第10話

わざわざあんな辺鄙な場所まで行って、なんていう輩がこの学校には居ないしな。

そう付け加えて、美島さんは今度こそじゃ、と風のように去って行った。

俺はもう引き止めず、お疲れさまですと頭を下げた。

美島さんが見えなくなった途端、ぢくしょうううびしまめぇぇと、息を吹き返しテンション上げ上げの優津にも頭が下がったが。


結局、手がかり皆無のまま貴婦人の部屋に舞い戻ってきていた。

そろそろ下校時刻だ。

演劇部の部室から、締めくくるような丹後さんの声が聞こえて来る。


「よし、この裏に出て見よーぜ」


小躍り気味な優津のHPってどのくらいあるのだろうか。

というか、美島さんに削られた分はもう回復済みなのか?

いつまでも元気満タンな背中を追い、半地下から脱出できる階段を上がり、非常口と書かれた鉄のドアをくぐり抜けた。

鍵は内側から開けられた。

簡単な施錠に非常口とはいええらく不用心な気がしたが、塀の高さを見て納得した。

非常に高い。

別館三階建てより高い。

塀の向こうは確か見取り図では大通り。

…大通りとの高低差を補う塀の高さということか。

ここに金銀財宝があるって確信がないかぎり、忍び込んでも意味はなさそうだ。

それにしても、もう夕暮れが終わりかけてる。

半地下に居たから気付かなかった。

俺がそんなことを気にしていたら、優津は落ち葉を踏みしめ遊び始め、足元の小窓を見つめ大喜びしていた。


「たねうまっあった、あったよ小窓!」


まるで子供みたいに全身で喜びを表現する優津。

とても同級生とは思えない所行だ。


「でも、小さいな」


「…ああ…俺はまずはいれない…それに」


ちょこんと小さくしゃがみ込み、その窓に触れる優津。

開けようとしているが、開かない。

大体窓の前に重そうな調度品の背中が見えている。

仮に開いたとしても、それをどかすことはできない。

よって、


「ちぃいい入れねぇじゃん!」


枯れ葉を踏みつけ強烈なじたんだを踏み、勢いに任せて優津が踵を返そうとした。

俺は、思うところがあったから、


「優津、ちょっと待て」


それを止め、最終下校の鐘が鳴り響き、辺りが薄暗くなるのを待つことにした。


「なんでーたねうまーもう最終手段はピッキングだよ王様だよ」


目をくるりとまん丸にして訴えられ、俺はそれに同意する。


「…ああ、ピッキングするつもりだ…」


「おお!さっすがたねうま!応戦的だぜ」


言葉運びの意味がちょっと分からないが、俺が同意したのが嬉しいらしくフラダンスのように腰を左右に振り出す。

これは初めてみるな。

男子高校生が気味悪いダンスを踊る図。

見ないでおこう。

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