決戦、二戦目。

 ほうほうの体で、というか為す術こそ無かったもののごく普通の様子でさっきまでいた場所(から何百キロかずれていた、景色はあまり変わらないが)まで帰って来た刺刀弦貴は呟いた。

「あいつ強いな」

しかし攻略法があるはずだとも思った。

彼は結構なマニュアル人間なので、全ての出来事には攻略法があるべきだとも考えているのである。弦貴少年は思い出した。あの怪獣(というか、今まで散々怪獣怪獣連呼してきたが、人型なので怪人かもしれない。それだとなんだか少し弱そうだが)がしていたことを。

(あいつはオレに手を向けた)

(つまりあの攻撃のトリガーは手を向ける動作ということになる)

(それから、あいつは俺の投げた小指を一度目は吹き飛ばさなかった)

(つまり、持続的に攻撃を行っている訳じゃないってことだ)

(つまりだ)

(……つまり、何だろう?)

生憎、与えられた情報がまだ少な過ぎて答えが出せないようだった。


 一方、怪獣はといえば。自分が今攻撃している場所にさっきのやつがいないことにようやく気がついた。一切動く物が無いことに今さら思い当たった。勿論、そこにはさっき弦貴少年が置いていった、細切れになりかけの腕が落ちていたけどそこまでは気づかなかったようだった。

仕方ないので、「それ」はしらみ潰しに、残った都市でも潰しながらさっきのやつを探すことにした。


 その頃、まだ弦貴少年は考えていた。

(あいつは確かにオレの攻撃を食らっていた)

(攻撃し続ければいつかは倒せるかもしれないな)

(どっちの限界が先に来るかはわからんが)

(いやいや、そんな無謀な戦いを挑んでどうする)

それから、また少し考えて、彼はあることを思い出した。

(そういえば、あの能力が使われたあとの場所では暫く雨が降っていたとニュースで言っていたな)

(つまりそれくらいのエネルギーで海を蒸発させたんだなとてっきりオレは思ったが、案外そうじゃ無かったのかもしれない)

(もしかして……海の水を直接気体に変えた?……いや、まさかな)

概ね、そのまさかだった。


 その能力を使う怪獣自身すら預かり知らぬことではあったけど、「それ」の能力は四肢の先端で方向を指示して水を操作する能力だった。「それ」が生まれた瞬間に近くにあった国が吹き飛んだのは、誕生時に発揮した能力(赤ん坊が産声をあげるように、生物というのは誕生時、つまり体の起動時に最も多くエネルギーを使う、夏のエアコンを起動させるのと同じだ)で怪獣の卵があった海の水が纏めて水蒸気に変わったからだった。恐らくはそうだった。

最も、観測者が滅びてしまった以上それを証明する手立ては無い。

たかが水と侮るな。どんなものであろうと高速で動かせばそれは凶器だし、それに水は気化すると1700倍とかになるという。怪獣はよくわからないまま、しかし、自分の攻撃力を良く心得ていた。

そして実際、水の惑星地球は「それ 」の庭だった。


 とりあえず、スーパーの試食品的な気軽さのお試しで、弦貴少年はひとつ切り札を切ることにした。肋骨ソードである。

さっき膝蹴りを最大火力と評したがあれは嘘だ。

いや嘘ではない、魔法少女に変身しただけの状態で出せる火力としてはあれが最大だ。しかし再生能力を使えば、自分の肉体を使って簡単に武器を作ったりできる。彼の再生には、本体が過剰な損傷を受けた場合に発動するものと、意図的に発動できるものとがあるのだけど、これは後者にあたる。それと、実はあまりする意味が無いからしないというだけで、分離した肉片を本体にして再生していることからわかる通り、分離した肉片にも再生能力は適用可能なのだった。そして彼の体の中で一番武器っぽい肋骨を取り出して、再生能力の応用で形を変えたもの、それが肋骨ソードなのだった。

 ところで、もしそんなことができるなら、つまり再生能力で体組織を変化させることができるなら、筋肉量を増やしてパワーアップした攻撃もできるんじゃないか、そう思われた方がいるのではないだろうか。

いや、いないかもしれないがともかく。

実際のところ、それは実現不可能なアイデアだった。

というか、肝心の彼が人体構造にそこまで詳しい方ではないので、その場の思いつきでつけた筋肉は寧ろ、彼が動くのを阻害した。

そこで思い付いたのが直接見て再生でいじくれる肋骨ソードだったということもある。

ネーミングセンスはともかく、素材が魔法少女の体というだけあって、その武器は並みの兵器以上の攻撃力と耐久力を誇る。

彼は「よし」と自分を吹き飛ばして、腕を置いた場所に戻ってきた後、肋骨ソードを作って、自分の肋骨から作った二本の剣を両手に携えて(実に猟奇的な絵面だった)言った。

「?……あいつどこ行ったんだ」


 一方その頃、怪獣は残存人類を駆逐するついでに、さっきのやつをどう倒すか考えていた。それから、実験として今まで何気なく使っていた能力がどんなものか検証していた。そして、意外と頭は悪くなかったのでおおよそのところは検討がついていた。

つまり、「何か今まではエネルギーみたいなものを操っていると思っていたけどどうやら自分はこの大気中にある何かを操っているらしい」ということを、もっとふわふわした理解で処理した。

そこまで考えついて、ちょっと疲れたからさっきまでいた場所に帰った。「それ」は結構几帳面な部類の怪獣だったから、寸分たがわず戻ってくることができた。


「お、来たぞ」

と弦貴少年は呟いた。そして隠れた。

少し敵の気が緩んでいるとはいえ、見つかってしまっては二の舞である。それは避けたい。

なので、できれば一撃で決めたい。

そう考えた彼は、二本の剣を、それぞれ少しの時間差をつけて怪獣に投げつけた。

それからタイミングを見て、もはや恒例的に自分を吹き飛ばした。


 「それ」がふうと一息ついたとき(流石にそこまで人間味のある動作はしなかった)背中にちくりと痛みが走って、次の瞬間肉を内側から押し広げるような激痛が走った。それの思考が何とも言い難い、少なくとも「それ」は今までにそんなものを感じたことがなかった、激情に染まった。


 説明してしまえば要は簡単で、弦貴少年は剣が怪獣の背に突き刺さったあと、剣一本を本体にし、怪獣の体内で再生したのだった。それからついでに時間差で飛んできたもう一本の剣を掴んで怪獣に突き刺し、同じ事をもう一度繰り返した。体の中までは頑丈じゃなかったようで、内側から破裂した怪獣の体に大穴が空いた。


 怪獣は激痛に呻いた。さっきの初めてを大幅に更新するような激痛だった。しかしどうしようもなかった。「それ」に再生能力は無い。

そこで、いつものように短絡的に吹き飛ばそうとして、そこでふと試みを変えてみた。

つまり、大気中の水蒸気を集めて弦貴少年を水の中に閉じ込めてみた。

さっきの実験の過程で捕まえた人間に色々試した結果辿り着いた方法だった。


 弦貴少年は「まずいぞこれは」と思った。

しかし声に出すことはできなかった。意思を持っているような粘性の水が体を満たしたせいでもあった。再生能力持ち攻略の最適解を出された。

能力を予測しきれなかったことも後悔した。

常に無力化され続ければ再生能力があっても打開はできない。コンクリートならまだ壊せたが不定形の水ともなるとどうしようもないだろう。

そして、もう既に殆ど朦朧とした意識の中でこれから何度も訪れるだろう死に思いを馳せた。

まぁ、大人しくやられる気もなかったが。

しかし、どうしようも無いのもまた事実だった。

最後に勝利への伏線を張って、彼は気絶した。

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