第15話


「半年後にある学園の入学パーティーまでにマスクウェル殿下断ちを……ゔぅっ、考えただけで胃痛がするわ。でもマスクウェル殿下のためだったら頑張れる!だって……わたくしは悪役令嬢ファビオラなのだからっ!」


「……意味がわかりません」


「フフッ、早速お父様とお母様に相談しましょう。そうすれば、これ以上あんな姿やこんな姿をマスクウェル殿下の前で見せなくて済むものっ!」


「ファビオラお嬢様はそのままでいいと思いますけど」


「わたくしはこれ以上、嫌われたくないの!」



そしてファビオラは断腸の思いでマクスウェルに手紙を書いた。


『半年後、学園の入学パーティーで会いましょう』


そう認めた手紙を涙と鼻水を流しながら書き上げてエマに手紙を預けた。

その時も「行って!」と言いながらも、ずっとエマの足ににしがみついていた。


「こんなことをして、何の意味があるのでしょうか?」


そうファビオラに問いかけるエマに「マスクウェル殿下のためよ!」と言ってファビオラの意志は固かったのだが、体は嫌だと反発しているのか言うことを聞かないのだ。


「エマアアアァァ!早く届けてぇっ」


という叫び声を上げたファビオラを置いて、エマはスタスタと歩いていき手紙を持って行ってしまった。

手紙を届けてもらう間、ファビオラは部屋の中をずっとウロウロしていた。


手紙を送ってから、ファビオラが手紙に書いた通りマスクウェルはピタリと会いに来なくなった。

自分で言っておいて何だが、かなり悲しい。


一週間は立ち直れずにいたのだが、ファビオラはその間食欲も出ずに部屋に閉じこもりながら涙を流していた。


「いい加減にしないと、マスクウェル殿下を呼びますよ?」


珍しく怒っているエマに首根っこを掴まれて部屋から出され目が覚めたことで、本来の目的を思い出す。



「そうだわ……!ざまぁされる前にマスクウェル殿下に相応しい立派な淑女兼悪役令嬢になってみせると決めたじゃない」


「意味がわかりませんので、きちんと食事をしてください」


「それなのにわたくしったら!落ち込んでる場合じゃないのよ。しっかりと自分を鍛えなきゃだめよっ」


「意味がわかりませんので、きちんと食事をしてください」


「そしてマスクウェル殿下の前で失態を犯さないように昂る気持ちを制御するの!」


「…………」


「待ってて、マクスウェルで……っ」


「ファビオラお嬢様、まずは食べましょう。話はそれからです」


「ひっ、ひゃい……」



何故か般若のように恐ろしい顔をしたエマの手のひらがファビオラの頭をがっしりと掴んでいて身動きがとれない。

ファビオラはあまりの恐怖に小さく首を縦に振りながら返事をする。


どうやらエマはここ数日、ファビオラがろくにご飯を食べずに泣いていたことが心底、許せないようだ。

まずはエマの言う通りにしようとミルクリゾットを食べて、入浴をしてから身なりを整える。


そして次の日から父と母に用意してもらった講師達に厳しいレッスンをしてもらおうと思ったが、この三年間で王妃教育も終わっていたため「教えることはもうありません」と言われてしまい、あまり意味をなさなかった。


けれど何かが足りない。

今後、これ以上嫌われないために必要なことは何かを考える。

そして思いついたのはエマとの特別訓練である。

画家に描いてもらったマスクウェルを前にデレデレしない訓練……つまりは彼の前で表情を取り繕う訓練を始めたのだった。


(これもマスクウェル殿下のため……っ!)


今、椅子の前にはマスクウェルのリアルな肖像画の顔を切り取った仮面を付けているエマがいる。



「じ、準備できたわ……!」


「いきますよ?」


「はぁ……今度こそ!絶対大丈夫なんだからっ」


「…………ファビオラ」


「うぐっ……!」


「ファビオラ」


「~~~っ、はい!ありがとうございますっ」

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