第11話

あたりが大分、暗くなる。


「…そろそろ、だな」


「おっしゃああ、ぶち開けてやんぜこんちき」


テンション最高潮の優津の背中を追い、俺は肩をごきりと鳴らす。

まあ、ぶち開けてみるけれど。

結末はどうなるのか、分からないけど。

優津が望んだ調査だ、やるだけやろう。

水面下で考えていたのを、使ってみよう。

なんて決意を胸に、婦人の部屋の前に再び戻った。


時間管理の厳しい演劇部員はすでに下校しており、廊下は非常灯だけがついていて、かなり不気味な状態になっていた。

俺は少し躊躇いつつも、暗いと色々と作業しにくいので、壁を這って蛍光灯のスイッチを入れた。

優津はドアノブの前で無言ではしゃいでいた。

気味が悪い。

俺は優津がいつのまにか入手していた針金で鍵穴を探り始めた。

こんなことをするのは初めてだ。

けれど、もし俺の考えが正しければ。


かちゃ


「…今、かちゃってゆーたよね」


地獄耳の優津が、興奮を抑えながら聞いてくる。

俺はそれに無言で頷き返す。

ゆっくり優津がドアノブを回し、手前に引いた。

蝶番が金属音を軋ませながら、そのドアを円滑に暴くサポートをして俺たちの前に。


「…」


「…」


傷だらけの壁を見せつけた。

意図的に、付けられた。

苛立ち紛れに、付けられた。

あらゆる感情が入り交じった芸術作品のような、剥き出しのコンクリの、壁だった。

ドアの裏側は鉄に覆われ、奇妙な形の突起物がいくつも付いていた。

不気味な拷問具のような様に、うざいうるさいハエよりうざったい奴を、心底呆然とさせている。

すごいな、本当にこいつは。


「な、んだよ!壁っ壁じゃんか!なんにもないのかこんちき!」


そうして苛立って壁を叩いた。

当然叩いた拳は痛い、痛いからすぐに諦め探るように壁を触る。


「なんだよー結局まじでふんづまりじゃんかよー」


えいっと上履きで壁を蹴る。

今度は軽くやっているらしく、何度も試みていた。

俺はそれを制して、そっとドアを締めた。

オートロックらしく、締めた途端にまた開かなくなった。


「むきーなんなんだこんにゃろめーっ」


内心さっきから優津が発するでかい声で、誰かに見つかるんじゃないかとひやひやしていた。

けれど、考えていた通り、誰も来ない。

ここには、来ないのだ。

あらかた興奮し終わったのか、優津はやれやれと自分で自分の肩を叩いた。


「はー…結局分からずじまいだな」


どうやら優津の中でカタはこれでついたらしい。

だったら俺のカタも済ませてしまわないと。

どう転ぶかは分からないが。

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