第3節 魔女が与えし鉄槌

1

PM 20:30 札幌市立病院


 五十嵐いがらしさんの訃報ふほうを聞いてから、数時間が経った。その間に、遺族いぞくの方々が駆けつけてきたので、後のことを任せて待合室にいる。

 望月もちづきさんは、さっきまで号泣をしていたが今は落ち着いている。

 それもそうだ。普通の人間なら、目の前で尊敬そんけいしている人を亡くしたなら、当然そうなるのだから。

 そろそろ病院が閉まるので、私たちは病院を出る。望月さんとJRに乗り、桑園そうえんから札幌さっぽろの向かう。

 改札を出て、南口に行く。そして、ここで望月さんと別れる。


「キサラギさん。今日はありがとうございました。その、長く側にいてくれて」


「いえ、こちらにも責任はありますので。ではこれで」


 望月さんは、そのまま自宅の方の向かう。私も、同じく屋敷やしきに帰る。

 南口の方を歩くと、明日香が待っていた。


「遅かったね。もう帰ろうと思ってたところだったよ」


「色々とあってね。それより、ラスティアは?」


「もう寝てるよ。少し無茶して疲れたみたい」


 どうやら、ラスティアは少し前の戦闘で疲れ切ってしまったらしい。明日香はラスティアを寝かせてから来たみたいだ。

 私と明日香は、タクシーに乗って屋敷の帰る。


「これからどうするの?」


「あぁ。明日の夜には動くつもりだ」


「なるほど。本腰ほんごしを入れるわけね。君にしては少し遅い気がしたけど」


「少し、奴に付き合っただけだ。だが、少々図に乗ったようだから、もう時期奴を殺すさ」


「まぁ、こっちとしては動きやすかったから良かったけどね。

 抑制されてる状況じゃ、ああいうのにとっては絶好の機会だしね」


 明日香と会話しながら、車窓しゃそうから札幌の街並みを眺める。規制が解除されたとはいえ、人混みが少なく感じる。


「久々に出てるよ。君のあれが」


「そうらしい。奴を殺さない限りは抑えられないみたいだ」


 明日香も気づいていたみたいだ。私が相当頭に来ていることを。

 屋敷に着くまでの間、私は車窓を眺めていた。


 ――――――――翌日


 あれか一睡することなく、あれから渡されたタブレットと昨日の事件のネットニュースを延々と眺めていた。

 死者は1名とされているが、おそらく五十嵐さんのことだろう。

 夜まではかなり時間がある。時間を過ぎるのを待ちながら、私はグラスに酒を注いだ。

 本来なら、五十嵐さんの葬儀そうぎ参列さんれつするのが礼儀れいぎだが、このご時世、遺族のみとされている為、参列することができない。

 そうしていると、頭に痛みが来る。

 

『フフフ……。久しく感じるぞ。お前の怒りを』


 頭の中に声がひびく。その声の主は、1人しかいない。


「なんのようだ。勝手に出るなと言ったはずだが」


『どうだかな。だが、抑えるのはもうよかろう。お前とて、それはできん。なぜなら、お前は――――――』


「わかってる。奴に対して、もう抑える必要もない」


『フフフ……。なら、奴に裁きを与えると良い。でなければ、手遅れになろう』


 奴の声が消え、頭痛も治る。気を取り直し、私は支度を始める。


 数時間後


 夜がふけていき、全員が事務所に集まる。

 明日香とラスティアはもちろん、セシリアも駆けつけてきた。

 皆それぞれ、武装を整える。私もまた服装を整える。ラスティアは、ブローチを私の胸につける。


「車の用意もできてるよ。後は姉さんの号令だけだよ」


「ありがとう。それじゃ、行こうか」


「久々にあなたと組んでやるなんてね。血が騒いで仕方ないわ」


 私の声と共に、ガレージ向かう。ラスティアが用意した車に乗り込む。

 車を走らせ、先に寄るところがあるので、そこに向かう。

 目的地につき、私だけ降りる。紙袋をもち、ラスティア達は別の所で待つため車を移動させる。

 ビルに入り、4階の奥にある店に入る。店に入ると、望月さんが酒を呑んでいた。


「――――キサラギさん……。どうしてここに?」


「望月さん。奇遇きぐうですね。どうなさったんですか?」


 望月さんは、かなり疲弊ひへいしていた。どうやら、何かあったらしい。


「例の事件、捜査一課そうさいっか譲渡じょうとされたんです。僕は、五十嵐さんを殉職じゅんしょくさせた責任で、メンバーから外されて……」


 警察側も、動きがあったそうだ。五十嵐さんの殉職により、捜査一課に事件が譲渡されたらしい。

 ますます面倒なことになった。私は、望月さんに今日のことを伝える。


「今日、犯人を殺しにいきます。一課が突入する前に」


「本当ですか!? 僕も同行させてください!!」


 望月さんは、私たちの行動に同行することを志願しがんする。


「望月さん……。申し訳ないですが、私たちがやろうとしている事は、場合によっては死ぬかもしれない。

 それにあなたを同行させる訳には行かない。終わったらおって知らせますので、今日はもうおかえりになって下さい」


「いえ、そういう訳にはいきません!! そうしないと、僕はあの世で五十嵐さんに顔向けできません!!

 無理も承知です!! どうか、お願いします!!」


 望月さんは、土下座してまで私に同行したいことを求める。私は、仕方なく望月さんの同行を許す。


「わかりました。それなら、別のルートから来てください。場所は追って伝えます」


 私は、水を渡すと望月さんはそれを飲み干す。そして、そのまま望月さんは出て行った。

 それを見届けた私は、椅子に座る。


「話聞いてたろう?」


「相変わらず、お人好しね。あれもただの人でしょうしね」


 彼女は、バーテンダーの姿でさっきの流れを聞いていたみたいだ。

 彼女は、キャリーケースをテーブルに置く。そして、キャリーケースの封を開ける。


「早速だけど、商談しょうだんでも始めましょう」


「はいはい。これ、手数料ね」


 私は、紙袋を渡す。そして、彼女はそれを受け取る。

 袋から取り出すと、私が用意した札束を受け取る。


「1000万。確かに受け取ったわ。あの刑事さんのツケも含めておくわ」


「そうしてくれると助かる。それより始めよう」


 私は煙草たばこを口に咥えると、彼女が火をつけてくれる。

 こうして、私は彼女との商談という名の報告を聞くのだった。

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