第18話 再び結びです。

まだ昼の熱気が消えない夏の夜、額から流れる汗を腕で払い俺は走っていた。


病室から消えた妹を探して。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


俺はこの間の志乃の横顔が忘れられず、花火を見せてやりたいと思った。康ちゃんに頼んで手持ち花火を持参し、プチ花火大会をする事にした。


勿論サプライズの為、志乃には内緒だ。


だが問題があった。志乃が少しの間病院から離れる事を許可してもらわなければならない事だ。この間病室を抜け出した事がバレた手前、非常に言いにくいのだが…


(志乃のためだ!)


「いいよ」


「へ?」


随分あっさりとお許しが出たのである。理由を尋ねた。


「志乃ちゃんの体調も安定してる。何よりこの間みたいに急に居なくなるのでなく、言いに来てくれたから。その誠意には応えないとね」


「ぐっ…その節はすみません」


「はは、大丈夫怒ってないよ。でも心配だから私も着いて行こう。丁度その夜は非番だからね」


「ありがとうございます!」


志乃の入院初日から今日まで担当してくれた先生だ。俺たちの事をちゃんと見てくれている。


その夜、志乃が病室から消えた。車椅子を使い自分で病院外に出たみたいだ。


「志乃!」


俺は走って志乃を探した。だけど志乃の行く場所が分からない。なぜ居なくなったのかさえ分からない。車椅子だからそう遠くには行けない。


焦っていたのだろう。誰かに頼る事が苦手な俺は康ちゃんに連絡せずに走っていた。息を切らし足を緩めたその時、俺のスマホが揺れる。


「もしもし、康ちゃん!」


『随分遅いから何かあったかと思ったんだが、どうした?』


「病室に志乃を迎えに行ったんだけど、志乃が居ないんだ!俺、俺どうしたら」


『落ち着け!いいか、俺も探す。後な人探しは人数がいる。加藤にも声をかけるし、他の面々にも声をかける。志乃ちゃんの事を内緒にしてたのはお前の優しさだって事は理解してるが、今はそんな悠長な事言ってる場合じゃねえ!良いな?』


「うん、少し落ち着いた。ありがとう…」


『ならヨシ。一度あの河川敷に集合しよう』


「分かった」


数分後、河川敷にいつものメンバーが集まった。


「妹さんがいて、入院してて、失踪した。槙野くんに言いたい事は山ほどあるけど今はやめておきましょう」


「友達になってからの日は浅いけど、槙野くんの為に手伝える事をしたい」


「ほら、お前はもう中学の時みたいに1人じゃねぇぞ」


「君はもう少し、私達を頼るべきだ。もしかして迷惑かもなんて遠慮してるんじゃないよね。そんなヘタレた感情で私達を推し量っているならやめてくれ」


「じんたん、私達は貴方の側に居るよ。何があってもずっと…と、友達だもん」


「ごめん、みんなに隠してた。みんなに余計な心配をされたくなくて。楽しい時間にふと頭をよぎるんだ。友達もみんな俺から離れていく。あんな思いをしたくなくて…俺の自己中心的な考えで…結局みんなに頼ってる。本当にごめん」


「謝るなよ、俺たちが聞きたいのは謝罪じゃねぇよ」


「一緒に志乃を探してくれないか?」


「「もちろん」」


「ありがとう」


俺たちはそこから別々になり町を駆け回る。一歩引いていた心を通わせ。


「志乃…どこだ…」


探しても探しても見つからず、途方に暮れる。

その時ふと小さい時の記憶が頭を過ぎる。


昔から体の弱かった妹は俺と一緒に外に出たいと駄々を捏ねた。そんな妹を宥める為に星空を見に父親とよく行ったあの丘。


(慎二の事を思い出すから封じてたつもりなんだけど…)


何より車椅子の志乃。1人(・・)ではあの丘の上まで行くことはできない。そう思い込んでいた。


もし、1人じゃなかったら…


俺は康ちゃんやみんなにメッセージを送りすぐにあの場所に向かった。


(もし、もし勘違いじゃなかったら…)


息を切らし向かった丘に人の影が2つ。もう1人は車椅子の志乃。嫌な予感が当たってしまった。もう1人の人物は…


「慎二…」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る