第13話

 うー、食った食った。おっさんにここで待ってろって言われたけど、思いっきりその辺に寝転びたい気分だ。

俺が寝てたベッド以外、レンガでできたものばっかだからめっちゃ硬そうだけど。てか、他の部屋よりかなりさっぷうけいだな、ここ。


そういや、おっさんと話したのってけっこう久々な感じがするな。じーさんと比べると、なんかやっぱ堅い感じなんだよな。

見た目は割とユニークな感じなのに。音波による対話だからとか、じーさん言ってたっけ。

あれだけ人数がいれば、みんなで話せばすげえ楽しそうなんだけどな。てか、ここにきてどれくらい時間経ったんだろ。

一日くらいは経ってそうだよな。この部屋、窓がないからわかんないけど、さっき外は暗かったっけ。

あれ?ってことはまだそんなに経ってないのか。午後の三時くらいにここに来たとして、気絶してて、えーっと。

わかんねえ。ていうか何で俺、こんなに時間気にしてるんだろ。

そうだ、ユッキーが心配してるかもしれないんだった。せめて、連絡とりたいな。ひとまず無事だって伝えときたい。


「待たせてすまなかったな。これを探すのに、思ったより手間取ってしまったのだ」


なんだろ?これ。もしかして和服かな。俺が着たことあるヤツより、かなりシンプルだけど。

あっ、俺ずっとパンツいっちょうのままだったな。すっかり慣れちまってたよ。


「これ、着てもいいのか?」


「うむ。少し古いものではあるが、素肌を晒したままよりは幾分かマシだろう。

 寸法が合っているかはわからぬが、試しに着てみてくれ」


おっ、着れる着れる。てか洋服と違って、これなら身長が合ってれば誰でも着れそうだな。

ひもは、どうやって結ぶんだっけ。まあ適当で大丈夫だろ。

ていうか、何でこんなものがあるんだ?ここに来てから、おっさん達やじーさん以外のひとを見てねーけど。


「なあじーさん。ここって俺以外にも誰かいるのか?こんな服、じーさん達は着れないだろ。他に、俺みたいな人間がいるってことだろ?」


「うむ。正確には、前におったのだ。おぬしと同じように、穴から落ちてきた少年がな。だがそれは、儂らにとってあまり良くない出来事だったのだ。結果論に過ぎぬのだろうがな」


じーさんは何か悲しい目をしてる。つらいことがあったっぽいのは、俺にもすぐわかった。


「何があったんだよ?」


「当時から儂は、この中を管理しておった。彼らも一緒にな。

 だがその頃は、今ほど厳重では無かったのだ。あちらこちらに、外へと繋がる穴が開いている程にな。

 しかし、中から外へ出るものもなければ、外から入ってくるものもなかった。

 せいぜい、大気や砂程度で、ましてや動物が出入りすることなどは、それまで一度も無かった」

 

「でも、さっき少年が落ちてきたって言ってたよな。なんでだろ?」


「穴が開いていると言っても、ほんの隙間程度のものだったはずだ。

 意図的にこじ開けようとしない限りは、人間が通れる程の大きさの穴にはならぬ。

 だが、おぬし達の世界では当時、穴をこじ開けられる程の力のある道具はなかった。

 他に、何かが少年に協力しておったのだろうな。儂には、何となく見当がついておるがな」


「何だよじーさん、もったいぶらずに教えてくれよ」


「まあ、それはともかくだ。儂らは落ちてきた少年を迎え入れた。今のおぬしと同じようにな。

 その少年は、長い間ここで暮らし、とても楽しんでおった。

 儂にとっても、少年とコミュニケーションを取ることは、大きな喜びだった。

 儂がこの世界の管理を始めてから、儂は彼らとのコミュニケーションしか取っておらんかったからな。

 そしてそれは、この世界に大きな影響を与えたのだ。この世界を崩壊させかねない程のな」


俺はあいづちを打つのも忘れて、じーさんの話に聞き入っていた。


「儂にとってもそうだったが、それ以上に彼らにとって、少年とのふれ合いはそれまでに無い刺激の連続だった。

 それゆえ彼らは、この世界を管理するために不要なものだった、喜怒哀楽を覚えてしまった。

 元々、彼らに全くそういった感情が無かったという訳ではない。だが少年と関わったことで、それが増幅されたのは確かだった。

 そして彼らは、外の世界で暮らしたいという想いを抱いてしまったのだ。

 おぬし達の、人間の世界に興味を持ってしまったのだよ」


「彼らって、おっさん達のことだろ?てか前にもたしか言ってたよな、それ。

 別にそんな、悪いことじゃないんじゃないの?」


「この世界の管理はどうなる?もし彼らがこの世界からいなくなったら、管理など出来ぬ。儂一人では、到底出来ることではない。

 だからこそ、儂は彼らをつくったのだからな。

 そして、人間の世界に興味を持った者は、彼らの半数近くにも上った。

 そのままでは、全員がそうなってしまう可能性もあったのだ」


管理管理って、そんなに大事なことなのか?てか、おっさんをつくったってなんだよ。

何だか、じーさんが怖くなってきた。そういや、おっさんも自然をつくったとかって言ってたな。


「それでさ、みんなどうしたんだよ?この中から出て行っちまったのか?」


「それを儂は許すことは出来なかった。管理が出来なくなることもそうだが、

 彼ら自身も大事な資源だ。それを許すことは、管理そのものを完全に放棄することと同義なのだ」


「じゃあ結局、おっさん達はそのままこの中に残ったんだな。

 でもあのおっさん達、そんな感情的には見えなかったけどな」


「それが、本来の彼らの姿だからな。

 儂自身、今までの経験からして、喜怒哀楽といった感情など単なる反射反応、ただの本能に過ぎぬと思っておったのだがな。

 だからこそ彼らの生成時に、必要と思われる最低限の受容体を設けたのだが、それはあだとなったようだ」


受容体?よくわからないけど、感情って悪いものなのかよ?じーさんだって、笑ったりしてたじゃん。


「そして儂は、少年を外へ出すことにした。名残惜しかったが、このままでは危険だと判断したのだ。

 穴も完全に塞ぎ、もう人間が出入りすることが出来ぬようにした。

 そうすれば、時間さえ経てば彼らも元に戻ると思っていたのだ。

 だが彼らは、元に戻るどころかさらに自我が強くなり、儂が少年を追い出したことに不満を言い出した。

 それまで儂が命じておった、管理のための作業をすることも次第になくなり、それどころか外の世界への穴をどうやって開けるか、そればかり画策しておったようだ」


「そ、それで?おっさん達をどうしたんだよ?」


「儂は、彼らを分解することにした。

 原子の状態に、戻すことにしたのだ」





え?それって、なんだよ。原子にするって、どういうことだよ。

そういえば、この部屋、おっさんがいない。いつもはじーさんの周りに、ひとりはおっさんがついてたのに。


「うむ。この話を彼らに聞かれたら、また少年がいた頃の二の舞になる可能性があったからな。席を外してもらっておる」


「なあ、さっきの話って、どういうことだよ?原子にするって、まさか紙を燃やして灰にするとかって、そんなことじゃないよな?」


「おぬしは本当に賢いな。飲み込みが早くて助かるわい。彼らには余計な情報を与えていないのでな、上手く指示が通じず困ったことが時折あったのだ」


「そんな話はいいよ。なあ、じーさんは、おっさんを、その、殺したのかよ?」


「そうだ。儂が殺したのだ。だが心配はなかった。彼らの体を再び構成するために必要な原子は、素体があればそっくりそのまま抽出出来る上、構成に必要なエネルギーの損失もほぼなかった。

 多少の時間は要したが、以前の彼らと同様になるように、つくり直すことが出来たのだ」


「でもそんなのっておかしいだろ!?」


「彼らは不老不死ではない。いずれ、寿命が来ておったのだ。それを早めただけのことだ」


じーさん、なんで?面白くて、優しいひとだって思ってたのに。

なんで、そんなことを淡々と話せるんだよ。どうしてなんだよ、じーさん。

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