第14話
「……」
「…………っ!」
二人の間に、今までにない気まずい沈黙が流れた。
ファビオラの全身の毛穴から汗が噴きだしていく。
エマも何かやらかしたのだと状況を把握しようと頭をフル回転させているようだった。
ワゴンを持ったまま珍しく固まっている。
ずっと長い時間、地獄のような時間を過ごして数秒……。
マクスウェルの形のいい唇がゆっくりと開いた。
「…………君の気持ちは十分、わかったよ」
「へ……?」
「目が覚めてよかった。僕は失礼するよ」
「…………は、ひ?」
立ち上がって部屋から出て行くマスクウェルの後ろ姿を見ながらファビオラは動けずにいた。
エマがマスクウェルを案内するために早足で彼の後を追いかけていった。
どのくらい時間が経ったのかはわからない。
その間「マスクウェル殿下にここまで付き添ってくれた御礼をいわなくちゃ」とか「わたくし、何を喋ったんだっけ?」と答えが出ないことをぐるぐると考えていた。
エマが部屋に戻ってきたことはわかっても、声すら出せずにいた。
「…………ファビオラお嬢様」
「……ッ」
「大丈夫ですか?」
エマの声に、ファビオラの体の力がフッと抜けてベッドの後ろに倒れ込んだ。
そして「うわぁあぁあぁん!」と、子供のように泣きながらベッドの上に伏せになりゴロゴロと体を左右に動かした。
「どうしようぅうぅ、やっちゃったあああぁ!マスクウェル殿下の前でッ、マスクウェル殿下の前でぇぇっ」
「落ち着いて下さい、ファビオラお嬢様。マクスウェル殿下は……」
「うわあぁん!エマァァァッ!エマァアアァァッ」
「……うるさいです。お嬢様」
「クールゥウゥッ、でも好きぃ」
布を持ってきたエマに抱き着きながらファビオラはワンワンと失敗を嘆いていた。
砂糖たっぷり紅茶を吹き出したかと思いきや、失態を晒した挙句、本人の前で悩み相談をしてしまったようだ。
「絶対に嫌われたぁあぁっ!もう嫌われているけど好感度は地の底よ!もう無理なのよぉぁぁ」
「……ファビオラお嬢様」
鼻水がエマのエプロンと鼻を繋ぐのを軽蔑の眼差しで見ているエマを気にすることなく泣き続けて数十分。
溜息を吐いたエマが珍しく「大丈夫ですよ」とデレてくれて落ち着くまでファビオラを抱きしめてくれた。
ファビオラがやっと落ち着いて、叫び過ぎて声がガサガサになった後……カチャカチャと微かに食器が擦れる音。
少し冷めた紅茶を目の前に出されて肩を揺らしていた。
紅茶に映る顔は涙でぐちゃぐちゃだった。
「完全にマスクウェル殿下に嫌われてしまったのね」
「そうでしょうか……?」
「わたくし、いつもエマに話しているようにマスクウェル殿下のことを語ってしまったのよ!?」
「それなら逆によかったと思い……「よくない!よくないわよ!それに好きって言ったら無視されたのっ」
「気が動転しただけではないでしょうか」
エマは布でファビオラの鼻水や涙を拭っている。
ファビオラは鼻を啜りながら、ある決意をする。
「エマ、聞いて!わたくし、少しマクスウェル殿下と距離を置くわ!このままじゃダメッ!耐えられないっ」
「はい……?」
「その間に立派な淑女兼悪役令嬢になってみせる。マクスウェル様に婚約を破棄されるその日まで、隣に立っていても恥ずかしくないように!失態を犯さないように鍛えるのっ」
「御言葉ですがファビオラお嬢様……方向性がおかしくないでしょうか?」
「このままマスクウェル殿下に拒否されたら、絶対に立ち直れないもの……」
「それが本音ですか?」
「──止めないでエマ!もう決めたのッ!あなたもそう思ったのでしょう!?
「違いますけど」
「エマの言っていることはいつも正しいし、今日もとっても可愛いけど今回だけは譲れないわ」
「意味のわからない勘違いばかりしていないで、話を聞いてください」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます