第44話甘く私に迫って来たエレノアにまた会いたいです。

「私が好かれたいのはエレノアだけです。愚かな国民にどう思われるかなど、心底どうでも良い話です。帝国の要職試験に夢を見るだなんて、愚かだとは思いませんか?前回より帝国の領土が広がっているので、合格率なんて1万人に1人くらいになるでしょう。合格すれば帝国の爵位がもらえ一流の衣食住が保証されるらしいですね。前回の要職試験で宰相職を射止めたのは帝国の敵国だったエスパルの平民出身の主婦ですよ。しかも2人の子持ちです。子供の教育費も全部帝国持ちになるだとか、周りに夢を見させる広告塔ですよね。帝国は浅はかな人間を騙すのが得意ですね。」

彼は自分が裕福な国の王族に生まれたから、生まれで苦労した人の気持ちがわからないのだろう。

エスパルの平民は教育の機会も与えられず、徴兵要員でしかない。

そんな生まれで苦労した女性が、どんな思いで子供を連れて帝国の要職試験を受けに来たのか想像もできないのだろう。


「レイモンドは帝国の宰相職についたリーザ・スモア伯爵がどのような方が分かっていないようですね。ダンテ補佐官のお母様ですよ。彼の弟も薬を作れるくらい優秀だったと聞きませんでしたか?エスパルは平民には教育をしません、彼女は教育を受けられる機会がなかっただけで優秀な人材だったというわけです。そういった今まで生まれで損をしていた人間を掘り起こしているのが今の帝国です。どんな高倍率でも優秀な人間は登用されます。サム国から優秀な人間がどんどん流出してしまうことに危機感を感じてください。人材は国の何よりの財産です。浅はかなのはあなたの方ですよ、レイモンド。14歳の誕生日は婚約破棄書をプレゼントしてくれるとありがたいです。」

ビアンカ様が早々サム国から帝国に移住したのは、今回の要職試験までにサム国は帝国領にならないと見込んでのことだろう。

やはり彼女は先見の明がある聡明な方だ、すでに彼女のような優秀な人材の流出ははじまっている可能性が高い。


「エレノアは約束を全然守らない悪い女ですね。私の膝の上にのって、額に口づけして私のことを好きになる努力をすると言ってませんでしたか?」

レイモンドは私の前髪をかきあげて、額に口づけをしてきた。

確かに私は彼の額に口づけをしてそんなことを言ったが、彼だって15キロ太るという約束を守っていない。


「膝の上に私を今のようにのせて来たのはレイモンドですよね。私が自発的にのったわけではないです。この体勢は好きではありません。私のこと自分の所有する人形のように扱ってませんか?私は、婚約しているのだからあなたを好きになる努力をしていますよ。好きにさせてくれないのは、あなたではないですか。」

私は彼と関わるたびに、彼の自己中心的で自分勝手な性格にうんざりしていた。


「好きになる努力をしているのなら、婚約を破棄する理由はないではないですか?甘く私に迫ってきたエレノアにまた会いたいです。どこに行ってしまったのですか、彼女は。最近、エレノアは私に対する当たりが強いです。嫌われて婚約を破棄しようという魂胆なら無駄ですよ。私はエレノアを手放す気はありません。あなたを人形などと思ってませんよ、可愛い私の婚約者だと思っています。」

私を覗き込んでくる海色の瞳に映る私はいつも鏡で見る私より可愛く見えた。

女遊びを極めると、相手を可愛く見せる能力まで得ることができるのだろうか。


「レイモンドが会いたがっているエレノアは旅に出ました。戻ってくる予定はないようです。私はあなたの好きなところをいつも探しています。怒らないところも好きですし、自分に自信があるところも羨ましいと感じることもあります。私にはない飛び抜けた能力があるところにも魅力を感じています。それから、キラキラ光っている海色の瞳も好きです。泣いているのを見ないふりをしてくれたところも好きでした。話しやすい雰囲気を持っているところも好きです。魅了の力が効かないところも、私の秘密を知っても受け止めてくれるところも好きです。それから、」

私が彼を好きになる努力をしていないように言われたのが心外だったので、私は彼の好きなところを私の好きな海色の瞳を見つめ思い出しながら話した。


「エレノア、私はあなたの全てが好きです。」

私が丁寧に好きなところを羅列したのに、ざっくりとした返事を彼は返してくる。

なんだかとても損をした気分になっていると、彼は軽く唇の近くの頬に口づけをしてきた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る