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PM 9:00 すすきの某所


 人のいないバーで、密会が行われている。

 ――――っと言うのは冗談で、今は彼女が集めた情報を聞き始める所である。


「では、私が集めたものを報告させてもらうわね」


「手短に頼む。こうしているうちに、警察がどう動くかわからんから」


 私はそういうと、彼女は早速写真を何枚か見せてきた。


「この写真は?」


「今回の首謀者しゅぼうしゃの写真よ。年齢は40。魔術師としての階級はB、適正色てきせいしょくは藍となってるわ。

 主に使役の魔術を得意とし、それの研究で、一躍いちやく時の人になったとか」


「なるほど。そんな奴が、なぜこの街や、それ以前の事件に関与していたのか、謎でしかないよ」


「旧体制までは、魔術院でも有数な魔術師だったそうよ。主に、幻獣を使役する魔術の使い手ね。

 その使役の魔術と、その知能から『策謀家さくぼうか』と呼ばれたそうよ。

 けど、現体制になってから彼のキャリアは地の底に落ちたそうよ。多額の賄賂わいろを受け取って隠蔽いんぺいしていたのよ。その額は日本円で数億だとか」


「その隠蔽していたのが、洗脳して使役する魔術か。それも、人間を」


愚者グール大群たいぐんは、それの副産物らしいわ。何せ、強い魔力を注がれて耐えれる非魔術師ひまじゅつしなんて、レアですもの。

 それに人を使役する魔術なんて、以ての外よ。身に覚えのない罪を着せられるなんて、堪ったものじゃないわ」


「まぁ、1000年も前にくらってる人間が言うんじゃ、説得力はあるしね。

 それで、奴の居場所は?」


「さぁ?なんのことか。奴の場所なら、教団の信者が奴のGPSをジャックしたわ。

 この赤いピンで止められているところよ。36号線にある潰れた病院を住処すみかにしているようだわ」


 彼女は、タブレットを見せる。地図アプリで赤いピンが刺している位置を示していた。

 どうやら、まだ移動していないそうだ。そうと決まれば、すぐに動くしかない。


「もう行くの?」


「あぁ。奴がいつ逃げるかわからないしね。それに、一課の連中が余計な事をしないうちに終わらせておきたい」


捜査一課そうさいっかの介入ね……。あなたの判断がそうなら、そうしておくのが賢明ね」


 私は、彼女が共有した情報を、ラスティアと望月さんに送る。そして、ここを後にする。


 振り向くと、彼女はいつもの姿になっていた。それと同時にバーから彼女の工房に変貌した。


「気をつけなさい、アル。奴を殺す前に、使役された子供達を解放するのが先よ。

 まぁ、あなたにはそれを簡単に解く魔術があるなら、心配はないわ」


 彼女は、自身の左乳房ちぶさに刻まれている『III』の文字を見せる。


「では、お気をつけて、偉大なる我らが主人よ」


「あぁ、行ってくるよ。『仮面の魔女ジャンヌ』」


 私は、『仮面の魔女ジャンヌ』のアトリエを後にし、車に戻る。すると、ビルの真ん前で、車が止まっていた。

 助手席のドアをあけ、乗り込む。


「遅い。あいつと何話していたのさ」


「さぁ? ただの与太話さ。ラスティア、ここまで車飛ばせれる?」


道路交通法どうろこうつうほうで捕まるんだけど? まぁ捕まれないようには飛ばすよ」


 ラスティアはやれやれと思いつつ、法に引っかからないように車を走らせる。

 時間も時間なので、案外早い時間に目的地に到着した。


 ――――――――――――――


 車は少し遠くに停め、徒歩で奴のいる廃病院に着く。こんな立派な建物を残しては、不穏な噂も後が経たないのだろう。


「随分と立派な建物ねぇ。ここなら、易々と見つかるはずがないわね」


「こんなところに、あの犯人が……」


 2人は、あれからもらった情報を信じきれていない。何せ、情報があまりにも正確すぎるからだ。

 明日香は、中途半端に開いているゲートを見つける。どうやら、あそこから入っているらしい。

 私たちは、そこから廃病院の中に入っていった。


「設備とかはいいのに、閉めるなんて勿体無いわね」


「経済的に厳しかったのかも。器具もまだ新しいよ」


 2人は、呟きながら話している。すると、後ろから視線を感じ振り向く。


「あぁ……。あぁああ……」


 呻き声と共に、学生と思われる少年たちが現れた。どうやら、奴に洗脳されているらしい。

 彼らは、容赦なく私たちを襲い始める。しかし、ラスティアと明日香によって彼らは食い止められる。


「これが、この間アルを襲ってきた子達ね。見た感じ正気じゃなかったけど」


「理性を封じられているみたい……。これじゃただの捨て駒だよ」


 奴の魔術を考察していると、次々と洗脳された学生達が現れる。3人は、私を先に行かせるために、殿を務める。


「ここは一旦私達に任せて、先に行きなさい。アル」


「いいのか?」


「大丈夫! 後で行くから」


「姉さんは早く片をつけて来ていいから。さぁ、早く」


 ラスティアは、氷の壁を作り自分達の後ろを塞ぐ。私は、3人に任せ奴の元に向かう。

 眼鏡を外し、奴の魔力を可視化させて居場所を索敵さくてきする。人型の魔力の塊を見つけると、奴は4階にいるらしい。


「――――――――見つけた!」


 私は階段を登り、4階に向かう。途中、愚者グールに遭遇するが、すぐに頭を火球で吹き飛ばす。

 後ろから襲ってきた愚者グールは、血の剣で串刺しにし、前から来た愚者グールは炎で焼き殺す。

 そうしている内に、4階に着いたようだ。非常ドアを開けて入ると、厄介なのと出会す。

 さっきの愚者とは違い、大型の個体のようだ。大型の愚者グールは、全速力で私に突撃をする。

 しかし、私はそれを避け奴の場所へと向かう。


「邪魔だ」


 私の後ろにいる大型の愚者は、突撃をせずそのまま倒れる。

 さっき避けた際、私はこの愚者グールの胸部に火球を放ち、風穴を開けていたのだ。

 そして、奴のいる場所に到着し、火球を放ってドアを壊す。


「ごきげんよう。勝手口から失礼させてもらうぞ」


「だ、誰だ!? なぜここが!? き、貴様は一体!?」


「一体とは失礼だな。一応、お前とは同胞なんだがな」


仮面の魔女ジャンヌ』の情報通りも見た目の魔術師だった。しかし、左腕の方を見ると包帯で巻かれている。


「お前か? 若い子達を洗脳して使役しているのは?」


「し、知れたことを!! それを知り前に貴様を殺してやる!!」


 奴は、洗脳した子達を呼び寄せる。全く、これだから魔術師相手は疲れる。

 こうして、私と奴の殺し合いが始まるのだった。

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