第27話
「そのシナリオを君は信じているからこんな風に思い込んでいるのか?僕はそんなものに振り回されていたってこと?」
「でもマスクウェル殿下は……っ、学園でアリス様と再会して恋に落ちるんです!」
「そんな不確定要素は信じないよ。それにアリスを好きになるなんてありえない」
「学園に入ってわからないじゃありませんか!」
「トレイヴォンだってならなかったろう?」
「それは……そうですけれど」
「はぁ…………」
ファビオラが人差し指を合わせながらツンツンしているとマスクウェルは額を押さえながら深いため息を吐いている。
オロオロしているファビオラはハッとして顔を上げる。
それに気のせいでなければ先程、マスクウェルに『僕を選んでよ』と言われたのではなかっただろうか?
(も、もしかしてマスクウェル殿下はわたくしのことを好いてくれていたの!?)
右往左往するファビオラとは違い、肩を落として何かを考え込んでいるマスクウェル。
彼が顔を上げたのと同時に、肩を揺らした。
「君の言い分はわかった」
「信じてくれるのですか!?」
「ああ。要は学園に通って僕の気持ちが変わらなければ、君は安心して僕との関係を考えてくれるのかな」
「……そ、そうなんですか?」
「そうだよ」
何故か話がよくわからない方向にいっているような気もするが、ファビオラへとりあえず頷いた。
あんなにも塩対応だった婚約者が、今はちょっぴり甘いように感じる。
それにひしひしと伝わるマスクウェルのファビオラへの気持ち。
(今までのことが気のせいじゃなかったら……?)
マスクウェルは満足したのかファビオラから体を離した。
やっと距離が離れたことに安心してファビオラは息を吐き出した。
こちらに手を伸ばした彼は先程とは打って変わって機嫌がよさそうだ。
今日のマスクウェルは怒ったり、悲しんだり、溜息を吐いたりと随分と色々な表情を見せてくれる。
ドキドキとした胸を押さえながら汗ばんだ手ではよくないからとドレスで拭ってから彼の手を掴んだ。
「もう遠慮する必要はなさそうだね」
「……?」
「僕のことは好き?」
「も、もちろん!」
「そう、なら両思いだね」
「りょ……!?」
「学園が楽しみだな」
放心状態のファビオラを再び抱き抱えたマスクウェルは会場に戻る。
珍しく柔らかい表情でファビオラを見ているマスクウェルの姿に会場は静まり返っていく。
トレイヴォンも心配そうにこちらを見ている。
そんなトレイヴォンに手を振ろうとするが、マスクウェルは微笑みながら、ファビオラのスッと手を下ろされてしまった。
「婚約者の前で他の男に手を振らないでくれ」
「あっ、あっ、え……?」
ファビオラはどこか吹っ切った様子のマスクウェルに押されっぱなしである。
顔が茹蛸のように真っ赤になっている。
(どうしてこうなった……?)
ファビオラはカチカチに固まっていた。
その後もマスクウェルとの距離は縮まっていく。
スッと顎を掴まれて、叫び出しそうになるのを堪えていた。
「……ファビオラ」
近づく唇……ファビオラは思った。
今、マスクウェルとキスをしたら白目を剥いて気絶する自信がある。
「───ッッッ!?!?」
考え込んでいるとマスクウェルの柔らかい唇が触れる。
間近にある琥珀色の瞳を見つめたまま、ファビオラはマスクウェルの腕の中で気を失ったのだった。
end
短編から中編予定ということで中途半端ではありますが、ここで終わりとなります(´;ω;`)申し訳ございません!
ここまで読んでくれた皆様、本当にありがとうございました。
ふしぎの国の悪役令嬢はざまぁされたって構わない!〜超塩対応だった婚約者が溺愛してくるなんて聞いていませんけど!〜 やきいもほくほく @yakiimo_hokuhoku
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます