第12話

 僕はカズを助けるため、波のようなやつと行動を共にしていた。まず、カズが落ちた穴を調べないと。


「あ、駄目ですねこれ。完全に塞がれてます。こうなると、私の力ではどうにもなりません」


何だって?ただ穴を塞いでるだけなら、こじ開けるくらい出来るだろう。


「無理です。もしそれをやってしまうと、山の内部が崩壊する可能性が高いです。

 当然、カズ君もただではすみません」


それは駄目だ。でも内部が崩壊するって、この水のせいではないのか?

だったらこの水を引かせれば、問題は起きないのでは?


「水は関係ないですし、いずれにせよ水を引かせることは出来ません。

 このまま、別の道を探す必要がありますから」


待て。水は関係ない、とはどういう意味だ?

山の内部が崩壊するのは、他に原因があるのか?


「山の内部は、完全な閉鎖空間とすることで、とても絶妙なバランスで保たれています。

 それを無理にこじ開けて解放してしまうと、バランスが一気に崩れ、あの中は駄目になってしまいます」


その話だと、そもそも穴を開けるという行為そのものに問題があるように聞こえる。

こじ開けなくても、穴があるというだけであの中は崩壊するんじゃないのか。

もしそうだったら、僕はどうやってもカズを助けられないことになる。


「そんな怖い顔をしないで下さい。カズ君を助け出す方法は必ずあります。

 ただ、そのためには山の内部からの協力が必須となります」


山の内部からの協力とはなんだ?


「カズ君自身が、山の内部から脱出したいと強く願うことです。

 もしそうでなければ、私達がいくら試行錯誤してもカズ君を助けることは出来ないでしょうね」


なに?カズがあの中から出たくないなんて、そんなことあるわけない。


「それはどうでしょう。もし山の内部がとても快適な空間だったとしたら、もうこちら側に戻りたくないと思うこともあるでしょう。

 早い話が、カズ君がこちら側より、あの中での生活を望むのであれば、私達にはもうどうすることも出来ません」


そんな馬鹿な。でも現状カズと連絡が取れない以上、それについて考えても無駄だ。

僕は、カズがあの中から出られるよう、最善の手を尽くすだけだ。


「分かりました。ではこのまま、別の道を探しましょう。ただ道と言っても、既に穴が開いている場所はもうないはず。

 もしあったとしたら、山の内部の崩壊は始まっているでしょうから、既に手遅れです。

 私達の目的は、山の内部への影響を極限まで少なく出来る穴を、開けることが可能な場所を見つけることです」


そんな都合のいい場所、どうしたら探し出せるんだ?見分けがつくというのか?

 

「私にも、はっきりとは分かりません。ですが私の考えでは、数箇所、穴を開けることが可能な場所があると踏んでいます。

 というより、無かったらもう終わりです。全てが徒労に終わることでしょう。

 ですから、信じるしかないんです。山の内部への道がつくれると。

 なので貴方も、気合いと根性で探しまくって下さい。頼みましたよ」


この広大な山と森林の中から、探し出せるだろうか。でも、あの波のようなやつの言う通りだ。

僕が、諦めるわけにはいかない。ただひたすら、カズへと繋がる道を探すだけだ。

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