第13話

「それに今日、マスクウェル殿下の顔面に見惚れていたら、ついつい紅茶にお砂糖入れ過ぎてしまったわ……!えへへ、でもさすがエマね。あの手捌き惚れ惚れしてしまうわ。あっ、何でああなったかって言うと、マスクウェル殿下が何でわたくしにだけ塩対応なのかってことを考えていたからで……まぁ、少し寂しいけどマクスウェル殿下のためなら何でも我慢出来るわ!欲を言えば、優しく微笑み掛けてもらったりなんかしちゃったりして!フフッ、そしたらまるで本当の婚約者同士みたいになれるのかしら」


「…………」


「ああ、言わなくてもわかってるわ。本当はマスクウェル殿下に嫌われているのかしら。笑ってくれないし、一緒にいても詰まらなそうにしているもの。でも嫌われてたっていいの!わたくし愛に生きるって決めたから!たとえ使い捨てにされるだけだとしても、マスクウェル殿下の幸せを見届けるまで生きていこうって決めたのに……わたくしったらダメね」


「…………」


「エマ、怒らないでね。でもマスクウェル殿下が別の人と結ばれたら……結ばれたら、多分ご飯が一週間くらい喉を通らない自信があるわ!でもトレイヴォン様が〝そうなっても俺がもらってやる〟って言っていたし、大丈夫よね?三年前のあの約束はまだ有効なのかしら……エマはどう思う?」


「……!?」


「でもね、正直なところ……こうしてマスクウェル殿下と過ごすとどんどん欲張りになっていくの。こんなわたくしじゃマクスウェル殿下に嫌われちゃうわ……!ねぇ、エマ。さっきからわたくしの話を聞いてる?怒ってるなら機嫌直してよ。わたくしはエマの幸せも勿論、願ってるし……そういえばこの間、縁談がきたって言っていたけど、やっぱりわたくしは受けるべきだと思うの!」



ノックの音が聞こえて、バタンと扉が開く音と共にファビオラは

体を起こす。

ワゴンを引いたエマがこちらににやって来る姿が見えた。

それと同時に紅茶の良い香りが立ち込める。

ここでファビオラが何かが違うことに気づく。


(あれ……?何でワゴンを引いたエマが扉からやってくるの?)


エマから「ファビオラお嬢様、目が覚めたのですね」と冷静な言葉が聞こえた。

エマが今、扉から入ってきたというのなら今、誰と話していたのだろうか。


(き、気のせいよ……!たまたまカタンって音がして、わたくしが勝手に一人で喋っていただけよ!そ、そうでしょう!?誰かそうだと言って)


冷や汗がタラリと流れていく。

ギギギッと首をゆっくりと動かすと、ベッドの横に座っている人物を見て思いきり目を見開いた。


(───ギャアアアアアァアアァァッ!)


自分が今、早口すぎて何を言ったのか思い出せなかった。

エマにいつも語りかけるようにして喋ってしまったのはマスクウェルについてだ。

つまり本人に相談していたということになる。


(わ、わたくし……マスクウェル殿下に何を言ったの?)


答えは自分の心内を全てである。

鋭い視線にファビオラはエマに助けを求めるように視線を送る。

ただ自分が普段、エマに話しているような気持ちを赤裸々に喋ってしまったことだけは理解できた。


しかしエマはまたいつものようにマスクウェルの前ではしゃいでいただけだろうと思っているのだろう。

エマのフォローを期待できないと思ったファビオラは人差し指を合わせながら視線を泳がせる。



「あー……」


「…………」



目の前に座っているのは、氷のような表情でこちらを見ているマスクウェル。

その瞬間、ファビオラの頭が真っ白になる。

思考を停止したファビオラの口から咄嗟に出てきた言葉は自分でも予想できないものだった。



「あっ……好きです」

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