほんと馬鹿だなスズは」

「言われなくたって分かってますよーだ」

「違えよ! あいつはスズに似なきゃダメだろーが。思いやりあって冗談言い合える、そんなお前じゃなきゃ結婚してねーぞ。そしてあいつもこの世に居ねえ」

「……そっか」

「成績不振で補習は勘弁だけどな」

「もうっ!…………あのさ、コレあと一個残ってんだけど、どうする?」


 冷蔵庫の中からアイスを持って来たスズ。


「?」

「お馬鹿な旦那様にヒント…………このブラウスもうすぐ洗濯しよっかなーとか思っちゃったり」

「じゃあすぐ洗濯機に入れられるように風呂場でじっくり食べてみようか」

「……コウも大概バカじゃん」


 昔を思い出しながら汚した先には、想像通りのピンクのブラが顔を覗かせていたのだった。


 今も変わらず馬鹿やってます。

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ブラが透けてる女友達 文嶌のと @kappuppu

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