第9話

こってり美島さんに絞られた優津は涙目だった。

そして無言だった。

紺のセーター、ネクタイの柄、担任への罵声と直球すぎる真実を突きつけた諸々の罪を言及されたのだ、仕方がない。

それにこれもいつも通りだ。

弁士優津を唯一口でけちょんけちょんにできるのは、風紀員の鬼番長、美島さんだけなのだ。

いつでも管理して頂きたいくらいだ。


「まったく、どうして優津はこう人様に平然と迷惑を掛けられるのか」


腕を組み優津を一瞥、そして俺に同意を求める。


「…まあ、これが優津ですから…」


「なんだかんだ言って、君が優しいから…それによくこんなうざいうるさいハエよりしつこいコレと友達続けられるね」


出た、毒舌。

酷い言われように優津が反論しようとするが、口を開いて諦める。

職員室での叱咤がよほど効いているようだ。


「…まあ…俺も不思議だとは感じてて…でも良いトコもあるんですよ、コレ…」


涙ぐみ小鼻を膨らませている優津、何が詰まっているのか謎な頭に手を乗せて、


「…俺の、友達、ですから」


色々思うところを引っ張り出せば、気負いすることなく誰とでもつき合える、付き合ってくれる良い友人なわけで。

今回の調査も、友人だから乗ったのだ。

決して自分だったら思いつかない、体験できないような出来事に、見事に巻き込んでくれるから。

俺の世界も広げてくれようとしてくれるから。

そう意味を込めて、よしよし頭を撫でてやる。

やっぱちっさいはこの頭。


「…ま、傍にいる君がきっちり管理してくれると、助かるんだけどな」


柔和に顔を崩した所を見ると納得してもらえたようだ。

一応長い付き合いだもんなこの人とは。


「じゃ、俺はまだ仕事が残ってるからこれで」


「…美島さん、ひとついいですか?」


風のように去るのが美島さんの常なのだが、俺はひとつだけ聞きたいことがあったので呼び止めた。


「…この辺りも風紀員は見回りするんですか?」


優津が貰った別館の見取り図を広げ、ある一角を指し示す。


「んー?いや、この辺りはしないな」


「…どうしてですか?」


「答えは二つ、演劇部が時間管理に厳しいから、と見回りルートに入ってないからだ」


簡素で素早い答えは、美島さん特有だ。


「演劇部はとにかく時間に厳しい。下校時刻を過ぎる奴なんかは許さないんだってさ。練習時間は練習時間、下校は下校。だから、創立からずっと見回りルートは変えてない」


「…それは、どうして?」


変な質問をされている、というような体だったけど気にしない。

むしろ無言の優津が気になる。


「演劇部の体制に生徒会がいつも太鼓判を押してるからかな?後俺も、必要ないと思ってるから」

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