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PM 10:20 36号線 廃病院


牛魔人ミノタウロス』と『蛇怪女ラミア』の出現によって、奴の取り逃がしてしまった。

 相手は、大柄な魔物が2体。その上、逃げ切られる前に倒さないと行かない。

牛魔人ミノタウロス』は雄叫びをあげながら拳を振るう。私はそれを避けるが、『蛇怪女ラミア』が剣の衝撃波を放つ。

 グラムでそれを跳ね返すが、軌道がずれてしまい、廃病院の敷地内に穴ができてしまった。


「大型が2体……。流石に骨が折れるな」


 大型の魔物が1体なら簡単に肩がつくが、それが2体となると流石の私でも骨が折れる。

 どう打開するか、魔物たちの攻撃を回避しながら考える。

 けど、それでも魔物たちの攻撃は激しくなる。


「仕方ない。少し暴れるとしよう」


 私は、グラムとティルフィングを地面に刺す。そして、左右それぞれの白と黒の炎をグラムとティルフィングに送り込む。


「『同化せよ グラム ティルフィング』!!」


 白と黒の炎が、グラムとティルフィングを包み込む。すると、2振りの大剣は姿を変えて本来の西洋剣になった。

 

 ――――――――――――――――――


 グラムとティルフィング。

 私が保有するこの魔具は、かなり特殊な物である。魔具では珍しく、2色の適正色を持つ。

 両方とも共通して、赤をメインとしているが、サブの適正色にそれぞれ違う色も持っているのだ。

 グラムは白で、ティルフィングは黒をサブで持っている。

 この二つの欠点と言うのは、現代の生き物に対して殺傷能力がないという物だ。

 しかし、私が持つ『無色』の性質と非常に噛み合っているのだ。

 攻撃こそ最大の防御とはよく言うが、私はその性質を利用して防御をメインで使っているのだ。

 

 ――――――――――――――――――


 両腕を炎で包まれ、肩の辺りにまで炎が広がりだす。私がノースリーブの服を好むのは、炎で服がダメになるのが嫌だからだ。

蛇怪女ラミア』が、剣圧の衝撃波を再び放つ。私はそれをグラムを突き刺すことで吸収する。

 すると、白い刀身をするグラムは赤く赤熱化した。私は、剣を横に振るう。


「返すぞ」っと赤熱化したグラムを横に振るい、炎の剣圧を放つ。

 炎の剣圧は、『蛇怪女ラミア』に直撃しようと思ったが、『牛魔人ミノタウロス』がそれを庇う形で防ぐ。

 その衝撃で、『牛魔人ミノタウロス』の肩に傷をつけるが、さほど大きいダメージではなかったようだ。

 どうやら、先程のやつよりも強い個体らしい。それは『牛魔人』だけじゃなく、『蛇怪女ラミア』も同様だ。


「奴め……。ここまで強い個体を使役していたとはな」


 さすがは、かつて魔術院で名を馳せたことはある。最後の抵抗にしては、中々のものだ。

牛魔人ミノタウロス』は拳を突き上げ、私に振りかざす。私は防御の体制に入る。

 すると、横からの攻撃によって『牛魔人ミノタウロス』は倒れ込む。


「あら? あなたにしては、随分ずいぶんと手こずってるんじゃないの?」


「セシリア? 何故ここに?」


 セシリアが、駆けつけてきた。セシリアの蹴りによって、『牛魔人ミノタウロス』はその場に倒れ込む。


「下の連中は、ラスティアに任せてきたから、来ただけよ。

 それとも、私じゃ不安だったかしら?」


「いや、別に。むしろ待っていたよ」


 セシリアが来てくれたおかげで、戦況が一気に変わる。2対2となり、これでアンフェアが無くなる。

 しかし、急いで倒さないといけないことは、変わらないらしい。


「牛野郎は私がやるわ。あなたは、あの蛇を」


「もとよりそのつもりさ。さぁ行こうか」


 私とセシリアは、それぞれ標的にした魔物たちと交戦する。セシリアは、ミョルニルに魔力を溜め、『牛魔人ミノタウロス』に向かって突撃する。

牛魔人ミノタウロス』も迎撃の為、セシリアに拳をぶつける。しかし、セシリアの方が早く、ミョルニルから放たれる蹴りによってまた飛ばされる。


「一気に決めるわよ。 『三重術式 上級付与術式・紫電蓄雷しでんちくらい』!!」


 セシリアの靴が、紫色の電気を纏う。それのよって、セシリアの速度がより早くなる。

牛魔人ミノタウロス』は、セシリアの速度に反応できず、場所関係なく殴り出す。

 セシリアは、『牛魔人ミノタウロス』が止まってるところを狙い、蹴りを放つ。


 ――――――――――――――――

 

 セシリアの魔具、『ミョルニル』は雷の魔具の最高峰の位置する。そのランクは『S』、現存する魔具の中で、5本の指に入る破壊力を持っているのだ。

 しかし、伝承通りならハンマーの形をした魔具なのだが、セシリアはそれを靴に改造し、今に至る。

 まぁ、足技を得意とする彼女の戦闘スタイルから本人がいいなら、指摘はしないが。


 ――――――――――――――――

 

 かくして、セシリアの連続攻撃により、『牛魔人ミノタウロス』はだいぶ疲弊している。

 立ちあがろうとするが、その度にセシリアに頭を蹴られ、立ちあがることができない。

 

「そろそろ締めようかしら?」


 セシリアは、足に魔力を集中させ、渾身の一撃を『牛魔人ミノタウロス』にお見舞いする。

牛魔人ミノタウロス』の攻撃をいなすと、その巨体ごと天に蹴り上げる。

 すると、目に負えない速さで攻撃し、最後にかかとを落として廃病院内の敷地に蹴り落とす。

 そして、敷地内にクレーターを作ると、『牛魔人ミノタウロス』は消滅した。


「『三重術式 上級展開・破滅迅雷蹴はねつじんらいきゃく』。タフそうに見えたけど、案外大したものじゃなかったわね」


 セシリアは、クレーターの中心で一服を始める。


 そして、私も『蛇怪女ラミア』との交戦を再開させる。『蛇怪女ラミア』の動きは、昨日戦ったばっかりなので、ほとんど把握している。

 ティルフィングで『蛇怪女ラミア』の腕を斬り、そして捕食させる。

蛇怪女ラミア』はそれでも、残ってる腕で攻撃をするが、グラムによって残ってる腕を斬り落とす。


「邪魔だ。今終わらせてやる」


 グラムとティルフィングを携えて、『蛇怪女ラミア』に突撃する。『蛇怪女ラミア』は、尻尾で攻撃をするが、私はそれを斬り落として迫りこむ。

蛇怪女ラミア』は防御するが、その振動で吹き飛んでしまい、セシリアが作ったクレーターに落ちていく。

 そして、屋上から飛び降りて、魔術を唱える。


「『三重術式 上級展開・獄炎砲ごくえんほう』!!」


 大気中のちりほこりを吸収し、魔力を圧縮あっしゅくした火球を形成する。そして、それを『蛇怪女ラミア』に向けて放出する。

 魔力を圧縮した火球は『蛇怪女ラミア』に直撃し、激しい爆発と共に、爆散する。

 しばらくして、『蛇怪女ラミア』は激しい炎と共に塵と化して消えていった。


「相変わらず、滅茶苦茶な魔術ね」


「セシリアこそ、豪快な一撃だったよ。お互い、人のことを言えた義理じゃないでしょうよ」


 一服しているセシリアの元に行き私も一服をする。私がZIPPOに火をつけようとするが、セシリアが煙草たばこの火を私の煙草につける。


「んで? あの魔術師を追わなくていいの?」


「いや、追う必要はないだろう。だって――――――」


 セシリアが疑問を抱くが、私は頭を前に出す仕草をする。すると、逃げ惑う奴と、それを追う血だらけの明日香とラスティアが現れた。


「もう逃げれませんよ。観念かんねんして、その首を出しなさい」


「いい加減、鬼ごっこには飽き飽きしてた頃でさ。いさぎよく観念してくれたらありがたいんけどねぇ」


 明日香とラスティアが、お互いの魔具を携えて奴を威嚇いかくする。奴が逃げようとするが、後ろの私たちを見て尻餅をつく。

 あまりにもの状況に、絶望した奴は、ついに抵抗をしなくなった。


「これで終わりね。なら、もう処断していいも良さそうね」


「今、魔具を持ってるのはラスティアだね。ラスティア、そのまま頼んでもいい?」


「姉さんとセシリアがそういうなら、ここで今行いますけど」


「そうね。そのほうが手っ取り早いしね」


 ラスティアが、奴の首に氷花を置き、奴の首を斬る。だが、突然奴が動き、ラスティアが手を止める。


「ふ、ふざけやがって……。こうなったのも、全て、全てあの小娘が悪いんだ!!

 わ、わタシの、全テヲ奪った奴ガやつが奴がヤツがヤツガ!!!!」


 徐々に不気味になる奴の声。すると、奴の体が溶け始まる。


「まずい!! 逃げろ!! ラスティア!!」


 ラスティアは、私の大声と共に逃げる。そして、奴の体が人の形が保たなくなる。


「許すものか!! 許すモノか!! 許スモノカ!! ユルスモノカ!!

 コロス!! ころす!! 殺す!! 殺ス!!

 鬼サまラマとメて江ェeぇ、37ご露シだ!!!!!!!!!」


「まずいことになったわね」


 私たちは、これまで程にない嫌な予感を感じた。まさか、ここまで汚されていたとは。


「姉さん……。これって……?」


「あぁ。これは完全に、『咎人化とがびとか』が始まったようだ」


 奴は怒りのあまり、異形の存在、『咎人』となってしまった。

 不気味な一つ目は、私たちの方向を見る。

 こうして、咎人となった奴との最後の戦いが幕を開けたのだった。

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