第45話好き過ぎて、見つめ続けてしまったのだ。

「雨が降って来ましたね。馬車に移動しましょう。」

レイモンドがまた私を誘拐犯のごとく抱き上げてくる。

「待ってください。どうして、邸宅ではなく馬車に向かうのですか?」


「王宮に行って話しましょう。」

彼が返答してくれた時には馬車に乗せられ、馬車が発進していた。

相変わらず、動きが俊敏過ぎる。

やはり、彼は私がアゼンタイン侯爵邸の中に入らないで欲しいと言った意味を理解していない。

侯爵邸の中に入るのがダメなら、王宮に行けば良いという発想なのだ。


「レイモンド、私、試験前なので勉強をしなくてはなりません。侯爵邸に折り返しては頂けませんでしょうか?」

彼が俊敏な動きで私を馬車へと拉致したがために、ほとんど雨には濡れずに済んだ。

彼が私の隣に座り、ハンカチで私についた少しの雫を探すように拭いてくる。

彼にも雨の雫がついているのに、私を優先させてくれている。

自分の所有物としては大切にしてくれているということだろうか。


「私が王宮で教えますよ。私の飛び抜けた能力が好きだと言っていたでしょう。フィリップの教科書をのぞきましたが、驚く程簡単でした。」

さっきの話はまともに聞いてくれていたようだ、私が好きだと言ったところを見せようとしてくれて嬉しい。

雨の雫を拭いてもらって、申し訳がなくなり私も自分のハンカチを取り出し彼についた雨の雫を拭きはじめた。


「優しいエレノアが戻って来ましたね。最近、出現率の高かった婚約破棄を強いるエレノアも可愛かったですが優しいエレノアは最高に可愛いです。」

レイモンドは女の気を引く天才なのかもしれない。

流石、優秀な頭脳を活用し浮き名を流しまくって来ただけはある。

彼のことを好きではないはずなのに、思わずドキッとしてしまった。

そっと彼の顔を覗き見ると、彼の海色の瞳にときめいているような顔をした私が映っている。


「到着しました、エレノア、運びますね。」

レイモンドの運ぶという表現に少し吹き出しそうになった。

それにしても、侯爵邸から王宮まで30分近く私と彼は無言でほとんど見つめあっていた。


彼の海色の瞳が綺麗で好き過ぎて、見つめ続けてしまったのだ。

私はレイモンドが海に連れて行ってくれるまでは、海の色を知らなかった。

だけれどもレイモンドとフィリップ王子の瞳の色が海の色と言われているのを聞いてこんな色なのかと想像していた。


やはり最近は色々世界情勢の急激な変化により国内の様子も変わっているから、その対応に彼も疲れているのかもしれない。

いつもなら馬車の中でもどこにいても、彼はひたすらに私を口説いて来ている。


「レイモンド、待ってください。歩けます。申し訳ございません。歩けない設定は嘘でした。」

私は王宮内の人目の多いところで、お姫様抱っこされるということを避けなければと思い慌てて彼に呼びかけた。


「もう、嘘をつかないと約束をしたら許してあげます。約束しないならば、歩けないという嘘を貫き通すということで王宮内までお運びしますよ。」

彼はやはり怒っている様子はなかった、侮辱しても嘘をつかれても怒らないというのは私は怒られるのが怖い人間なのでありがたい。


「あなたに嘘はつかないと、この名に誓います。」

彼が私を抱え上げようと膝裏に手を入れてくるので、慌てて私は嘘をつかないと誓った。


「王太子殿下お探ししました。緊急の貴族会議のお時間です。」

レイモンドの補佐官が駆け寄ってきて言った言葉に私は思わず彼を見た。

こんなにも国内がざわついている時なのだから、貴族会議が連日開催されているはずだ。

彼はサボる予定だったのだろうか、それとも緊急というから突然決まった会議だったのだろうか。


「私は婚約者と約束があるので欠席します。」

レイモンドの言葉に彼が国が有事の時の会議より女を優先させる男だということが分かり失望した。

彼に魅了の力は効かないかもしれないけれど、魅了の力を使ってでも会議に出席させねばならない。


「貴族会議に出席してください。」

私は彼の腕を引っ張り、つま先立ちをして彼の耳元で願いを込めて囁いた。


「分かりました。エレノア。」

私の髪を撫でながら、微笑んで彼は補佐官と会議へと向かった。

魅了の力が効いたのか、私の言うことを聞いてくれたのか区別がつかなかった。

外を見ると急に雨が激しくなって雷まで聞こえてきて、怖くなった。

侯爵邸に戻るにしても雨が少しおさまるまで、時間を潰したほうがよさそうだと思い私は王宮の図書館に向かった。





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