オマケ1 佐藤と鈴木の、馬鹿やった話。(水鉄砲編)
とある夏の日。
「コウっ! これ見て見て」
いつもの公園で待っていると、白Tシャツに黒短パンの佐藤が紙を持って走ってきた。見慣れないお宝に出くわした田舎系女子感が半端ない。
「なになに? リアル脱出ゲーム開催中(カップル限定)、成功者には豪華賞品プレゼント?」
「ね?」
高校生になって最初の夏休み、どうやら佐藤は暑さにやられたらしい。
「ね?じゃねえよ。俺たちがカップルだなんて初耳だぞ」
「そんなの証明できないんだし、どうせみんなズルしてるって」
「まーでも確かに面白そうではある」
「でしょでしょ。どうする? ヤっちゃう?」
「ヤっちゃうぅ~!」
「軽ッ! ウケる!」
善は急げと現場に到着すると、案の定カップルだらけの大賑わい。多少ニセモノ臭いのもいるが、大半はガチっぽい。
「アレ見て、ヤバない? 小指だけ繋いでる」
「アレはニセモノ。きっと兄妹でごじゃるよ」
「ほほう、名探偵鈴木氏。どうしてそう思われます?」
「どちらもそっぽを向いて嫌々感満載に入場待ちしてるのが答えですよ。内心兄は『なんでこのクソ暑い中妹と並ばにゃならんのだ、だがしかし豪華賞品が推しのフィギュアかもしれぬ』と。一方妹は『なんで兄貴なんか誘っちゃったかなぁ、うわっ手汗ヒドっ死ねよクソ兄貴』と心が叫んでおりますです、はい」
「なんと! 鋭いですな。勉強になりまする」
すると突然、互いに向き合った兄妹(仮)が軽くキスを交わす。
「あ、あれは……? どう見ます名探偵」
「お、お兄ちゃん、うちら兄妹だけどチューだけしとこっか的な?」
「ムリあるわッ!」
軽く頭を叩かれて待つこと数分。整理券を受け取って中へ。
【それでは皆さん、恋人つなぎをしてご着席ください】
いっせいに繋いでいくカップル達。
「ほら、コウ」
少し頬を赤らめた佐藤が手を差し出してくる。
「優しく、してね」
「キモっ、はよせんか!」
男らしく上から俺の手を握ってくる佐藤。姉御一生ついて行きます、というのはやめておいた。
「アタシらの番だ」
「よし、最速で脱出だ」
「いいから、はよ立って! 気合いだけ要らんから」
入ってみるとそこは真っ白な空間だった。
「こ、これは……っ」
「どしたんコウ」
「何かで見たことあるぞコレ。確かそう……セックスしないと出られない部屋だ」
「いやナイナイ。だってほら、三ヵ所の謎を解けって書いてあるもん」
「冗談言いたいお年頃ってな。んじゃ行くぞー」
「も、もしさ、ガチでそんな部屋だったらコウどうすんの?」
ひとつ目の看板に行こうとした俺に変な質問をする佐藤。どう答えるか、ある意味で最高難度の謎解きだった。
「昔のAVみたく疑似で頑張る。モザイク濃いからバレやしない」
「いやいやアタシらにはモザイク見えないから! お互い丸見えだから!」
「モザイクや あると思へば 現れる」
「見事な一句! 座布団一枚!」
「やった」
言えやしない、一目惚れした入学式以来ずっと片想い中だなんて。今すぐにでも抱きたいだなんて。
そして、ようやく一つ目の看板。
【男性がなめられると思わずたってしまうモノとは何?(答えはひらがな二文字)】
「なにこれッ!?」
問題文を見た瞬間、真っ赤な顔をして口元を腕で隠す佐藤。俺はすぐにわかったが、ちょっくらからかってみよう。
「ではでは名探偵佐藤氏。答えをどうぞ」
「言えるかバカっ!」
「それじゃあ、その答えの部分を見てください」
ほんの一瞬だけ佐藤の視線が俺の股間に向いた。
「あれれ佐藤氏? いまどこ見ました?」
「どこも見てないって!……けどこれ、字数合わなくない?」
「何文字だと思うんだ?」
「三か、四?」
問題文の引っ掛けに見事にハマる佐藤。俺は平静を装うので精いっぱいだ。
「下ネタきらーい、じゃなかったんか?」
「だって問題文が――」
「腹だよ腹、二文字で『はら』」
タコのような顔をして両手を震わせる佐藤。
「知ってたしッ! コウをからかっただけだしッ!」
「へいへい。んじゃ答えは……『ちんこ』と」
「ばかあ!!」
強めに背中を叩かれて次へ。
【毛が生えた棒を、出したり入れたり動かすと、中は白い液でいっぱいに。何をしているでしょうか?(答えはひらがな四文字)】
「はぁ~、こんなんばっか」
問題文を見て溜め息をつく佐藤。またしてもすぐに正解を導き出す俺。からかいタイムの始まり始まり。
「字数は問題ないな」
「けど候補がふたつあるじゃん」
候補がふたつ!?
今回は佐藤も正解を導き出せたうえでからかってくる気のようだ。
「ほほう、して候補とは?」
「言えるかッ!」
「片方は言えるだろ。みんながやってる普通のことなんだから」
「そう、だけど……。コウは言えんの?」
「言える。けど俺は佐藤の口から聞きたいんだ」
「変態……っ」
「さあ、言ってごらん?」
「……………………………………せっくす」
あれー?
なぜか佐藤は引っ掛けの答えを言ってきた。
言える方がそっちってどゆこと?
「えーっと佐藤氏、ちなみにもう一個の方って何ですかな?」
「絶対ムリ、言えない」
「ヒント! ヒントプリーズ!」
「……………………………………着けずに出しちゃった時の言い方」
あーなるほど。
この瞬間、佐藤は結構えっち説が定着するのだった。
「それはちょっとよくわからんが、とにかく答えは歯磨き、ひらがなで『はみがき』だ」
うっそーん、って顔をする佐藤。少し涙目だ。
「んじゃ答えは……『なかだし』と」
「ばかあッ!!!!」
尻をローキックされて次へ。
「なにこれ?」
「なになに? 彼女さんはお着替えルームでコレに着替えてね。彼氏さんは水鉄砲に装填、装填?」
カゴの中に紺のビキニと白Tシャツが入っていた。
「マジっ!? ヤなんだけど」
「仕方ないですよ佐藤さん、ルールですもん」
「鼻の下伸ばすなッ! もうっ、わかった」
赤のカーテンに消えた佐藤。この向こう側で今まさに生着替えが行われているかと思うと妙に興奮する。
「これでいいの?」
「おう」
上下紺ビキニに白Tだけ、そんな佐藤を直視できない。
「で? なになに? 彼氏さんが胸元目掛けて発射、発射!? 水着に書かれた二文字を記入してね(答えはひらがな二文字)?」
ビニールプールの水を一心不乱に装填する俺。
「ニヤけすぎッ! 被害被んのこっちだけなんだからね!」
「それじゃあジッとしてろよ」
「お好きにどーぞ」
両手を広げて棒立ちする佐藤目掛けて発射、発射!
「上だってッ! どこ狙ってんのッ!」
試しにパンツを透けさせる。
ん~エクセレント。
「遠いから。もうちょい寄ってくんねーか?」
「絶対ヤダ」
「んじゃ俺が」
「来んなって! 恥ずいから!――ちょ、うっ!!」
近付きながら連射、連射!
ドンドン水着は透けていき、ピンクの文字が浮かび上がる。
「おっ、答えは『らぶ』だ」
「はいはい、左様ですか」
「んじゃ答えは――」
「うわっ、コウ見て見て!」
「なんだ?」
「これ不思議。白T捲ったらラブの文字消えんだけど」
「マジか!?」
記入を中断して佐藤の下へ。
本当にその通りだった。どうやらセットになっているらしい。原理は知らんが。
そんなことはどうでもいい。
今一番気になること、それは――佐藤のおっぱいデカくね?ってこと。
佐藤が着痩せ系女子であることが判明した瞬間である。
「あんま見んなッ! もう終わりッ!」
「え~、ツンツンしたーい」
「いいよ~ツンツンして~、って言うかバカっ!!」
赤カーテンの中に佐藤は消えていった。
見事に制限時間内に脱出を成功させて豪華賞品(仮)をゲットした俺たちは帰途につく。
「なんでラブホの割引券なわけ?」
「ラブホが主催のイベントだったからじゃね? チラシの右下、字が小せえから見過ごしたな」
「だね」
イベント会場の脇にデカデカとそびえ立つお城を眺める。
「使っちゃうぅ~?」
いつもの悪い癖が出る俺。
「使っちゃうぅ~! 回転するベッドとか鏡張りとか見ちゃうぅ~!」
「ぷっ、ははは」
「ははは、アタシらにはまだ早いって」
「だな」
まだ早い、その言葉が年齢的なことを指しているのか、ふたりのことを指しているのか、それは佐藤には聞けなかった。
「いやあ、でもアレ変わった建物だなとは思ってたけど、やっぱラブホか。どおりで」
「どおりで?」
「揺れてんなと思って」
「揺れるかバカっ!! 揺れんのは気持ちだけ、ってね」
「上手い! 座布団一枚!」
「やった」
こんな時間が一生続きますように、そう願った。
※※※
ビニールプールに入る愛らしい幼女スナイパーが狙いを定める。
「あっ、コラ! ママ水着着てないんだからダメ」
プールを挟んで向こう側にいるスズの白Tシャツが透ける。
「ちょっとパパに貸してみろ、ほれほれ~」
「ちょ、コウ! 怒るよ!」
うまいうまいと手を叩く娘の横ではしゃいでいると、
「ほほう、紺のブラ。懐かしいですなぁ」
「覚えてんのかい!」
「まあな。スズと二人きりで終止ハアハア状態だったからな」
「キモっ!!……まあ人のこと言えないか」
交互に見やりながら娘が一言。
「パパとママ、真っ赤っか」
お互いに笑い合った。
「よーし、ママをツンツンしちゃおっかなぁ~」
「娘の前で何考えてんのよッ!…………………………夜にしてよ」
「スズのえっち」
「ばかあッ!!!!」
今も変わらず馬鹿やってます。
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