第38話どうぞこちらから飛び降りてください。

「エレノア、3年間、私と過ごした後は魅了の力を消す薬を飲んでフィリップに乗り換えるおつもりですか?」

ダンテ補佐官が疾風の如く去った後、レイモンドが私を強く抱きしめながら言ってきた。

これが彼の発想なのかと驚愕した。

私はそんなことは少しも思いつきもしなかった。


私が当然のように3年居心地の良いレイモンドを利用し、魅了の力に縛られなくなったら彼を捨ててフィリップ王子に乗り換えると思っているのだ。

彼は本当に人を道具のようにしか思っていないのだろうか、21年間、豊かな国で国王になる未来を約束された生活をしているとここまで自分勝手な発想ができるようになると言うことだ。

彼の根本的な自己中心的で人を気分で利用する性格を変えるのは無理そうだ。


「エレノア、あなたは本当に酷い女です。コロコロ態度を変えて私を弄んで利用して捨てるのですね。」

彼の発想に驚いて言葉が出なかっただけなのに、沈黙を肯定と取ったようだ。

そして彼はどうしてすぐに被害者になりたがるのだろうか、いつだって彼は加害者な気がする。


「エレノア、本当にあなたを愛しているのです。」

そして彼は私をベットに押し倒してきた。

13歳の少女相手に既成事実でも作ろうとしているのだろうか。

もはや、いくら優秀でも王太子とか領主とか言っている前に人間をやめろと言いたくなる。


「いい加減にしてください。いくら私でもそろそろキレますよ。」

私は思いっきり彼の頬を伸ばして引っ張った。

15キロ太れと言っても、太ることさえできない変われない男。


やはり、彼はここで切っておくべきだろう。

13年魅了の力に気をつけ神経をすり減らしながら生きてきたのだ。

一生と言われれば一緒にいてくれる誰かが欲しかったが、3年なら行動制限をしながら耐えることができる。


「もう、お帰りなさいください。お見送りする気力もないほど疲れたので、どうぞこちらから飛び降りてください。」

私は彼が怯んだ隙に立ち上がり窓を開けて、彼に帰宅を促した。

「エレノア、先程まで甘い雰囲気で私に迫ってきたと思ったら、今度は冷たく突き放すのですね。駆け引きをしているのですか?どれが本当のあなたか分からなくなります。それでも、振り回されても利用されても構わないほどあなたを愛しています。」

レイモンドはベットに座り込み、私に訴えるような視線を向けてくる。


「飛び降りて、受け身を取る自信がないのですか?そういった授業もサボっていたのでしょう。どれが本当の私か分からないと言いますが、どれも演技だし、どれも私自身です。みんな色々な顔を使い分けながら生きています。21年も自分勝手な王族の顔しか持たずに許されてきたあなたとは違うのです。前回ダンテ様が去った後、私が帝国のスパイかどうか聞きましたよね。その質問は今回するべき質問ですよ。帝国は明らかにこの1年のあなたの政務への取り組みをチェックしていました。帝国のスパイの可能性が一番高いのはあなたの近くにいて帝国出身の私です。もし、私がスパイだとしても私に騙されるならそれでも構わないと思っているなら、今すぐ王太子の座をフィリップ王子に譲ってください。レイモンドの立場で振り回されても、利用されても構わないなどと言うのは無責任です。」


「エレノアは帝国のスパイなのですか?」

今更聞いてくるとは、信じられない。

彼は天才なはずなのに、自分の欲望を優先しすぎていて国民のことを考えられていない。


「違います。人は信じたいと思った言葉を信じますよね。私が違うと言ったら、今のあなたはその事実を調査などせず信じそうですね。私はフィリップ王子に乗り換えようなんて最低なことは考えていません。でも、婚約を解消してください。一生魅了の力と付き合うという事実に呆然として、居心地の良いレイモンドと一緒にいたいと思いました。でも、3年と期限が決まっていれば一人で頑張れます。」


「婚約解消はしません。今、婚約を解消するとエレノアはハンス・リード公子と婚約をすることになりそうです。あのような不躾な男にあなたは渡せません。」

ハンスもやりたい放題のレイモンドにだけは不躾などと言われたくないだろう。


「婚約解消してくれないのであれば、もう、アゼンタイン侯爵邸の中には入らないと約束してください。レイモンドとは常に屋外で会います。」

私は、先程、彼に押し倒されて恐怖を感じた。

力の差がある上に、彼には魅了の力も効かないから逃げようがない。

そして彼には13歳の私の身を自分勝手に自由にして、私がどれだけ傷つくかを想像する想像力もないのだ。

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