第16話
───パシンッ!
容赦なく飛ぶエマからの喝と頬を摘まれてしまう。
「あたたっ……!」
「やり直し」
「……はぁい」
そんな毎日を繰り返していると、徐々にマスクウェルに対する耐性がついてくる。
紙のマクスウェルには大分慣れてきた。
それから再び瞑想に滝行と精神を鍛え上げて、いつも表情が微動だにしないエマに表情を変えないコツを教わる。
約束のパーティーと学園の入学を一ヶ月前に控えたある日のこと。
ブラック伯爵邸に大きな箱が家に届く。
それはファビオラ宛で、誰からの荷物かというと……。
「見て、見てみてっ!エマ、見てよ!見てみてッ」
「見ています」
「マスクウェル殿下からわたくしにって、ドレスが届いたのっ!信じられないわ!こ、これはパーティーにきていいってことよね?」
「はい、そうでしょうね」
「どうしようどうしよう……!嬉しすぎて鼻水がっ」
「……。合わせてみましょうか」
「そ、そうねっ!」
完全に浮かれながらドレスを箱から取り出した。
シンプルではあるが、大人っぽくて綺麗なドレスが目の前に広げられた。
髪を結えてから優しい赤い色の生地のドレスを着用した後、鏡で確認してみる。
動くとキラキラと光るサイズもピッタリで体のラインも綺麗だった。
特に意味はないだろうが、ハート王家を象徴する赤色のドレスをプレゼントしてくれたことも嬉しくてファビオラは両手を合わせて感動していた。
「…………素敵」
思わず漏れる本音。
ファビオラはドレスを着た自分の姿に釘付けになっていた。
「さすがマスクウェル殿下ですね」
「え?」
「ゴホン……何でもありません」
「変なエマ。でもサイズまでピッタリだわ!マスクウェル殿下……すごいわ」
「…………」
「一生の宝物にしましょう 」
マクスウェルからのプレゼントが嬉しくて感動していた。
彼にはよく思われていないし、距離を置いているにも関わらず、まさかドレスがプレゼントされるとは思っていなかったからだ。
ご褒美ともいえるサプライズにファビオラは浮かれきっていた。
そんな時、扉を軽快にノックする音が響く。
いつものように返事をすると、慣れた様子で部屋の中に入ってきたトレイヴォンはこちらの様子を見て足を止めた。
「ビオラ……?そのドレス、どうしたんだ」
「レイ……!いい所にきたわね!見てみて~!フフッ、マスクウェル殿下からまさかのまさか、ドレスが届いたのよ!パーティーに着て行くドレスッ!素敵でしょう?」
「…………あぁ」
「えへへ~」
デレデレしながらもトレイヴォンにドレスを見せていた。
彼は複雑そうな表情を一瞬だけ浮かべた後にいつもの表情に戻った。
「じゃあ、今日のドレスを選びに行く予定は中止だな」
「あー……うん、そうね!そうなるわね」
「全く。その様子だと俺との約束も忘れていただろう?」
「大変、申し訳ございませんでした」
「はぁ……」
今日はトレイヴォンと共に街に行って、マクスウェルと出席するパーティーのためにドレスを選びに行こうと思っていたのだ。
やはり男性目線と女性目線ではタイプが違うのではと思い、いつも暇そうにフラリとブラック邸に現れるトレイヴォンの意見を取り入れようと思っていたのだが、マスクウェルから直接プレゼントされた以上、もう必要なくなってしまった。
それにより「今日は気合いが違うわ!時間厳守で来てよね!あ、街に行く時の格好で来てよ!ただでさえ、レイはイケメンなんだから」と、口うるさく言っていたせいか申し訳ない気持ちになる。
実際、トレイヴォンは言われた通り時間を守り、服装も指定された通りだ。
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