第6話 ノーセント・シーディス
今日受ける選択授業は剣術だ。授業をするために集められたのは大きな訓練場だった。
「これから剣術の授業を行う。指導を行うフィーラ・サンネルだ。今日は最初に基礎的な訓練を行い、その後模擬戦を行ってもらう。しっかりついてこい」
「まずは素振りからだ。とりあえずそうだな…1000回ほどやってもらおうか」
ざわっ
思ったより少ないな…と思っていたら周りがなぜかざわついていた。どうしたんだ、と思っていたら
「せ、先生!1000回はいくらなんでも多すぎませんか?」
「む、そうか?すまぬな、私は今年ここの担当になったので基準がよく分からんのだ。まあ一旦やってみてもらおうじゃないか。難しそうであれば、今後調整していこう。さ、始めてくれ」
俺は特に苦労しなそう、なんならいつもやっているのより少ないのですぐに素振りに意識を集中させた。
30分ぐらいたっただろうか。素振りを1000回終わらせ、ふと地面を見ると誰かの手が見えた。
「どぅえ!?」
ついつい変な声が出てしまった。いや、しょうがないだろ。誰だってビビる。落ち着いて周りを見てみるとそこには生徒が大量に転がっていた。
「……何この地獄絵図」
「お、レグシェルはもう終わらせたのか。優秀だな」
「ありがとうございます、てか何ですか。この地獄…じゃなくて転がっている生徒たちは」
「ああ。これはだな――」
「先生、私も終わりました」
シーディス君だった。他にも素振りを終わらせることのできた者はいたようだが皆息も絶え絶えといった感じだ。
「シーディスも終わったか。このあと模擬戦を行う予定だったのだがな…この通り他の奴らはみな力を使い果たしてしまったようだ。これでは試合ができないな…」
「それなら―」
シーディス君が声を上げる。
「残っている者でやったらいかがでしょう。他の者は観戦という形で」
「うむ、そうだな。では、やれる状態の者は挙手をしてくれ」
手を挙げたのは俺とシーディス君だけ。
「……二人だけか?他の者は」
皆全力で首を振る。
「皆体力があまりないようだな。これからはランニングでも何でもして、体力をつけることをお勧めするぞ……さて、二人には試合をやってもらう。ルールは試験の時と同じでスキル、身体強化等使ってよし。先に一本取った方が勝ちだ。両者、準備はいいな?」
「「はい」」
「それでは……はじめッ!!」
「ハアッッッ!!」
力強い踏み込みで一瞬で間を詰められる。
「ッ!?」
(噓だろ!?まだ身体強化は使ってないんじゃ...!だが、ビビってる暇はないぞアリオスト!はやく、防御を!)
ガアアアアアン!!!!
剣同士がぶつかり合う音が訓練場に響き渡る。とっさに剣を横にして防いだが、これはやばい。
(なん、なんだ、この重さッ!学生の剣の重さじゃないだろ!)
その間にもシーディス君は剣を振るう。脚、胴、腕。今のままじゃ受けるだけで精いっぱいだ。
「くッ、《
腕に身体強化を施し何とかはじき返す。
「私の剣をはじくとは。流石Aランク冒険者から一本取っただけのことはあるな」
「そっちこそ、流石は《王の剣》の家系ってか?信じられんくらいに重い剣だったよ」
「……ッ!そうか、貴様もそうなのか……本気で行くぞ。
ダンッ!!
さっきより動きが速い。だがなんだ……太刀筋が乱れてる?よくわからんが俺にとっては好都合。その乱れ、利用しない手はない!
俺は反撃に出ることにした。ずっと防御をしていたこちらから攻撃を繰り出せば相手は動揺する。彼が一瞬動きを止めた隙に《剣術》スキルを駆使し、最初の彼の動きを模倣する。脚、胴、腕。とにかく打ち込む。しかし防がれる。だが、これでいい。
「ッ!」
急に反撃を受けたことによる一瞬の動揺と焦り。それを待っていた。体制が崩れた彼の腕を打つ。痛みで剣を落とした彼の首元に剣を当てる。
「これで俺の勝ち」
「……降参だ」
シーン……
何故か静まり返っていた。
「…あの、先生?終わりましたけど」
「…ッ!あぁ、すまない。少し考え事をしていてな。とりあえず、今日の授業はこれでおしまいだ。皆帰っても良いぞ」
先生はそう言うとさっさと訓練場を出て行った。するとなぜか皆がこちらに寄って来ようと動き出し…たが、一瞬怯えたような顔をして、今度は離れていった。
(……なんだ?)
「おい」
首を傾げていると何やら顔を険しくしたシーディス君に声をかけられた。
「何かな、シーディス君」
「どうやったら、そこまで強くなれるのだ」
「どうって?」
「貴様も知っているだろう。私がシーディス家の人間だということは」
「そりゃもちろん。《王の剣》でしょ?」
「そう、それだ」
「それ?」
「……少し、聞いてくれるか」
そういってシーディス君は語りだした。
-ノーセント・シーディス-
私はシーディス家の人間として生を受けた。シーディス家は先祖代々王家に仕え、剣としての役割を果たしている。私も将来その役目に就くため小さなころから剣の鍛錬は欠かさなかった。幸いにも私には才能があったらしく、剣の腕はめきめきと上達していった。私自身剣が好きで、暇があれば剣を振っていたさ。王のもとで剣として動く父に憧れていたんだ。
そして時は過ぎ、7歳の時。私はウォルター殿下の護衛となった。殿下の護衛は大変ながらも楽しいものだった。だが、この立場にいると必然的に聞きたくないことでも耳に入ってくる。王族と近い立場にいる私に対する妬みや僻み。それだけならここに立つ者なら仕方がないと思えた。だが……次第に称賛さえも聞くのが嫌になってしまった。そういう時は決まって家の名を出された時。
流石シーディス家の――
《王の剣》は――
シーディス家に生まれたことは誇るべきことなのに、そんな風に感じる自分が嫌になった。でも、家じゃなくて自分を見てほしい。家名ばかり出さないでくれ。そう思ってしまった――
「……とまぁ、こんな感じだ。私はシーディスの性を持つものとして相応しくあろうと努力を続けてきた。それこそ、剣術においては同年代のものに負けることはないと自信を持てるくらいには努力したんだ。だが"シーディス家に生まれたから強さを持っている"そんな風に思われているような気がした。だから、だろうな。そんな私を超えていったお前に嫉妬したし、その強さの理由を知りたくなった」
語り終えたシーディス君は、とても苦しそうな顔をしていた。
「そう、だったんだ……待って、俺じゃあめっちゃ失礼なこと言ってない!?
バッ!と、全力で頭を下げた。だが、何の反応もないので怒ってるのかな…と顔を上げると、彼はポカンとしていた。俺が困惑していると、俯いて肩を震わせた。
「……クッ、ハハッ!」
すると、急に笑い出してしまったので、またまた困惑。
「!?」
「いや、すまない、フフッ。今までそんなことを言ってくる奴はいなかったものでな。ついつい笑ってしまった」
「そうなの?」
「あぁ。それに、今まで誰かにこのことを話したことはなかったからな。気が緩んでいたんだろう」
「そ、そう……あ、そういえば」
「ん?」
「俺さ、昨日の朝ランニングしてるとき見たんだよ。シーディス君の素振りしてる姿。邪魔しちゃ悪いと思って話しかけたりしなかったんだけど」
「……意外だったか?」
「いや、全然?逆になんで意外に思うのさ」
「!そう、か。そうだな」
シーディス君はなぜか笑顔になった。
(?まあいいか)
「あ、それで、俺の強さの理由を知りたいんだっけ」
「あぁ。ぜひ教えてくれ」
「そんな大層なもんじゃないけど……答えは簡単。実践だよ」
「実践、とは模擬戦の事か?それなら私もしているが?」
「あー違う違う。俺の言う実践ってのは命と命の奪い合い、的な?」
「そ、そんな危険なことをしているのか?」
「あ、ごめん言い方悪かったね。モンスターとの戦いだよ。実は俺もう冒険者登録してあってさ。君が暇なとき剣を振っていたように、俺は暇なときモンスターを狩りに行ってたんだ」
「なるほど冒険者か…」
「おっ興味ある感じ?今度の休みギルド行ってルーナの登録ついでに依頼受けるつもりなんだけど…一緒に行く?」
「いいのか?」
「もちろん!人多いほうが楽しいしね」
「じゃあ、私も行かせてもらいたい…だが、殿下の護衛が――「それなら問題はないぞノース!」
後ろから違う声が聞こえてきたので、俺とシーディス君は反射的にバッと振り向く。そこにいたのは――
「で、殿下!?いつの間に!?」
そう。ウォルター・ルヴァント・ディリクトリー殿下其の人だった。
「ノースがレグシェルに話しかけたところからだな!それはそうと私も行くことにしたぞ!ノース!民と触れ合うことは王族としての責務だからな!」
「……本音は?」
「ノースだけがそんな面白そうなことをするのはずるい!」
「取り繕えてない!てかシーディス君殿下の扱い慣れすぎ!?」
「言っただろう、殿下の護衛は大変だと」
「そういえば言ってたね!なるほどこれは大変そうだ!」
「ハァ...レグシェルよ。構わんだろうか」
「俺はいいけど、逆に良いの?それで」
「良い。というか、こうなってしまった殿下を止めるのは無理だ」
シーディス君。何やら全てを諦めてしまったかのような顔をする。苦労してんだね……
「じゃあそう言うことで。ルーノにも言っておくよ」
「ああ。よろしく頼む」
「うん。じゃあまた、シーディス君。ルヴァント殿下」
「レグシェル。その、私の事はこれから、ノースと呼んではくれないだろうか。家名で呼ばれると距離を感じる」
「え、いいの?じゃあ改めて。これからよろしくねノース。あ、俺の事はアーリーでいいよ」
「!あぁ。よろしくなアーリー!」
「二人だけずるいではないか…」
あ、殿下がいるの忘れてた。
「それなら、俺のことアーリーって呼んでもらって構いませんよ」
「本当か!ならそうさせてもらおう!それから、私の事はウォルと呼んでくれ!できれば敬語も外してほしいのだが…」
キラキラと目を輝かせた殿下に見つめられては、折れるしかなかった。
「わ、わかりまし…じゃない、わかった。ウォ、ウォル。これからよろしく」
「うむ、よろしく頼むぞ、アーリー!」
こうして俺は友達が二人増えたのだった。
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面子すごいけど頑張れルーノ!
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またお会いしましょう。ではでは~
《想像魔法》は俺専用につき ゆにらくる @yuni-rakuru
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